第2話

「ソーラ様達は何故、旅をしているんですか?」

 ルネがソーラに訊ねると、ジョイスがため息交じりに言った。

「おいおい、お嬢ちゃん。そんなことも知らずに一緒に旅をするなんて言ったのかい?」

「うるさいわね、貴方には聞いていないわ」

 ルネはジョイスにそう言うとそっぽを向いた。


「まあまあ、二人とも。そうですね……私たちは有名な悪女が魔王を目覚めさせるのを阻止するために旅をしているんですよ」

 ソーラは微笑んでルネに言った。

 ルネは嫌な予感がして呟いた。

「その悪女の名前って……もしかして……」


「……ルネと言うそうです。……あら? 貴方と同じ名前ですわね、ルネさん」

「わ、私、そんなことしないわ!?」

 ルネが慌てて否定すると、ソーラは笑ってルネの頭を撫でた。

 ルネはその手から逃げ出すと、ソーラに言った。

「悪女ルネはその罪の大きさから処刑されました……年も私の倍はあったはずです」


「よく知っているわね、ルネ」

 微笑むソーラのわきでは、ジョイスが何か言いたげな表情をしてルネを見ている。

「……同じ名前だから気になっただけです!」

 ルネはそう言った後、手を前憎んだまま、とぼとぼと二人の後を歩いた。

「とりあえず、悪女ルネの被害にあった村や町を回りながら、北の大地を目指しています」

「そうなんですね」

 

 ルネが黙ると、ジョイスが言った。

「なあ、ルネ。お前の名前なんだが他の呼び方を考えた方がいいんじゃないか?」

「え?」

 ルネが戸惑っていると、ソーラも言った。

「そうですね……処刑されたとはいえ、ルネと聞けば人々は辛いことを思い出すかも知れません……」

「……」


 ルネが黙っていると、ソーラは明るい声で言った。

「ルーちゃん、というのはどうでしょう?」

「ルーちゃん……ですか?」

「良いですね。さすがソーラ様。じゃ、これからはルーと呼ぶからな。分かったな、ルー」

「……わかりました」


 ルネは釈然としない思いを抱えたまま、その呼び名を了承した。

「さあ、ジョイス、ルーちゃん。次の町はなぞの流行病でこまっているそうです」

 ソーラは道の先の方を見つめた。

「助けに行きましょう」

 ソーラの言葉を聞いて、反射的にルネは『そんなの、放っておけば良いじゃない』と言いそうになった。


「ええ、ソーラ様。急ぎましょう」

 ジョイスの言葉で我に返ったルネは思った。

(やだ、私、悪女はやめたはずなのに……)

 ルネは自分の頬を軽く両手で叩いて、大きく息を吸った。

「ソーラ様、私も頑張ります!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る