第21話 模擬戦②

 リリカナがゼッケンをぱらぱた揺らしながら、笑顔で舌をだしていた。

 マキドは瞬間的に察する。


「リ、リリカナ! やられましたね⁉」

「ごめんねー。幻影術で消えてたけど、すぐに見つかっちゃったー」

「でしょうね!」


 幻影術は完全に姿を消すわけではない。

 視界にわずかな揺らぎがある。戦闘中にその揺らぎを見つけることはなかなかに骨だが、シンクロした海衣かいたちには見つけることが簡単なのだろう。


(リリカナがやられたということは……)


 リリカナを倒したファが、みもりと闘っているミィに合流するわけで。


「「北条さま、タッチでございます」」

「あう~~~」


 みもりは巾木はばき姉妹に捕まり、胸をぷにっと触られて、ゼッケンに魔力を注がれた。

 これで敗者となったみもりは、がっくりとうなだれる。


 三体一となったマキドは、海衣に勝ち誇った顔で見つめられていた。


「それで、まだやるかい?」

「当たり前です! エアー――」


 両脇から襲いかかってきた巾木姉妹に、マキドはがっしりと腕を掴まれる。


 そして海衣が、それはもうゆっくり優しく、敗北をわからせるために、人差し指でマキドの小さな胸をぷにっと――もとい、ゼッケンに魔力を注ぎこんだ。


「んっ……」


 ビーーーッと、実験室で音が鳴った。

 模擬戦終了の合図だ。


「アタシたちの勝ちだな。ま、わかりきってたことだが」

「くっ……」


 拘束を解かれたマキドは、悔しいと叫びたかったが、プライドの高さゆえ必死で耐えた。

 が、悔しすぎて結局歯を食いしばったので、海衣を喜ばすことになる。


「ははっ、良い顔をしてるな!」

「こ、これは生まれつきです!」

「澄ました顔しているより、ずっといいぜ? さーて、お前の悔しそうな顔を写メで撮って、溜飲りゅういんを下げるかね」

「溜飲? 私があなたになにをしたっていうんですか」

「……………………お前たちが、だよ」


 海衣は笑顔だが、目は笑っていなかった。

 ここまで恨まれる覚えはないぞと、マキドが睨みかえす。


 一触即発の空気だったが、さっきまでリリカナと戦っていたファが、海衣につついと近寄った。


「おう、スマホを持ってきてくれたのか。ファは相変わらず気が利くな」

「かぷり」


 ファは、海衣の首筋をあまがみした。


「ひゃんっ⁉」


 海衣はビクンと背中をのけぞらせる。


「な、なにをするんだ⁉ ファ⁉」

「勝利のご褒美に、海衣お姉さまとのスキンシップです」


 ファは変わらず無表情だが、頬がうっすらと赤い。


「ば、ばか! スキンシップにも限度があるだろう!」

「戦いを終えたお姉さまの匂い……とても、かぐわしく……」

「変態か⁉ あっ……く、首をなめないでよぅ……」


 ファに首をちゅぱちゅぱと口づけされて、海衣は乙女な顔をした。


「お、お願い、ファ……や、やめ……。ミィ、助けて……」


 海衣はちょっぴり弱気な表情で、ミィに助けを求めたが。


「ファ。ズルイです」

「ミィ。ワタクシはあなた。あなたはワタクシ。貴方も一緒にお姉さまを愛でましょう」

「「名案です」」


 ファとミィは一緒になって、愛しい海衣に、ちゅぱちゅぱと吸いつきはじめる。


「名案じゃねーよ⁉ あっ……こ、こら! ば、ばかぁ! 触らないでよぅ! し、下は、ダメなのぅ。んんっ……やんっ」


 さらには身体中をまさぐられはじめ、海衣は可愛らしい嬌声をあげた。

 途中からは小声になっていたが、どうやら快感に耐えている様子。


 どんどん卑猥な空気になる中、リリカナが嬉しそうにテコテコとやってきた。


「やー。ファちゃん魅了術にかかってないようで、ちゃんとかかってたねー」

「……リリカナ、魅了術をかけたんですか?」

「うんうん。攻撃も防御も捨てて、みーんな楽しくなるよう、ファちゃんにビビーっとね。ミィちゃんにはかけてないけど……双子だから共感覚でもあるのかなかなー?」


 満足そうなリリカナに、みもりが呆気にとられていた。


「マキドちゃん……わたしたち試合に負けて、勝負に勝った……?」

「いえ……リリカナ一人勝ちな気がします……」


 リリカナは、海衣たちの痴態を愛おしそうに見つめている。


「わーぉ❤ 美しい姉妹愛! 女同士のゆーじょー! リリカナちゃんたち、この絆の前に負けたんだねー。いさぎよく負けを認めちゃいまーす!」


 海衣は快感に耐えながら、リリカナを睨みつけた。


「こーーーーーーくーーーーーーーとーーーーーうーーーーーーーー!」

「「おねえーさーまー」」

「やーーーーーーんっ」

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