女勇者のお魚さんモンスター討伐伝説

 マーゴットのカレイド王国と、この西の小国カーナ王国には因縁がある。


 カーナの息子は、龍と一角獣の因子を持つカーナと、魚人族の王族との間の子供だ。


 生まれた子供がどのような姿になったかというと、基本は人の姿だった。


 変身すると、父方寄りの魚人の姿になった。

 両生類に似た、山より大きな身体と二の腕、二本脚を持った生物になったと伝わっている。


 討伐されてから何万年も今のカーナ王国の地下に封印されていた。

 ところが、そのカーナ王国が建国された約500年前に封印が解けかけて、邪悪な魔力の一部が北のカレイド王国まで魚人の怪物として来襲してしまったのだ。




「ねえ、カーナ。500年前にカレイド王国まで来た息子さんの一部って、やっぱりお母様カーナを求めて来たってこと?」


『多分ね。オレは守護者としてカレイド王国に痕跡をたくさん残しているから、オレの魔力に惹かれて来たんだろう』


 ただ、守護者とはいえカーナも常にカレイド王国に滞在しているわけではない。

 カレイド王国に辿り着いたはいいものの、お目当てのカーナを見つけられなかったカーナの息子の魚人は、国内で暴れに暴れた。


 カレイド王国はハイエルフを始祖に持ち、その末裔たちが良く治めていた千年単位の平和を享受していた国だ。

 良く言えば平穏。悪く言えば平和ボケしていたカレイド王国はあっという間に壊滅の危機に晒された。


 王族は皆、始祖のハイエルフの末裔だったし、カレイド王国は多種族の集まる国だったので魔力使いが多かった。

 それで国民が一丸となって魚人の怪獣に立ち向かったわけだが、本体より小さいとはいえ当時王都で一番高い建物だった王宮より大きな怪獣相手に苦戦することになる。




 このとき活躍したのが、後に女勇者と呼ばれることになる若い主婦の女性だ。

 早くに夫を亡くし、乳飲み子を抱えて働いていた主婦がその日、城下町の勤め先の商会に出勤したらそこは辺り一帯が瓦礫の山だった。


 遠くを見れば、魚人の怪獣が王都で暴れ回っている。



『今日は給料日だったのに!』



 カッとなった主婦は、速攻自宅に戻って台所から魚切り包丁を持ち出し、勇者に覚醒して魚人の怪獣相手に約2時間の死闘の末に討伐した。

 なぜ2時間かというと、背中に背負っていた乳飲み子の次の授乳時間までのタイムリミットだったからだ。


『マーゴット。女勇者の魚切り包丁はちゃんと持ってきたかい?』


「もちろん。女勇者と同じ赤毛の子孫のうち、一番、血筋順位の高い女性が受け継ぐ宝物だもの。ちゃーんと荷物の中に入っているわ」


 本当の本当に生活が成り立たなくなったら、貴族専門の質屋に入れて食い繋ごうと思っていたお宝だ。

 ご先祖様だって、子孫が飢えることは望まないと信じたい。



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