第7話密約

ある日、帰りに課長が車に乗せてくれた。

入社4年目の28歳の9月の出来事だった。

「最近よぅ、他の課の課長からハヅの評判が良くてよう。飲みに連れて行ってやる。秘密にしとけよ!」

「はい、ありがとうございます」

「お前ら、ほぼ同期の3人はこの秋の人事異動で3人とも主任にあげたいが、3人同時は無理だで、来年の春、ハヅを主任にあげるからよぅ、今回は我慢してくれや」

「はい」

主任になると、うちの課では5年後係長が約束されている。

だが、僕は主任までで良い。野望はなない。

課長は、九州の地元でも珍しい「村尾」を飲ませてくれた。

その辺の安焼酎ではない。


「おい、ハヅ!ハヅは周りから何て言われてるか知ってるか?」

「はい。48時間男、羽弦再生工場、アル中です」

「いい、あだ名じゃねぇか!お前はどんなダメ社員も適材適所で使い分ける能力があるし、無理な残業も文句を言わない。だから、周りに好かれるんだ」

僕はイジメられて、耐えて、認められてようやくそれが実を結ぶ前に、この課長は秋の人事で地方に飛ばされた。

新しい課長は、便り甲斐がなく、僕が一番文句を言わないので、僕ばかり残業をするようになった。

でも、僕はそれで良かった。

春には主任になるし、最近は給料がキチンと◯十万円くらい出るし、

しかし、春の人事で僕は主任になれなかった。

前の課長だけの希望だったのだ。

それから、残業がバカらしくなってきた。

この頃から、記憶を無くすぐらい酒を浴びるように飲み始めたのだ。

連日の会社泊まり込みで、精神的に疲れが現れ始めた。

会社には、二階にシャワー室、洗濯機、乾燥機、ベッドがあるのでこの会社の夜勤の多を物語っている。

飲み仲間だけが、僕の身体を心配していた。

僕は滋養強壮剤を毎日飲んでいた頃である。


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