第42話 宝箱のなかにいる!

 亜土とマキドは、真面目な話をしていた。


「妻夫木さんは、大魔法祭を一人で参加するんだ」

「いけませんか?」

「チームで回れば、有利だよ?」

「あくまで学生側が一時的に組むものですよ。チームごとのポイントはありません。チームを作って参加しても、1人を他メンバーが支援する、いわばマスターズカップ式みたいになるでしょうね。今回、学園が特例を熟慮すると言いましたし、以前みたくチームを作って攻略は……仲間割れの原因になりやすいと思います」

「……1人でどこまで出来るか、試そうとしていない?」

「それは……きゃっ! こ、高坂さん、動かないでください!」


 亜土が腕の位置を変えたので、マキドが身をよじらせた。


「ご、ごめん、腕が痺れちゃって!」

「ちょ、ちょっと腕の位置! そこはダメです!」

「わ、わかった! すぐに変えるからっ!」

「やんっ……わ、わざとやっていません⁉」


 亜土とマキドは、抱き合うような態勢で密着していた。


 なぜなら二人は、宝箱の中にいる。


 どうしてこんなことになったのかは、いつものパターンなのだが。

 市のイベント大会で、大魔法を盛大にぶっぱなしたマキドは、プレイヤーを不用意に乏しめてはいけないと、運営側から注意を受けた。対戦相手の評判が元々悪かったようなので、大事にはならなかったが。

 ただ、大魔法を長時間行使して、マキドの魔法力はほぼ空になる。


 結局、団体戦までは回復しきらず、そのまま棄権。

 帰り際、住宅街にたまたま低レベルのダンジョンが湧いたので、当初の目的であるパーティー戦をおこなうためにも、タクティカルベストはなかったが攻略しに向かった。


 あとは、いつもの流れだ。


 みもりの魔力が暴走して、リリカナが率先して罠を踏み、そして亜土とマキドが穴に落ちて、小部屋に閉じこめられる。


 小部屋には宝箱があった。あっかさらますぎて怪しかった。

 ダンジョンはたまに宝箱が湧く。魔力渦が冒険者を捕まえるためのトラップなのだが、ちゃんと引っかかるように、たまに価値のある素材や原石を容れるのが嫌らしい。

 鍵がある可能性を信じてあけてみるが、やっぱりミミック型の宝箱で、二人はあっさりと捕まっていた。


「こ、高坂さん! も、もう少し離れてください!」 

「こ、これ以上は限界なんだ」


 こうして亜土は、ブルマ姿の小学生女子と密着していた。

 ミミックの内部はなんだか生温かいし、ムワムワとする。密着状態で魔法を使えば二人共傷ついてしまうだろう。なので、みもりたちの助けを待つことにした。


 ただ、男と女が密着状態。

 二人は妙な空気になるのを避けるべく、真面目な話をしていた。


「も、もういいです……私が我慢しますので話をつづけましょう」

「あ、ああ、そうだね。……うん、大魔法祭を1人で参加するのに意義はないけれど、高等部の人たちとどうやって競い合うつもり?」

「新しい武器を考えています。光属性の魔法でなにかできないか考えていますが、厳しいですね」


 マキドが物憂げな表情をしたので、亜土は思わずドキリとした。

 瞳は綺麗で、まつ毛は長い。きっと将来美人に育つのだろう。


(⁉ いやドキリとじゃないぞ⁉ オレ⁉)


 密着状態で不埒なことを考えるのは、そのまま社会的な死に繋がりかねない。

 亜土はなんとか正気を保とうとする。


「ち、光か……。難しいところだね、立ち上がりの遅い魔法だし、リスクも大きい」

「え、ええ……ですから普段は使いやすい炎と風と土と水の四属性で立ち回っています。こ、この四属性で、光の欠点を補えればいいのですが……ん……」

「う、うん……」


 亜土は、マキドを抱きしめたくてムズムズしていた。

 マキドは、亜土に寄りかかりたくてモジモジとしていた。

 さっきから頭がボーッとするし、なんだか身体が無性に熱いわで、二人は同時に気づく。


「高坂さん、ユニークスキルを発動させてません?」


 マキドは軽蔑するような声で言った。


「み、みたいだ」

「はあ……。こんなときに最低ですね。いくらなんでも変態すぎませんか?」

「ど、どうも二人の汗が溶けあったから、か、勝手に発動したみたいで……」

「へ、変な言い方をしないでくださいっ!」


 マキドが真っ赤になって身体を揺らしたので、二人はさらに密着してしまう。

 普段は近づくと嫌そうにする少女が急接近。肌は柔らかいし、お日様のような匂いがするしで、亜土の理性はゆさぶられた。


「うっ……! 妻夫木さん! う、動かないで!」

「動きたくて動いたわけじゃありません!」

「くっ……。ユ、ユニークスキルが強めに発動しているのか、高熱にかかったみたいで……きつい……」

「わ、私だってかなり……!」


 マキドは唇を噛んで、言葉を呑みこんだ。


「かなり?」

「こ、言葉の意味を考えないでください! 自爆覚悟で魔法をぶっぱなしますよ⁉⁉⁉」

「わ、悪かった! もう黙るよ!」


 亜土が黙ると、マキドも黙る。

 沈黙が、お互いの熱い吐息をより強調させることになった。


 特に、マキドの息は荒かった。


「ハァ……ハァ……」


 いつもツンツンしているマキドが切なそうな表情で熱い吐息を吹きかけてきて、亜土の理性をさらにゆさぶった。


 ユニークスキルがより深く発動したのだろう。マキドは全身を押し当てるように密着してくる。切ない表情のまま、肌をスリスリとこすりつけてきた。プライドの高い彼女のことだ、きっと無意識にやったことで気づいていない。


 そしてマキドは、亜土のを、太ももで挟みこんでしまった。


「……高坂さん。……その。……これは」

「言い訳のしようがありません……」

「……変態。……変態、変態。私、小学生なんですからね。まだ11歳なんですよ?」


 言葉はツンツンしているのに、マキドの声はどこか優しい。

 むしろ喜んでいるかのような態度に、亜土のユニークスキルがさらに高まった。


「なんでまた大きくなるんですか……。か、固くなりすぎです……」

「……」

「黙らないでください……」


 しばし沈黙がおとずれた。


 すると、マキドは亜土の顔を見つめたまま、太ももをこするように動かしてきた。

 貧相な身体の小学生女児に、言い訳できないモノをつきだしてきた亜土をこらしめるように挟みこんでくる。


 下半身の心地よい刺激に、亜土は少女を強く抱きしめてしまう。

 マキドは嫌がることなく、亜土の服をきゅっと掴んできた。


 亜土がマキドの唇を見つめると、少女は不服そうに一度視線をそらしてから、ツンと唇を向けてきた。

 お好きにどうぞといった少女の態度が亜土は愛おしく思えて、あとはもうゆっくりと溶けあうだけだと唇を近づけていった。


 完全に出来上がっていた二人だが、そこで『シューッ』と空気が漏れるような音に気づく。

 亜土とマキドは、嗅ぎ覚えのある匂いに我に返った。


「リリカナ⁉」「リーリーカーナ⁉」

『やーん、バレちゃったー❤』


 鍵穴からこっそり魅了術を吹きこんでいたリリカナの声がした。


「い、今すぐここから出しなさい! いえ、出さなくていいです! リリカナともども宝箱もこのダンジョンを破壊してやります!」

「妻夫木さん⁉ ま、待って! 落ち着い――」


 その日、眩い光と盛大な爆発音が住宅街に盛大に響いたという。

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