第100話 魔王ルシアナ

 魔王城の最上層。


 見上げれば、夜空が間近にみえる地点で、紫色の大魔力渦が発生していた。

 空間を歪めながら、なおも巨大化している渦はまさしく魔王城のコアに相応しい。


 みもりたちは魔力装甲アクラーゼを展開し、最上層でルシアナと激闘を繰り広げていた。


 みもりの苛烈な技が冴えわたり、リリカナの大太刀が華麗にふるわれる。マキドの大魔法が次々に繰りだされていた。

 ルシアナは、魔法と体術をもちいて三人と相対している。


 後世に語り継がれること間違いなしの激闘だが。

 周りは、学校のグラウンドとなんともしまらない場所だった。


 どうして最上層に、学校のグラウンドがあるかはわからない。

 そもそも魔王城の最上層にいたるまで、教室があったり、プールがあったり、さらにはお洒落なカフェがあったりと、混沌もいいところだったのだが、これはきっと魔王が自分たちをかどわかすためなのだと、みもりたちは奮起していた。


 そして、みもりの手甲が、ルシアナに炸裂する。


「亜土先生流! 双撃!」

「ーーーーー⁉」


 ルシアナは苦痛に顔をゆがめながら、ふっ飛ばされる。

 ずざざっとグラウンドの土に線を引きながら、十数メートルは後退した。


「ふふっ……さすがは小さな勇者たち、魔王であるこのボクをここまで追いつめるとはね」


 ルシアナは腹をさすりながら、みもりたちを見据えた。

 まだどこか余裕がありそうなルシアナに、少女たちは構えなおす。


「みもり! 気をつけてください! 魔王がなにか狙っていますよ!」

「うん! わかってる! ここまできて負けられないからね!」


 まだまだ戦意旺盛な少女たちに、ルシアナがくくくと笑う。


「くくく……あはははは!」

「んー? 魔王ちゃん、なにが面白いのー?」


 リリカナが大太刀を肩に担ぎながらたずねると、ルシアナは口元を大きく歪めた。


「面白いに決まっている! 第一段階のボクに善戦したぐらいで、勝てると思っているんだからね! ボクは魔王だ! 真の姿があるに決まっているだろう!」


 ルシアナはさらに強さを増してみせると豪語した。

 それでも退く気のない少女たちを、ルシアナは小馬鹿にしたように笑う。


「はっ、それでもまだ闘うつもりなんだ? いいだろう、君たちはこれから本当の絶望を味わるんだ!」

「――時間稼ぎはやめるんだ。ルシアナ」


 その聞き覚えのある声に、全員が視線をやった。


 タクティカルベストを着た全身ズタボロの亜土が、グラウンドを歩いてくる。

 勝ったのだ。鬼に。死闘のはてに。

 それを察した少女たちは、亜土のもとに笑顔で駆け寄ってくる。


「亜土先生!」「亜土せんせー!」「亜土さん!」

「ただいま、みんな。なんとか勝ったよ。あいててて……」


 亜土が苦痛に耐えながらに微笑む姿に、少女たちは勇気をもらう。

 まだルシアナとの勝敗は決していないが、もう負ける気なんて全然しなかった。


「そう……。ボクの亜土先輩は……負けちゃったんだ…………」


 一方ルシアナはうつろな瞳で、すべてがどうでもよさそうに地面を見つめていたが。亜土たちの視線に気づいて、余裕綽々の笑みを浮かべてくる。


「それじゃあ次はボクがお相手しようじゃないか、亜土先輩」

「ルシアナ」

「真の姿でお相手したあとは、魔王の本気の姿を――」

「ルシアナ。真の姿も本気の姿もないだろう」

「どうして、それを…………。ボクの亜土先輩を殺してないの?」


 ルシアナがすがるような瞳で見つめてくる。

 亜土はほだされそうになるも、厳しい表情で答えた。


「殺していない。オレがオリジナルとして統合した。その際に、アイツの記憶も引き継いだ」

「……そーなんだ」


 ルシアナはすべてを悟ったように、肩の力を抜いた。

 戦闘を放棄したルシアナを見て、みもりが亜土にたずねてくる。


「亜土先生、どういうことなんです?」


 亜土は、あどから引き継いだ記憶を思い出しながら、三人に告げる。


「ルシアナは、魔王じゃないよ」

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