第3話

 ソーラ達が小さな村に着くと、そこはなんとも言えない、すえたような匂いがしていた。

「ここが、流行病の村ですか?」

「ええ、ルーちゃん。早速だけど村長さんのところに行ってみましょう」

 ジョイスが一番大きな家のドアを叩き、声をかけた。

「すみません、旅の物ですが村長さんの家を教えて頂けますか?」


 中から人の動く気配がした。ドア越しに声が聞こえる。

「……この村はもうダメだ。旅人さん、はやく出て行った方がいい」

「私、ソーラと申します。この村の流行病の治療をするためにまいりました」

「ソーラ……聖女様が!?」

 ドアが開く。


 そこに立っていたのは少し年をとった男性だった。

「私が村長です……。貴方は本当に、聖女ソーラですか?」

「はい」

 ソーラはそう言うと、男性の手をとり、目をつむって何か呪文を唱えた。

「!? 体が軽くなった!?」

「病気治癒の魔法を使いました。この村にはあとどれくらい、病気のかたがいらっしゃるのですか?」


「……この村には10の家族が住んでいるが、どの家にも病人がいる状態です」

「そうですか……。よろしければ、全ての家を案内して頂きたいのですが」

 ソーラの申し出に、村長は喜んで頷いた。

 ジョイスは渋い顔をしている。

「ソーラ様、そんなに魔法を使ったら貴方の方が病気になってしまいますよ」

「……大丈夫ですよ、ジョイス」

「私も、お手伝いします!」

「ありがとう、ルーちゃん」


 村長は着替えるので少し待っていて欲しいというと、部屋の奥に戻って行った。

「病気治癒の魔法をおしえていただけますか? ソーラ様」

「ええ。目を閉じて、相手のなかの黒くくすんだ場所を光で照らすイメージで……」

「はい……」

 ソーラがルネに魔法の使い方を教え終わった頃、村長が現れた。


「お待たせ致しました。一件ずつ回っていけば良いですか?」

 村長の問いかけに、ソーラは笑顔で頷いた。 

「はい、お願い致します」

「ジョイス、ポーションの用意もお願いします」

「はい。ソーラ様」


 村長の案内に従い、村人の家々をソーラ達はたずねた。

「ソーラ様、私も病気治癒の魔法をつかってみて良いですか?」

「そうですね……まず私に魔法をかけてみてください。大丈夫そうでしたら、村の人々の治療を手伝ってください」

「分かりました」

 ルネはソーラの手をとり、目をつむった。


 つないだソーラの手から伝わってくるのは、光り輝くようなすがすがしい心ばかりで、ルネは圧倒された。

「ルーちゃん、それでは逆に病気を酷くしてしまいますよ?」

「え!?」

 ソーラは悲しそうな顔をし、ちいさな声でルネに言った。


「ルーちゃんは、光ではなく闇を広げようとしていました」

「……!!」

 それを聞いて、ルネは心臓が止まるような気持ちになった。

「ルーちゃん、光の力は生まれつきの物。練習したら身につくと行った物ではありません」

「そんな……」

「貴方には闇の力が身についているようです。それも、かなり強い魔力です」


「ソーラ様、ルー、何を話しているのですか?」

「いえ、なんでもありません」

 ルネはため息をついてから、ソーラに訊ねた。

「それでは、私は聖女にはなれないのですか?」

「……私とはちがう方法を探せば……人を助けることも可能かも知れないですね」

「違う方法?」


「ええ、闇の力をつかって、人を改心させる方法があれば……ですが」

 ソーラの美しい横顔に、憂いの表情が浮かんでいる。

「ソーラ様、ルーが聖女になるのは難しいのでは無いですか?」

「ジョイス、決めつけるのは良いことではありませんよ」

 ソーラの言葉を聞いてルネは難しい課題だと思ったが、諦めずに頑張ろうと考えた。


 ルネの旅は始まったばかりだった。


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聖女見習いルネの秘密ー転生前は悪役令嬢でしたー 茜カナコ @akanekanako

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