第48話 月夜の教室①

 モンスターの群れは、ユニークスキルで強化されたみもりが蹴散らして事なきを得た。そのままダンジョン最奥の魔力渦を破壊して、本日の訓練は終了。


 みもりもリリカナも晴れ晴れとした表情を見せる中、マキドは浮かない表情をしていた。


 ダンジョン攻略中、マキドの動きはあきらか精彩に欠けていた。

 亜土は口には出さなかったが、モンスターの群れとの戦闘を避けていたのは、マキドが絶不調だと気づいていたからだ。


 原因は母親で間違いない。

 派手に負けたのが、やはり尾を引いているのだろう。


 みもりたちを解散させたあと、亜土はどうすべきか悩んだ。

 教え子の問題であればいくらでも力になりたいが、家族が関われば事情が変わってくる。だからといって、このままにもできない。


 寮で晩御飯を食べ終わったあと、マキドがリラックスしている時間を見計らい、メッセージを送った。


『今すこし話せるかな?』


 すぐに返信がくる。


『私も高坂さんとお話ししたかったところです。今から旧部室棟に来れますか?』


 なんで、どうしてと亜土の頭でよぎったが、マキドからのお願いはそうそうない。

 アレコレと詮索する前に、彼女の望みをまず叶えるべきだと思った。


『わかったよ。今すぐ行くね』


 そうして寮共有の自転車をこいで、夜中の旧部室棟までやってくる。


 森からはホーホーとフクロウの声が聞こえ、月明かりに照らされたオンボロ家屋は迫力がある。そこまで怖いとは思わないのは、鬼洞本家の敷地のほうがもっとジメジメして暗いからだろう。


 亜土は自転車を玄関に置いて、中に入る。

 きぃきぃと床を軋ませながら、『勇者部(本物)』と書かれた教室前に立つ。

 初めてこの教室に訪れたときは、みもりが着替えていて大変な目にあったが、今となっては良い思い出だ。いや良い思い出だったかなと首をかたげながら、静かに扉をあける。


「妻夫木さん、入るよ」


 マキドは、窓際近くに佇んでいた。

 月明かりが教室を照らしているが、それでもうす暗い。

 ただ、少女が思いつめた表情をしているのはわかった。


「わざわざおこしいただいて、ありがとうございます」

「オレは三人の力になると決めているからね。妻夫木さんが望めばオレはなんだってやるよ」

「……なんでも、ですか」

「ああ、なんでもだ。代理だけど……先生として、それに一ファンとしても、オレは三人の力になりたいんだ」


 亜土がまっすぐに見つめながら言ったが、マキドは無反応だ。

 完全に黙りこみ、じいーーーと見つめてくるので、なにかマズいことを言ったのかと亜土は困り笑みを浮かべた。


「……あ、あはは、ダメかな?」

「……」

「…………えーっと、妻夫木さん?」


 亜土がお伺いをたてるような視線を送ると、マキドが唇を固く結んだ。


「なんでもと言いましたからね? 絶対ですよ」


 マキドはそう言って、制服のボタンを上からゆっくりと外していく。下着をつけていないようで、半開きになった制服から真白い肌があらわになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る