第49話 月夜の教室②
「なんでもと言いましたからね? 絶対ですよ」
マキドはそう言って、制服のボタンを上からゆっくりと外していく。下着をつけていないようで、半開きになった制服から真白い肌があらわになった。
「妻夫木さん⁉」
亜土があとずさると、マキドはすかさず魔法を唱える。
「
亜土の足元から粘土状の土があらわれて、あっという間に手足を拘束してきた。
「ぐっ⁉ ま、待て! 待とう⁉ 落ち着こう、な⁉ オレ、この手のセリフ何度目だよ⁉」
「なんですか、私が今からなにをするつもりなのかわかっているんですか?」
「ユニークスキルを試すつもりだろう⁉ 気持ちはわかるけど、まだ早いって!」
亜土の必死な説得を、マキドはさらりと返す。
「みもりやリリカナとはしていますよね」
「し、してないって! いくらそっちの体液のほうが効率がいいからって! 小学生のマキドには早すぎる! アウトだ! 違法なんだよ!」
「? そっちの体液……?」
マキドは不思議そうな顔をしたあと、みるまに顔を赤くさせた。
「そ、そっちの体液って⁉⁉⁉ へ、変態! 変態! 変態! なんで、そっちを想像するんですか⁉」
「妻夫木さんが半脱ぎ状態で迫ってくるからだよ……」
「そ、それは! キスをするとき、興奮していたほうがユニークスキルの効果が高まるみたいですから……! わ、私も恥ずかしいんですよ!」
マキドは平らなお胸をすこし隠しながら言った。
羞恥心を感じる冷静さはあるようで、少し安心した亜土は言い聞かせる。
「思いつめすぎだよ。なんでもするとは言ったけれど、妻夫木さんがなんでもしていいわけじゃない。もっと自分を大事にするべきだよ」
「みもり。リリカナ」
「そ、それは、緊急事態なのもあったわけで……」
「もう一人、毒牙にかけるだけです」
「しません。なにを犠牲にしても強くなりたい気持ちはわかる。でも今の妻夫木さんは、ただ強くなろうと周りが見えなくなっている。……ミシュさんに勝つのが、妻夫木さんの目指したいことじゃないよね?」
本人は嫌がるだろうが、亜土は仕方なしに母親のことを触れた。
マキドも痛いところを突かれたのか、しばし黙っていたが。
「……高魔素負荷トレーニング」
「うっ……」
逆に、亜土は痛いところを突かれてしまった。
きちんと調べているなあと逆に感心していた亜土に、マキドは唇を尖らせる。
「高坂さんが魔力を失った原因ですよね?」
「そのとおりです……」
「高密度の魔素を体内にめぐらせて、一時的に魔素酔い状態にする高負荷トレーニングです。ファンタジー臓器が鍛えられて魔力向上が見こめますが、もちろん怪我のリスクもあります。だから未成年はとーくーに制限をかけられるトレーニングなわけですが、高坂さんはどうして試したんです?」
マキドの咎める視線に、亜土は正直に答えた。
「強くなりたいから……」
「……自分だけズルイです」
ズルイズルイと目で訴えられて、亜土は黙った。
自分ができていなかったことを説き伏せようとしても、マキドは絶対に納得しないだろう。
「……そりゃあオレのユニークスキルは怪我のリスクはないよ」
「強化以外でも、記憶や知識を受け渡すことができます。なら恒常的なステータスアップも望めますし、私が調べたところ高坂さんは『血』属性だったんですよね?」
「そういうことじゃない。妻夫木さんは女の子なんだ」
「私じゃ興奮しませんか?」
マキドがうるんだ瞳で、半開きの制服をさらにはださせた。
思わず、亜土はドキリとする。
マキドが普段ツンツンしている分、切なげに訴えてくる姿にギャップを感じていて、さらに二人きりの教室だ。どうしても意識してしまう。
「しないよ」
「嘘だって顔に書いていますね。安心しました。みもりたちに比べて、私は控えめなので」
「……カマをかけても無駄だからね」
「私、案外周りを見ているんです。高坂さんの癖ぐらいもうわかりますよ」
亜土は慌てて表情を動かしたが、マキドのカマに引っかかったことに気づく。
自分を意識してくれていると知ったマキドは、決心したような表情で近づいてくる。
「つ、妻夫木さん、そこで止まろう。な?」
「イヤです。大人しく小学生を毒牙にかけてください」
「ど、毒牙にかけられるのはオレのほうで――」
マキドの緊張した顔が近くにあった。上目遣いで亜土を見つめている。
幼くて、綺麗で、それに意思の強い瞳。
マキドは躊躇うことなく唇を近づけて――そして、カンッと歯を当てた。
「つう~~~~⁉」「つう~~~~!」
歯がぶつかり合って、お互いに顔をしかめる。
マキドは痛そうに手を口に当てていたが、キッと強い表情になり、涙目で唇をまた近づけてくる。
「待て! 待った!」
「な、なんですか! 私の失敗を笑う気ですか!」
「笑わないって! このままオレが拒んでも妻夫木さんが痛い思いするぐらいなら、オ、オレも腹をくくるから!」
「腹をくくる……?」
「オレからするよ。オレから妻夫木さんにキスをする」
マキドは目を大きくしたあと、恥ずかしそうに頬を染めた。
「わ、わかりました……! し、しょれでは、ま、魔法をときますね……っ」
マキドの声がすこしひっくり返っていた。
いまさら恥ずかしがらなくてもと思う亜土だったが、ちょっと殊勝な態度でモジモジとしているマキドの姿に、口を閉ざしてしまう。めちゃくちゃ可愛いと思ったのだ。
「……」「……」
長い無言が場を支配した。
けれどイヤな気持ちは全然なくて、むしろ気恥ずかしくて甘ったるいものだ。
小学生女子に動揺しまくるのは、はたして、まだギリギリセーフなのだろうかと亜土は真剣に悩んでしまう。
「は、はやくしてください……。高坂さん、私相手によく黙りますよね?」
「あ、ああ、なんでだろうね……」
本人に言ったら怒るだろうが、マキドはとても可愛い子だ。
素っ気ない態度も含めて、可愛いと思える。それは先生目線だからか、ファン目線だからか、亜土の中で答えはでなかったが、これ以上黙ったままの時間を作ると強く意識してしまいそうなので、亜土は一歩彼女に近寄った。
薄暗がりでよくわからなかったが、マキドの顔はいつになく赤い。
ドキドキした表情でいる少女の腰に、亜土は手をまわす。ぴくんとかすかな抵抗があったが、受けいれるようにだんだんと力を抜いていくのがわかった。
どこか期待した表情でいるマキドに、そうして、亜土は唇を重ねた。
「んっ……高坂さん……」
いつもピリピリしているお堅いマキドの、柔らかい唇の感触が伝わってきた。
亜土は優しく何度も唇を重ねて、少女はキスをじっくりと味わうように重ねてくる。
「ちゅ……んっ……」
唇も、息も、あっといまに熱を帯びた。
二人のあずかりしらぬところだが、亜土とマキドは
だから、亜土はかつてないほどファンタジー臓器の鼓動を感じていたし、マキドはマキドで理性がガタガタになるほど身体が熱くなっているしで、二人は速攻で興奮する。
「……ちゅ。息が熱いです。んっ……小学生相手に興奮しすぎじゃないですか?」
「こ、これはユニークスキルのせいで……」
「改めて言いますけれど……ちゅ……11歳とキスをしていることをお忘れなく」
少女が強がりを言わなきゃ理性を保っていられないのを亜土は察した。
だから唇を離して、すこし意地悪を言う。
「わかった。それじゃあやめるよ」
「……ダ、ダメです。私は、強くならなきゃいけないんですから」
マキドをねだるように亜土の胸元をきゅっと掴んできた。
あまりの可愛い仕草に、亜土の頭が固まってしまう。そうしていつまでもキスをしない亜土に、マキドは自分から唇を重ねていった。
「……ん、じゅる」
マキドの舌が入ってくる。あるいは亜土から舌をいれたのか。
「こうさかさん……ちゅる……んっ……ちゅく……」
マキドの舌が飴玉を欲しがるように、何度何度も亜土の口内で蠢いた。亜土も少女の折れそうな腰を抱きしめながら、少女の体温を奪うようにキスをする。
今だけはユニークスキルを忘れて、二人は相手を求めるように舌をからめあう。
お互いの理性は、もはや紙を水に浸すようにボロボロに溶けていった。
「んんっ……ちゅ……くちゅ……」
そうして、亜土の意識が真っ白になっていく――
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