第22話 初等部シャワー室でむにょむにょ

 模擬戦が終わり、マキドはシャワー室にいた。

 熱いシャワーを頭からかぶり、長い黒髪から雫が垂れる。胸からお腹までの未成熟なラインでは、お湯がまるで板のように流れていた。


 マキドの顔は赤いが、お湯が熱いからではない。


「~~~っ」


 悔しさに何度も壁をバシバシと叩きたいが、プライドの高い彼女はそれを許さなかった。

 リリカナの魅了術で最後はしっちゃかめっちゃかになり、講師や研究者にちょっと叱られたりもして、模擬戦の勝敗はもはやどうでもよい雰囲気になっていたのはたしかだ。


 それでも負けは負けだ。


(もっと私が上手く立ち回れば……もっと強くなれば……!)


 試合の反省が、自戒になるのがマキドの性分だった。


(彼女たちに連携の隙はありません。なら、どこを狙う……。殺気⁉ いえ、淫気です!)


 マキドがふりかえると、リリカナが両手をワキワキしながら立っていた。


「今日は大変だったねー。おつかれー」

「なーに、何事もなかったかのように話をしようとしますか!」

「それじゃあ誤魔化さずに揉みまーす」

「む、胸を揉もうと近づかないでください!」

「今日はお尻の気分なのに~」

「お尻でもダメです!」


 マキドはがるると歯で威嚇した。

 追いはらわれたリリカナはどこか楽しそうでいたが、ちょっぴり真面目な顔をする。


「ねーねー、リリカナちゃんを責めないのー?」

「……あなたが万年やる気なしなのは、今にはじまったわけじゃありません。そもそも、今回の相手は幻影術と相性が悪いわけですし、私がもっと強ければよかった話です」

「あははー、マキドちゃんもブレないねー」

「そういうわけですから、みもりも気に病まないでください」


 マキドがちらと視線をやると、みもりが申し訳なさそうに立っていた。


「ご、ごめんね。わたし、前衛の役割を果たせなかった」

「魔力が暴走しなかっただけ進歩じゃないですか」


 とは言ったが、マキドはみもりの技に期待していた。

 実際は亜土の技にはなるので少々癪ではあるが、ユニークスキル以降、みもりの体術は飛躍的に向上している。


 それなのに、なんなくあしらわれていた。


「でも、どうして、わたしの攻撃が当たらなかったんだろう……」


 不思議がるみもりに、何者かが声をかける。


「はっ、当たり前だろ」


 海衣かいが、巾木はばき姉妹を引きつれて、シャワー室に入ってきた。


 マキドは瞬時に戦力差を測る。


 鬼洞きどう=L=海衣。ふくらみかけで、みもりと同クラスの戦力。将来育ちそう。

 巾木姉妹。まっ平なお子様ボディ。お仲間。しかし将来育つ可能性は捨てきれない。


(とりあえず、一人負けた気持ちにならなくてすみましたか)


 マキドが先ほど闘った海衣たちを見据えていると、みもりがおずおずと話しかけた。


「あ、当たり前って、なんで? 海衣ちゃん」

「……変わった技を使うようだが、ソレ、お前が磨きあげてきた技じゃねーだろう? 技の選択に時間がかかってんだよ。ったく、身になってねー技をどーして実践で使うんだか」

「それは……」

「お前に教えている先生とやらが悪いのかね」


 海衣が小馬鹿にしたように言ったので、みもりの足元に花がポポンッと咲いた。


「おいおい、シャワー室で魔力の暴走は勘弁してくれよ」

「亜土先生は素敵な人だもん!」

「亜土ねえ……。たしか、元勇者部の奴だったか? 講師経験のない学生に教わることなんてないだろーに。今すぐソイツとは縁を切るべきだろう。うん、切るべきだ」


 みもりの足元に咲いた花がぷるぷると震えている。

 このままでは花が超巨大化してシャワー室を破壊しかねないので、マキドは海衣の相手をすることにした。


「たしかに高坂さんの講師としての能力は、私もまだ疑問視しています」

「んだと⁉」

「なんで鬼洞さんがキレるんですか……。だからといって、縁を切りたいとは思っていませんよ。まあ、多少は? 役に立つので」


 マキドが仕方なそうに言うと、海衣は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ふんっ、厄介な問題児たちをうまーく飼い慣らしているようだな」

「……今ここで模擬戦のつづきをやってもかまいませんが?」

「何度やったってお前らは勝てねー……きゃわんっ!」


 威勢のよかった海衣が、可愛らしい声をあげた。

 背後から忍び寄ったリリカナが、海衣のふくらみかけの胸を揉んだのだ。


「シャワー室は怖い顔でお話するところじゃないよー? リラックスリラックスー」

「む、胸を揉むところでもねーよ⁉ ひゃん⁉」


 海衣の胸がむにょんむにょんと蠢いた。

 リリカナの巧みな指使いを前では、気の強い海衣でも形無しのようで、唇を甘く噛んで押し寄せる衝動をこらえている。


「んんっ……」

「海衣ちゃん、かーわいいー」

「ば、ばかぁ! さわらない……ひゃん! ミィ! ファ! なんでコイツをとめねーんだ!」


 巾木姉妹は無表情で答える。


「「ワタクシたちが胸に触ると、海衣お姉さまは怒ります。ですので、ここはけんにまわりました」」

けんにまわっても怒るわ‼‼‼」

「「叱られるのは覚悟のうえです」」

「覚悟してんじゃな……やっ。あっ……」


 リリカナのスキンシップが激しくなった。

 むにょむにょー、さわさわー、すべすべーと、未成熟な身体がまさぐられて、海衣はとっても女の子な表情になる。


「あっ……そ、そこは……んっ……んんっー」

「海衣ちゃん感度がいいー❤ 触りがいがあるー❤」


 リリカナの手が、海衣の股下に滑りこむ。



「ダ、ダメ! そ、‼‼‼‼‼」



 海衣の爆弾発言に、空気が固まった。

 リリカナも両手を離して、ちょっと様子を見ている。


「お兄ちゃんのために……?」みもりは困惑していた。

「お兄ちゃんのため?」マキドは真顔でいた。

「「お兄ちゃん」」巾木姉妹は変わらず無表情だが、興味津々だ。

「わーぉ❤ いいよいいよー、リリカナちゃんそーゆーの大スキー❤」


 リリカナは嬉しそうに両手を合わせていた。

 当の海衣は、シャワー室のタイルにへたりこみ、恥辱に打ち震えている。


「ねーねー、海衣ちゃんっ。元世界げんせかいでそーゆーのが大変そーなら、リリカナちゃんの地元にくるー? そーゆーのがアリアリだよー」

「い、い、い……」

「んー?」


 海衣は人を殺しかねない目つきで、リリカナをキッと睨んだ。


「い、言いたいことはそれだけか⁉⁉⁉ よ、よ、よくもここまでアタシをコケにしてくれたな⁉⁉⁉」

「……海衣ちゃんの自爆じゃなーい?」

「うるせーーーー! お前が胸を揉もなきゃよかったんだ!」

「リリカナちゃんの指で感じちゃったわけだー」


 海衣は、監督不行き届きだろうと言った顔で、マキドを睨んでくる。さすがのマキドも弁解のしようがなく視線を逸らした。


「……なにも聞いてないですよ」


 マキドの下手なとりつくろいに、ブツンと、なにかが切れる音がする。

 海衣はまだシャワーを浴びていないのに、全身が真っ赤になっていた。


「…………お、お、お前たちよぅ」

「なになにー、リリカナちゃんたちがどったのー?」

「アタシ以上に! 恥をかかせんきゃ‼ 気がおさまらねー‼‼‼」


 海衣は、マキドたちを絶対に許さんとばかりに吠える。


「伝統戦だ‼ オラアアアアァ!」

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