第25話 連携、はじめる前に

 伝統戦間近の休日。

 青空が視界いっぱいに広がっていて、絶好の練習日よりだ。


 しかし亜土あどと三人娘は、街の繁華街にいた。

 外出許可を申請してから、学園バスで駅まで向かい、何駅かゴトゴトと電車でゆられてやって来た。

 駅中継地点の街なので都心ぐらいとは言わずとも、比較的に栄えている。駅前には大型ショッピングモールや各アミューズメント施設もあるので、遊ぶにはもってこいだ。


 亜土たちのように、大魔堂学園の制服を着た子がチラホラいた。

 寮生活から抜け出して、羽根を伸ばしにきたのだろう。

 亜土もリラックスするため背中を伸ばしていると、マキドが冷たい瞳で見つめてきた。


「それで高坂さん。今日はここでどんな訓練を?」

「訓練はしないよ。本当に遊びにきただけ」

「そうですか、私は土と風と水と火と光属性が使えますが、どれがお好みですか?」

「街中で魔法は使わないで欲しいかな……」


 試合間近なのでマキドはピリピリしていた。みもりも気持ちが昂っているのか、頬がほんのり赤い。

 リリカナだけはいつもどおりニコニコしていたが。


「せんせーは、リリカナちゃんたちと遊びたいのー?」

「うん、そうだね」

「ええぇー? 小学生の女の子とそんなに遊びたいんだー」


 リリカナのニコニコがニマニマに変わり、マキドの表情がさらに険しくなったので、亜土は慌てて弁明した。


「あ、遊ぶつもりなのはそうだけど! 目的が違うというか!」


 亜土は周りの視線を気にしながら説明する。


「オレは、みんなのことをよく知らないからね」

「ま、出会って間もありませんからね。あなたのことは特に知りたくもありませんが」「わ、わたしは亜土先生のことをよく知っています!」「今日のせんせーは積極的だねー」


 三者三様の反応に、亜土は苦笑した。


「結局、そこからだと思うんだ」

「……そこ、ですか?」


 マキドは、今すぐにでも学園に帰って、個人練習したそうな表情だ。


「オレは部員名簿や試合結果とかのデータ上でしか、みんなを知らない。ダンジョン攻略以外ではなにが好きで、なにが得意なのか全然知らないんだ」

「それを試合に活かせるとは思いませんが」

「活かせるよ。好みや得意不得意を知ることが、仲間になることだと思うから」


 亜土の言葉に、みもりが感じ入るようにうなずく。


「仲間……」

「オレたちが仲間になることで初めて見えてくるものがあると思うんだ。三人も個性が強いから、たぶん、下手に合わせようとするほど噛み合わなくなる。それならお互いの長所短所をキッチリと知ったほうがいい」

「……亜土先生、わたしたちは動きを合わせないほうがいいんでしょうか?」

「半端な連携なら、そうだろうね。試合はもうすぐ。付け焼き刃の連携はむしろ足枷になるよ」


 亜土は、今度は濁さずに言った。

 限られた時間、変に連携に意識をひっぱられるよりは切り捨てたほうがマシだと思った。


 亜土の意図がわかったのか、マキドはわずかに表情をゆるめる。


「高坂さんの狙いはわかりましが、それこそ一朝一夕でどうにかできる問題じゃありませんよ」

「うん。だから今日は試合前のリラックスが主な目的かな。最近ちょっと、ハードトレーニング気味の子がいたしね」


 亜土はマキドに視線をやると、彼女は不機嫌そうにそっぽを向いた。


(オレと妻夫木さんは似ている。放っておくと限界以上に頑張って、怪我をするタイプだ。外から見ると危なっかしくて、初めて安心院先輩の気持ちがわかった気がするな……)


 と、リリカナがおねだりするような瞳で見つめてきた。


「ねーねー、遊ぶといってもリリカナちゃんたちは小学生なわけだからー? 遊ぶお金をそんなに持ってないよー?」

「オレが全部おごるよ。コツコツ貯金していたから、めいっぱい好きなことして大丈夫」

「わーぉ! せんせー大好きー!」


 貯金を崩したのはホントだが、亜土は有名冒険者のお宝グッズも手放していた。お金には代えられないグッズも売ってしまっていたので、彼は笑顔だが心の中では泣いている。


 そんな亜土の心情を察したのかしらないが、マキドが深いため息を吐く。


「はあ……わかりました。高坂さんの狙いどおり、豪遊しましょうか」

「ああっ! ドンとこいだ!」


 亜土は胸を叩きながら、礼流れるの危険なアイテムの治験をする覚悟をした。


「あはっー、せんせーとデートだデートー」「デ、デート⁉ 亜土先生とデート……えへへ」「練習の一環です! 変なことはいわないでくださいリリカナ!」


 三人娘がわちゃわちゃ騒ぎ、周りの人に白い目で見られはじめる。

 亜土は声のボリュームを下げるよう両手でジェスチャーしながら、三人のことを改めて考えた。


(妻夫木さんの言ったとおり一朝一夕でどうにかなる問題じゃないと思うけれど……。すこしでも三人のことを知れたらいいな。きっとどうやれば力になれるのか、見えてくると思うから)


 亜土は、試合にやる気のないリリカナを見つめると、ふいに目が合う。

 リリカナは困り眉になったあと、誤魔化すようにニコリと笑った。


 〇


 三人娘との休日がはじまった。


 アミューズメント施設の体感ゲームでは、みもりが圧勝。

 体術がレベルアップしただけでなく、みもりは元々運動神経がよかったようで『みもり>リリカナ>マキド』の順で、勝敗が決まる。


 カラオケでは、リリカナが抜群に美味かった。

 マキドも上手で、意外にもみもりがちょっと、いやかなり、独特な音感の持ち主で、『リリカナ>マキド>>>>みもり』の順で歌が上手く、恥ずかしそうなみもりと一緒に全員で仲良く歌ったりもした。


 ランチでは、みもりが一番食べて、リリカナが小食だった。

『みもり(肉類メイン)>マキド(魚介類メイン)>>>リリカナ(野菜中心)』といった食事具合。

 リリカナは「魔族だから血液も食べるんだよー」と、亜土の股間を凝視しながら言い放ったので、あわや店員に警察を呼ばれかけたが、まあ楽しい食事になった。


 個室を借りてのホラー映画鑑賞会。

 マキドはずっと冷静な顔でいたが、とっても怖がりだったようで、リリカナがちょっと脅したおかげで土魔法を盛大に放つ。そこそこ怖がっていたみもりが魔力の暴走を引き起こして、結果店員にめちゃくちゃ怒られたが、なんとか許してもらえた。


 そうやって、わちゃわちゃしながらの休日はつづく。

 それぞれの好きな場所に向かうことになり、みもりは公園のような活動的な場所。

 マキドは魔法書店などの静かな場所を選んでいった。


 そしてリリカナの番。

 好きな場所がもうすぐで思いつきそうと言ったリリカナを待ちながら、みもりとマキドが先にマジックアクセサリー店に入っていると、リリカナがついついと裾を引っぱってきた。


「せんせーせんせー」

「ん?」

「リリカナちゃんの目を見て欲しいのー❤」

「目……?」


 亜土はリリカナの瞳を見つめた。

 魔族の瞳なのか、黄金色の瞳は縦にラインが入っていて、ちょっと猫っぽい。妙な引力があって、見つめている内にぐわんぐわんと亜土の頭が揺れた。


 ぐわんぐわん。

 ぐわんぐわんぐわん。

 ぐにょにょにょにょにょにょー。


 亜土が次に気づいたときは、どこかの部屋の大ベッドに腰かけていた。

 部屋は全体的にピンクな色彩で、回転しそうな大ベッドがどでーんと置いてある。ベッドは一つだけで、枕は二つ。手に取りやすい場所にティッシュ箱があった。

 テレビ完備。シャワー完備。内線電話の近くには『0.01』と薄さ表記の包みあり。

 亜土の顔はひきつった。


「はい……⁉」


 ホテルっぽい部屋だが、クラスメイトから伝えてきくところのアレだ。

 ラブホテルだ。


 どうしてこんな場所にと混乱していた亜土の前に、制服姿の小学生女児がひょっこっとあらわれる。

 リリカナだ。


「目覚めたよーだねー」

「リリカナ⁉ こ、これは一体どういうこと⁉」

「えーっとねー……」


 リリカナは艶めいた笑みを浮かべながら、制服の上から順にボタンを外していった。


「せんせーに、リリカナちゃんの好きなことを教えてあげるねー❤」

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