第19話 ライバルあらわる⁉

 次の日。


 大魔堂学園の研究棟にて、女子小学生たちが、真っ白い部屋に集まっていた。

 耐衝撃、対吸収、対魔力防壁諸々が壁や床に仕込まれた、テニスコートほどの大きさの実験室。室内に設けられた強化ガラス窓の向こうには、教師や研究者たちがいる。


 彼らは、ブルマ姿の女子小学生を眺めるためにいるわけではない。

 もちろん、模擬戦を観戦するためだ。


 みもりたちは、ひらがなで名前が書かれたゼッケンをつけていた。

 ゼッケンは魔力感知の糸で編まれたもので、ここに一定量の魔力を通せば別室に設置されたシグナルが『赤』になる。これで勝敗を競うわけだ。


 魔力甲装アクラーゼは禁止。殺傷性の高い魔法も禁止の模擬戦。

 ケルベロス相手に立ち回った、みもりたちは、いつもより注目されていた。


 そして、みもりたち補欠組の正面にいるは、レギュラー組の三人。

 真ん中のリーダー格である、「かい」とゼッケンをつけた子が鼻で笑う。


「はっ……お前たち、今日は負けないって顔だな」


 鬼洞きどう=L=海衣かい

 茶色のセミロングの女の子で、負けん気強そうな顔立ち。海衣かいは仁王立ちしながら、少々乱暴な言葉遣いで言った。


 相対していたマキドが、涼しげに切りかえす。


「いい加減、レギュラーメンバーの席を返していただきます」

「ねーよ。お前たちがアタシたちの席を奪うことはぜったいにありえねー」

「ひょっとして、私を舐めてます?」

「舐めてねーよ。アタシはお前たちの力をきっかり把握しているぜ。なあミィ! ファ!」


 海衣は嘲るような笑みを浮かべながら、彼女の仲間に視線をやった。


「「その通りです、海衣お姉さま」」


 顔そっくりの双子の少女が、一言一句たがえることなく同時に発音した。

 巾木はばきミィ。巾木はばきファ。

 二人は淡い紫色のボブショートヘアーで、人形のように表情が変わらない。冷たいを通りこして、もはや無表情な子たちだった。


「「妻夫木さまたちは、たしかにワタクシたちより優れています。ですが、ぜったいにワタシクたちに勝つことはできません」」

「そーゆーこった。アタシたちはこれっぽっちも舐めちゃいねーよ。むしろ、席を奪うつもりでいるお前たちのほうが舐めてるだろ」


 海衣が睨んできたので、マキドは片眉をあげる。


「レギュラー争いなんて当たり前でしょう。競うのがイヤなら最初から勇者部に来ません」

「……その、勝って当然だというツラが気に食わねー」

「あなたは負けるつもりで戦うんですか?」

「いんや。お前たちに、アタシたちは負ける気がしねーよ。個人技で劣ってようがな」

「……はあ、どこかの誰かと似たようことを言いますね」


 と、海衣が露骨に不機嫌な顔になった。

 海衣は大事なものを奪われたかのような表情で、唇を噛んでいる。

 ピリピリとした空気になったが、巾木姉妹は特に諫めようとせず、みもりがあわあわと落ち着かない表情でいて、リリカナが元気よく手を挙げた。


「はいはーい、海衣ちゃんに質問でーす!」 

「……んだよ」

「最近、リリカナちゃんたちへのあたりが強くなーい?」

「補欠組が調子に乗っているのがムカつくんだよ」

「あはーっ、リリカナちゃんたちを舐めてないんじゃなかったのー?」


 リリカナの探るような笑みに、海衣の瞼が痙攣したように震えた。


「「黒糖さま」」

「んー?」

「「ワタクシたちの戦場は、これよりはじまります。お控えください」」


 無表情の双子姉妹がしずしずと頭を下げたので、リリカナはにこっと笑った。


「だねー、リリカナちゃん大人しく待ちまーす」


 リリカナが後ろにさがると、ピリッとした空気が薄れる。

 代わりに、肌がジリつくような緊張感が場におとずれた。


 焼けつくような対人特有のこの空気にやられてしまい、試合には出ずに、もっぱらダンジョン攻略のみの冒険者も存在する。魔法や剣技が飛び交う戦場は、誰だって怖いのだ。


 その意味では、この場にいる六人は素質があった。


 あわあわしていたみもりも、いつしかまっすぐに海衣たちを見据えている。

 海衣は望むところだといった様子でほくそ笑んだ。


「はっ、補欠組よ。旧部室棟に送りかえしてやるよ」


 実験室にアナウンスが流れる。


『それでは模擬戦をはじめてください。なお、各々の成長データをとるのが目的のため、試合結果は評価に含みません』


 と言われても、少女たちはもう知ったことではなかった。


「ま、負けないから!」「叩きのめしてやります!」「みんなで楽しくやろーねー❤」


 問題児三人娘は、そう宣言した。

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