第10話 問題児たちのダンジョン攻略
『玄関あけたら二分でダンジョン。危険を避けよう、一家に一台ダンジョンみつけーる』
そんなキャッチコピーが流行ったのは数十年前。
今はアプリで検知できるが、大昔、家庭用ダンジョン探知機は飛ぶように売れていた。
なにせダンジョンは突然に湧く。
大通り、デパ地下、コンビニ前、雑居ビルの路地裏などなど、その場の空間を押しわけるようにダンジョンは生まれる。
専門家曰く『魔素溜まりには魔力渦が発生しやすく、渦の発生により、
ダンジョンは、二つの世界どちらのものでもないらしい。
境界の狭間で起きる超自然現象、それがダンジョンだ。
スマホアプリでは、ダンジョン指数レベル『1』を示していた。魔力を扱える人間なら問題なく、もちろん初等部の子でも十分対処できるレベルだ。
(うーん、最深部に宝箱を守るドラゴンとかいそうな雰囲気だ)
亜土は、ダンジョン内を見渡した。
石造りの壁と床。おどろおどろしい燭台が通路を照らしている。
しかも通路は迷路となっていて、ダンジョンはかくあるべしというスタンダードっぷりだ。
(ダンジョンレベルは低いけど、気をつけるに越したことはないな)
亜土はジャージのうえに、学園支給のタクティカルベスト(チェストリグ寄り)を着こんでいた。
体操服に着替えた三人娘にも、もちろんベストを着させている。
(ベストのポッケには、緊急防護陣に、簡易魔法符。軟膏型回復ポーションに止血剤。緊急水浄化符諸々。
高品質のアイテムはお高い。しかし安全を得るためにもケチるわけにいかない。お礼として、礼流のマッサージでも、代わりの家事でも、なんだってやるつもりだ。
そうして親友に感謝しながらダンジョンを進む亜土だったが、ちょっと、目のやり場に困った。
(リリカナ……絶対にわざとだよな……)
ブルマ姿のリリカナが、太ももを見せびらかすように歩いていたからだ。
ちなみに昔は女子の体操服もズボンだったのだが、もっと女性らしい恰好をと解放運動がおこり、ブルマになった経緯がある。
「なあ、リリカナ」
「んー? せんせー、なーにー?」
「オ、オレが前を歩くよ」
「えー? なんでー? せんせーが先導したら意味なくなーい? リリカナちゃんたちの訓練なわけでしょー?」
「そ、そうだけどさ……」
リリカナはニヤニヤしながらブルマの食いこみをなおした。
少女の柔らかそうな尻肉がぷるんと震えて、亜土は頬を熱くさせる。
「あはーっ。せんせー、可愛い反応ー」
「……いい加減にしなさい」
「はーい、いい加減にしまーす」
リリカナがタクティカルベストで寄せられた胸をぐっと強調させたので、亜土は困ったように顔をそむけた。
少女のからかいに戸惑う亜土に、みもりは自分のブルマを触った。
「く、食いこみ……胸を強調……。わ、わたしも真似するべきかな、マキドちゃん!」
「やめてください、みもり……。はあ……リリカナもふざけない! 高坂さんもシャキッとする! 特に高坂さん! 通報しますよ!」
そうマキドに叱られて、亜土は背筋を伸ばす。
これは単純なダンジョン攻略ではない。きちんと自分が役に立つかの試験でもある。
そうマキドから告げられていた。
(みんなに認めてもらうためにも、しっかりしろ! オレ!)
気合を入れるマキドだが、しかし、マキドの本当の思惑は別だった。
彼女は、亜土に呆れられるつもりで、ダンジョン攻略を提案したのだ。
(私が厳しく言っても、懲りずに毎日来そうですからね……。ですが、逆に考えればいいのです。そう、向こうから呆れさせればいいんです。私たちは伊達に問題児をやっているわけじゃないですからね。どーせ、すぐにトラブルが起きますよ。どこまで我慢できるか見物ですね)
マキドはひねくれ方もプライドの高さが垣間見えた。
両者の思惑にすれ違いはあるものの、順調に迷路を奥に奥に進んでいく。
空気がだんだんと湿りけを帯びてきて、天井から水滴がぽちゃりと垂れる。
水滴は、みもりの首筋に落ちた。
「ひゃう⁉⁉⁉」
みもりが可愛い悲鳴をあげると、ポポンッと花が次々に咲いた。
ちょうど、亜土の腹あたりに巨大ヒマワリが咲いて、亜土はくの字になる。
「っ~~~~~~!」
「せ、せんせい⁉ ご、ごめんなさい!」
みもりは泣きそうな顔でぺこぺこと頭を下げた。
どうやらトラブルはじまってきたなとマキドがしたり顔でいる側で、亜土はすこし顔を引きつらせつつも笑顔をくずさなかった。
「大丈夫大丈夫。たいしたことはないよ」
「でも……。ごめんなさい先生……。わたしがずっと感情を抑えていれば……」
しゅんとしたみもりに、亜土は優しく言う。
「それはちがうよ、みもり」
「え?」
「好パフォーマンスを発揮するために感情は必要だ。それに、みもりは魔力がずっと暴走しているわけじゃないだろう? 楽しく話しているときは花が咲かないじゃないか」
「は、はい。リラックスしているからでしょうか?」
「それもあると思うけど、きっと自分をベストに保ちやすい感情があるんだよ。感情が不安定になったときのため、その感情を探るのが、魔力暴走の解決の糸口かもしれないね」
亜土の言葉に、みもりは感心した表情でいた。
なんだか想像していた流れじゃないなとマキドが目を細めていると、リリカナが亜土に可愛らしい仕草でたずねた。
「ねーねー、せんせー。リリカナちゃんにも、なにかアドバイスはないのー? ダンジョン攻略する際のアドバイスとかー?」
きたきたと、マキドはほくそ笑んだ。
ここで亜土がアレコレ指示をすれば、リリカナはきっと機嫌をそこなう。彼女はお気楽そうで、面倒くさい性格なのだ。厄介なのだ。なにを考えているのかわからない子なのだ。
「リリカナはいつもどおりでいいよ」
「えー。つまんなーい」
「いつもどおり、魔力探知しながら危険を探って欲しい」
「おおぅ? リリカナちゃん、魔力探知のこと、せんせーに言いましたっけ?」
なんですと、とマキドはリリカナに抗議の視線を送る。
しかしリリカナは涼しげに受け流した。
「リリカナの練習試合を見せてもらったけど、仲間から一歩離れてなにか探っているようだったからさ。……仲間の危機か、自分の危機を避けるためかはわからないけど、魔力探知だろうなって。いつもみたいに、お願いできるかな?」
「はいはーい、リリカナちゃんがんばって魔力探知しまーす❤」
嬉しそうに挙手したリリカナに、マキドは頭を抱えたくなった。
魔力探知のことを今まで黙っていたとか、なにを考えているんだあの女。
というか、この男はなんだ。なんなのだ、ホントに。
みもりとリリカナとパーティーを何度も組んでいたのに、今まで気づかなかったなんて立つ瀬がない。プライドを傷つけられた、一番面倒くさい性格のマキドは、苛立ったようにズカズカと先を歩いて行った。
「つ、妻夫木さん! 先行するのは危ないよ!」
「ご心配なく! こんな低レベルのダンジョン、目をつむってだって攻略できます! ほら、こうやって――」
カチリと、マキドは罠を踏む。
地面のタイルが一部剥がれて、粘着性の物体がマキドに襲いかかる。
液体魔素塊――『スライム』だ。
「きゃ⁉」
スライムはぐにょぐにょと形を変えて、マキドが魔法を使えないように手足を拘束する。空中に持ちあげられたマキドは、拘束しやすい体勢に変えられてしまう。
そして、マキドは大股におっぴろげられた。
「きゃああああああああ⁉⁉⁉ な、な、なんですかこのスライム⁉」
「妻夫木さん⁉ 今、助ける!」
「⁉ み、みないでください! み、みないで‼‼‼」
大股に広げられたマキドは、羞恥をこえらるよう半泣きで叫んだ。
だってブルマを履いているとはいえ、いやブルマを履いているからこそ、食いこみ気味の股のラインが浮きぼりになっている。痴女まっしぐらな格好すぎた。
「リ、リリカナ! あなた! 魔力探知をしていたんでしょ⁉」
「だって、スライムは危険じゃないしー?」
「あ、あなたね‼‼‼」
「あはっー、リリカナちゃんもスライムに捕まっちゃおうー❤」
リリカナは楽しそうに罠を踏む。
すぐに追加のスライムがあらわれて、マキドと同じようにリリカナを大股びらきにした。
「やーん❤ せんせー、たすけてー」
「あなた‼‼ ホントなに考えているんですか!」
「マ、マキドちゃん! リリカナちゃんも! よーし、わたしも……!」
仲間外れだと思ったのか、みもりも罠を踏む。
即座にスライムがにょにょにょーとあらわれ、みもりを大股びらきにした。
今ここに、三人娘のスライム大股びらき祭りがはじまってしまう。
「み、みないでください! みないで!」「せんせー、はやく助けてー❤」「うう……自分で罠を踏んだけど、これ、かなり恥ずかしい……」
三者三様の反応を見せる、大股びらきな小学生女児たち。
少女たちの股先の焦点にいた亜土は、さすがに困惑の表情を隠せず、ちょっと呆れたように佇んでいた。
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