第43話 合法
『マキド魔法ぶっぱなしすぎ事件』の翌日。
ユニークスキル+魅了術のコンボは理性が溶けると言ったところで、亜土が舌を嚙みちぎって耐えればいい話。なんの言い訳にもならない。
身体中の痛みは、小学生女子(11歳)に手を出しかけた罰だと思うことにした。
(妻夫木さん、怒っていたけど会話はしてくれたから、完全に信頼を失っていないはず……)
これ以上、信頼を無くさないように気をひきしめねばと、亜土は強く誓った。
と、ぺこんとスマホにメッセージが届いた。
マキドからだ。
『今日の部活は遅れます。もしかしたら、今日は部活に参加できないかもしれません』
『わかった。他に伝えることはあるかな?』
まだめちゃくちゃ怒っているらしい。当たり前だが。
ほんとしっかりしなければと亜土が両頬をぺしぺし叩きながら、バス乗り場に向かおうとして、足を止める。
花壇の側に、女の子がいたからだ。
「ん~……ここはどこかしら~???」
白い長髪の女の子だ。中学生ぐらいか。
糸目の可愛らしい子で、もしかしたら小学生かもしれない。亜土は決して、幼い女の子だから立ち止まったわけではなく、少女が目を引く格好をしていたから立ち止まっていた。
なにせ魔女帽子に魔法使いのローブと、クラシックなウイッチスタイルだ。
白髪の女の子は、旅行鞄に腰かけながらうーんうーんと困っている。
「困ったわ。とっても困ったわ。この学園はとっても広くて、道に迷っちゃうもの」
白髪の女の子はそう言って、亜土をこれみよがしに見つめてくる。
あきらか声をかけられ待ちだったので、亜土は苦笑しながら歩みよって行く。
「えっと、迷子かな? どこに行きたいの?」
「まあまあまあ。あのねー、迷子じゃないのよ? でもーちょっと目的地が意地悪したみたいで、ワタシから遠ざかったみたいなの」
「そ、そうなんだ」
白髪の女の子はニコヤカに言った。
なんともすっ飛んだ言い訳だなあと思っていると、亜土は少女の顔に見覚えがあった。
「……あれ? 君、どこかで見たことがあるような?」
白髪の女の子が頬を染めた。
「ひゃー……それってナンパ? ナンパなのかしら?」
「ナ、ナンパ⁉ そ、そんな意味はなくて、どこかで見たことあった気がして!」
「あらー、前世のご縁とでも言いたいの? もしかしたら運命の出会いを感じさせちゃった? ワタシも罪作りな女ねー」
白髪の女の子は頬に両手をあてて、恥ずかしそうにした。
「ほ、ホントそんな意味はなくて! これっぽっちもやましい意味はないから!」
ただでさえ最近ロリコン疑惑がかかっている。
中学生、もしくは小学生かもしれない女の子を口説いていた噂なんて広まったら、さらに肩身が狭くなってしまう。
「そっかー……ワタシ、やっぱりもう魅力なんてないのかなー……」
白髪の女の子が寂しそうにうなだれた。今にも泣きそうだ。
「そ、そんなことない! 魅力的だよ! 年が近かったらよかったのにと思うぐらい!」
「あらー? そんなに熱く口説くなんて、アナタもしかして悪い子かしらー?」
白髪の女の子が表情をコロリと変えて、楽しそうに微笑んだ。
からかわれているのだろうか。少女の独特なテンポにふりまわされている気がする。
亜土は変に注目を集める前に、少女を目的地まで連れていくことにした。
「……そ、それで、行きたい場所があるんだよね? オレでよければ連れていくよ」
「ほんとー? 助かるわー。あの子、一時間でも遅刻したら怒るんだもの」
「……一時間も遅刻すればそりゃあ怒るよ」
「ワタシの迷子癖を考えてくれてもいいのにねー」
「やっぱり迷子だったんじゃないか……ああ、いや」
少女と話しているとだんだん本題からズレるなと、亜土は頬をかいた。
「生徒の家族? だよね? 会いに来たのかな」
「ええ、とってもとっても大事な子に。会いにというより、連れ戻しにきたのだけどね」
白髪の女の子はそう言って、優しそうに微笑んだ。
〇
マキドは痛む身体を引きずりながら、大魔堂学園の商業施設までやってきた。
スーパーやアイテムショップ、武器防具ショップやらリラクゼーションルームやらと、学校の敷地内とは思えない充実した施設。
学校帰りの生徒たちがキャッキャと声を弾ませる中、マキドの顔は険しかった。
(どうしてあのとき、高坂さんのを、ふ、太ももでさすろうと思ったのでしょう……)
ユニークスキル+魅了術のコンボが決まっていたとはいえ、完全に痴女だ。
術が解けたあとも、別にそんなにイヤな気持ちにはならなくて、もしや自分は相当えっちな女の子ではないかと、寮に帰ってからもベッドで悶々としていた。
(もう忘れましょう……。今はもう一つの厄介ごとです)
朝方、身内から急に『学園に行くねー』とメッセージが送られてきた。
突然なのはいつものこと。
そして待ち合わせの場所にいつもどおりいなかったのが、マキドの頭を悩ませた。
(大人なら大人らしく、大人しくしていてください! まったく、あの人は……)
なので彼女が興味を持ちそうな商業施設まで、マキドはわざわざ探しに来たのだ。インフォメーションセンターで迷子のお呼び出しをしようか考えたが、恥をかくのは自分なのでやめた。
マキドは身内が面倒を起こす前に、さっさと見つけ出したかったのだが。
(え……?)
その身内が、亜土と一緒にショッピングをしていた。
「まあまあ、錬金科の生徒さんが創ったこの魔法符は面白いわ~。時間差で連鎖起動するようになってる……ほとんど爆弾みたいねー」
「それ、
「なるほどー、観点がまず試合ありきなのねー」
身内はニコニコ顔で楽しそうにショッピングをしているが、亜土は戸惑った表情で両手いっぱいに買い物袋を抱えている。
「オレ、なんで買い物に付き合っているんだっけ……?」
「えー、ワタシとデートしたいって言ったじゃなーい?」
「……そうだっけ?」
「そうよ~。忘れたなんてひーどーいー」
身内が頬をふくらませて怒ったので、亜土はさらに困った顔をしていた。
(おおかた、あの人のワガママに巻きこまれたのでしょうね……。さっさと顔を出すべきなのでしょうが……)
しかし、アレの身内だと思われたくない。
今もあんなに子供っぽいムーブをかましているし、絶対にイヤだ。
マキドはディスプレイの鎧に隠れながら様子を見守っていると、身内が急におかしそうにふきだした。
「ぷぷっ」
「ど、どうしたの? 急に笑い出して」
「いえねー、あの子と初めてデパートで買い物したときのことを思い出して――」
「――ちょっと待ったです‼‼‼」
マキドは鎧の影から飛びだして、待ったをかけた。
過去の恥部を語られる前に、姿をあらわしたほうがなんぼかマシだと思ったのだ。
「あー。マキドちゃんー。遅かったねー」
待ち合わせ場所にもこず、買い物をはじめていたのは誰ですかとマキドは言おうとしたが、亜土の説明を求める瞳に言葉を詰まらせる。
「妻夫木さん? えーっと、二人は知り合い?」
「し、知り合いというかなんというか……」
マキドは口ごもる。
よりにもよってなんで出会って欲しくない二人が出会っているのかと思いながら、誤魔化すことはできないと嘆息吐いた
「……この人は、
「はーい、マキドちゃんのママ、妻夫木ミシュエールちゃんでーす!」
マキドが恥ずかしそうに目を伏せる中、白髪の女の子――妻夫木ミシュエールは両頬に人差し指を当てて、可愛らしくそう言った。
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