第53話 大魔法祭②
高等部の生徒もスタートし、大魔法祭はさらなる賑わいを見せていた。
マキドたちの快進撃はつづき、リンが祭りを盛りあげんと中継動画内で煽りまくっている。
『北條選手! 幻想料理部のアツアツ漫画肉をぺろりと平らげたああああ! 幼い少女の胃袋に、おっきいものが納められるうううう!』
みもりは頭より大きな漫画肉を食べきってみせる。ついでに、大食いチャレンジ用とは思えない丁寧な下ごしらえの肉を褒めちぎり、料理部員に可愛がられていた。
お次はリリカナだ。
『黒糖選手! 幻想ファッションショーで、あぶない水着をつけての登場だああああああ! 審査員も観客も魅了してのぶっちぎりのハイスコア! さすが魔族! さすが魅了術の達人! けれどいいのか相手はちびっこ! 事案だぞおお⁉』
リリカナはあぶない水着を見せびらせながら、審査員や観客を煽情的に煽る。
「小さくても可愛いいならー?」
「「「ありでーーーーす‼‼」」」
「だよねー❤」
リリカナは愛嬌をふりまいて、会場を盛りあげていた。
そうしてマキド。
『妻夫木選手! 魔法射的部で堂々のパーフェクト! ツンと澄ました表情の裏で、いったいなにを想うのかああああ!』
マキドは黒髪を手ではらい、澄ました表情で立っていた。
「マキドちゃんはねー、大人びた態度がかっこいいと思っているんだよー」
「ちょっとリリカナ! 余計なことを言わないでください!」
三人が獲得したトロフィーポイントはすべてマキドに集め、マキドはランキングで依然トップのままだ。伝統戦で知名度があがっていた問題児たちは、大魔法祭で間違いなく台風の目になっていて、コメントは可憐な小学生たちに注目だった。
11歳ですごい。11歳がいい。11歳はすばらしい。
そう、誰もが、11歳を褒めちぎっている。
『北条選手! 幻想ロボット部にて人工ゴーレムをなぎ倒すうううう!』
「任せてください!」
『黒糖選手! 刀剣部にてプレートアーマーの試し斬りに大成功うう!』
「やはー❤」
『妻夫木選手! 占星部にてラブラブハッピー指数MAX達成! 高坂代理講師との相性バッチリを証明してみせたあああ!』
「当然です……って、なんで私は高坂さんと恋占いをしているんです⁉⁉ リリカナ‼ 私たちにいつ魅了術をかけました⁉ みもりは『次はわたしの番』なんて顔をせずに、止めてください!」
と、途中ハプニングはあったものの、順調に大魔法祭を周っていけた。
亜土と三人娘は今、屋根付きの休憩所でジュースを飲みながら休憩中。
大魔堂学園は敷地が広大だ。要所要所にこういった休憩所がある。自動販売機のジュースも錬金科の生徒が工夫を凝らした、体力・魔力が回復する優れもの。国認可済み。
片っ端から
スタートから時間も経ち、
といっても亜土はほとんど口出しせず、三人娘に任せていた。
亜土が集めていた情報を、マキドがうまくまとめていたからだ。
「――この道に、ハイストライカー・ゲームがありますね。ハンマーに魔力をこめて鐘をならすゲームですが、みもりがいるので楽に高得点を出せるでしょう」
「わたしが今すぐ一人で行こっか?」
みもりの提案に、マキドがゆっくりと首をふる。
「チームで行動するのが一番効率がいいです。分散しなくても良いルートを構築しますので大丈夫ですよ。それに、みもりはみんなといるほうが力がでるタイプですし」
そう説明していたマキドの頬を、リリカナがつんつんと突く。
「マキドちゃんマキドちゃん、次に周るところは低ポイントのだけどいいのー? カップルで一緒に空を飛ぶだけで、競いあうやつじゃないよー?」
「リリカナはやる気が下がるとパフォーマンスが露骨に下がるじゃないですか」
「あはーっ、わかってるぅー❤」
元々広い視点を持っている子だけに、マキドはこのポジションがしっくりくるなと亜土は思った。
亜土は三人が吞んだジュースを片づけていると、みもりがたずねてくる。
「亜土先生、高等部の勇者部には行かないんですか? 大魔法祭で一番高ポイントの試練ですよね? なんだか避けているみたいですけど」
「うん。安心院先輩がはりきっていると聞いたからね」
「安心院先輩がはりきると……どうなるんです?」
「中継動画を見てから、みんなに決めてもらおうと思ってさ」
亜土はスマホを取りだして、中継動画を探した。
ちょうど、リンの中継動画が勇者部を映していたので、見てもらうことに。
『安心院先輩! 挑戦者を返り討ちだああ! 誰一人彼女に触ることができません!』
『はああ……。姉さんを倒せなんて、こんなの誰が攻略できるんだよ……』
拓いた森のすべてが、氷ついていた。
アイスキャンディのように固まった木々。木の実はツララに。木の葉の絨毯は氷の絨毯に変貌している。吐く息すら凍てつきそうな世界の中で、氷華は冷たい表情で立っていて、彼女の側には氷のトロフィーがぷかぷかと浮かんでいた。
みもりが寒そうな顔をしながら、中継動画を見つめた。
「す、すっごく、寒そうです。……氷の特設会場ですか。たしかにはりきっていますね」
「ああ、みもりは見たことないのか。この氷の世界が、安心院先輩の
「えっ⁉ こんな
「かなり珍しい、結界型の魔力甲装だね。展開するには時間がかかるけれど、一度展開してしまえば……っと、ちょうど挑戦者がきたから、見てみようか」
氷の世界に、元気な女生徒が足を踏みいれた。この女生徒に、亜土は見覚えがある。
たしか、中等部の勇者部にいる炎使いだ。
『安心院先輩! 今日こそ、その冷たい顔をアチチアチチと歪ませてみせますよっ!』
『そう。防護魔法はかけてもらったと思うけれど、気をつけてね』
『く、くううっ! 絶対ムリだと思っていますね! やらいでかーーーっ!』
元気な女生徒が両拳をガツンとかち合わせて、ざっと駆ける。
一気に距離を詰めて、速攻で終わらせる気だ。
『
元気な女生徒は、拳から初級火魔法を連続で放つ。
精度も速度も申し分ない。よく鍛えられた魔法だったが、氷華は涼しい顔で横に避ける。
『――そしてぇえええ、牽制からの!
元気な女生徒は、地面を拳で殴りつけた。
しかし、なにも起こらない。不発だった。
『フ、
『……まさか、私の
『え、えへへ……ギリ合格ですか?』
『アウトよ』
元気な女生徒の足元から、雪の竜巻が発生する。女生徒は『びゃへええええ』と叫びながら、選手待機地点にある焚火のもとまでふっ飛ばされていった。
みもりが目をまばたかせる。
「い、今のは……相手の魔力を奪ったのでしょうか……? それに、無詠唱で氷の上級魔法を唱えていたような……」
「ああ! 安心院先輩の
次の挑戦者があらわれた。高等部のチームのようだ。
実力があるようで、仲間とうまく連携しながら氷華を追い詰めていたのだが。
『
氷華がそう呟くと、猛吹雪があっという間に画面を覆いつくした。
次に画面が晴れたとき、氷の世界でただ一人、氷華だけが佇んでいる。挑戦者チームといえば、ガチガチにふるえながら焚火にあたっていた。
みもりが信じられない表情で動画を見つめている。
「あ、亜土先生……今、大魔法らしきものを詠唱なしで……」
「ああ、大魔法だよ! 本来、一工程の魔法をきちんと唱えて繋げなければ発動はできないのだけれど、安心院先輩の雪月花は、一度放った魔法が『一工程として場に残る』んだ。そうやって以前に唱えた分を繋ぎ合わせることで、無詠唱並みの速度で大魔法を発動する。さすが安心院先輩だ!」
「亜土先生が超早口……。うう……ライバルが強すぎます……」
氷華をライバル視しているなんて、さすが、みもりは向上心が高いと亜土は思った。
「高坂さん、どっちの味方ですか?」
マキドに睨まれ、亜土はこほんと咳払いする。
亜土が勇者部に真っ先に行かなかったのはこれが理由だ。
はりきっている氷華を見せてから、マキドたちがどうするのか決めて欲しかったのだ。亜土なりの氷華対策はあるが、今回はマキドたちでどう立ち回るか考えて欲しい意図もある。
「それで、妻夫木さんたちはどうする?」
「挑戦します」
マキドは即答した。
「避けることも選択肢の一つだよ?」
「……勇者部のエースと闘える機会なんてそうありません。安心院先輩もルールに縛られた状態なら、全力ではないでしょう。それなら、私は自分を……」
マキドが、ううんと首をふる。
「三人で、挑戦してみたいです」
三人。と、マキドはたしかに言った。
リリカナがにまーと微笑みながらマキドと腕を組み、みもりは嬉しそうにマキドの背中に抱きついた。
「な、なんですか! なんなんですか! あなたたち!」
「だってさー。ね、みもりちゃん?」「ねー、リリカナちゃん?」
照れるマキドを可愛がる二人。
今の三人ならきっと、自分の想像以上の活躍を魅せてくれる。亜土はそう確信した。
そうやってほんわか和やかムードに浸っているときだ。
中継動画を実況していたリンが、大興奮で叫ぶ。
『安心院先輩まさかの撃沈~~~~⁉⁉⁉ ランキングが大きく変動するぞおお‼‼‼』
氷華を倒した、
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