第9話 ユニークスキルがバレました

 次の日の放課後。

 旧部室棟に向かった三人娘は唖然とした。

 なにせグラウンドで伸び放題だった雑草が綺麗に引っこ抜かれている。昨日、みもりやマキドが魔力で掘り起こした土もすっかり整地されていた。


 亜土あどのおかげだった。


「やあ、来たね。三人共」


 ジャージ姿の亜土が立ちあがり、うーんと腰を伸ばした。彼の足元には雑草をまとめたゴミ袋がまとまっている。

 さも当たり前な表情でいる亜土に、マキドが吠えた。


「な、なにをやっているんですか⁉ 清掃はあなたの仕事じゃありませんよ!」

「怪我防止のためにも、練習場所は綺麗にしておかなきゃね。それに、君たち三人の清掃活動は、あくまで仲間意識を高めるためのものだ。それなら連携重視の練習に時間を割いたほうが良いかなって」


 理路整然と返してきた亜土に、マキドはぐぬぬとなる。


「そ、そーやって私たちに取り入るつもりなんですね!」

「うん、まずオレを信頼してもらおうと思って」

「うぬぬ」


 優しげな顔つきのくせに、案外押しが強い。

 男は狼だぞと父親の言葉を思い出したマキドは、これでもかと警戒オーラを出してやるが、みもりとリリカナはつついと彼に近寄った。


「あ、亜土先生! 言ってくれたら、わたしも一緒に手伝ったのに!」

「ねーねー、いつからやってたの? まさか授業はサボり? せんせーはいけない人だねー」


 二人は和やかに亜土と話していた。


 彼を前から知っているようだった、みもりはわかる。

 しかしリリカナが興味を持ったようなのが、マキドは不思議だった。自分を無理に指導してくる相手なんて、うまくやりこめるはずなのに。

 このままではなし崩し的に亜土が居座ってしまうと、マキドは危機感を抱いた。


「そこまでです! 犯罪者さん!」

「は、犯罪者……。オレ、悪いことはなにもしてないよ」


 犯罪者呼びに、亜土はたははと笑っていた。

 人畜無害そうなこの男がいかに犯罪者なのか。マキドはすでに調査済みだ。


「ふふっ、大人しそうな顔で私たちをつけ狙っているのはわかっています!」

「うん、三人の力になりたいと思っているよ」

「そ、そーゆーことではなくて……そ、その、不純異性交遊的な意味で……ゴニョ」

「?」

「ともかくです! あなたがただの魔力なしだなんて嘘っぱちです!」

「オレが魔力がないのはホントだよ?」

「魔力を失った代わりに、ユニークスキルを得たんでしょう⁉」


 亜土の顔がさっと青ざめた。

 やはりこの男にはやましいことがある。自分のパンツにつっこんできたのも、きっとわざとなんだ。騙されてはいけないぞと、マキドは隙あらば魔法を撃つつもりでいた。


「ど、どうしてそれを……」

「おやおや、青ざめましたね。わたしのママは大魔堂総合病院の出資者なんです。ママ専用アカウントであなたのカルテを調べさせてもらいました」

「……それ、犯罪なのでは?」

「そ、そーなんですけど……やむを得ない事情がありましたし……。じ、実際にあなたが犯罪者だという証拠を掴んだです!」 


 マキドはずびしと指差した。


「ユニークスキル『秘密指導シークレット・コーチ』は知識譲渡、強化付与と便利なスキルですが……発動するためには、体液接触が必要なのでしょう⁉ き、キスとか! キスとか! キスとか! そ、それになんでも相手の記憶も覗いてしまうとか!」

「…………」

「どうやら言い逃れできないようですね! 小学生女児を手籠めにしようとした犯罪者さん!」

 

 亜土の顔はさらに青くなっていた。

 当然だろう、なにせ小学生女児と下心をもって接触しようとしたのだから。危ないところだったとマキドは額の汗をふきながら、さぞ二人もドン引きだろうなと視線を横にやった。


 しかし、みもりの顔は真っ赤だった。


「た、体液接触……亜土先生とキス……」


 そして、リリカナは面白そうに口の端をゆがめている。


「せんせー、そんなスキルを持ってたんだー❤」


 あれれ、とマキドは口をすぼめた。

 なんだか、予想外に、二人はアリアリな雰囲気だ。


「せんせー、リリカナちゃんとキスしたいのー?」

「⁉ いやいや⁉ た、たしかに体液接触を必要とするユニークスキルだけど、君たちに使うつもりはないよ⁉ 記憶をのぞく可能性もあるわけだし、こんなスキル使うわけにはいかないって! ってか誰にも使ったことないよ!」


 亜土は顔を赤くしながら、顔と手を必死に左右に振った。


「あはっ、つまりせんせーはまだ童貞なわけなんだー」

「い、言い方!」

「ねー、せんせー。合意のもとならいいってことだよねー?」

「合意でもしない! 社会で決まってるの!」


 まっとうに返してくる亜土に、みもりが詰め寄った。


「で、でもでも、便利なスキルなら、前向きに検討するのもいいんじゃないでしょうか⁉」

「みもり⁉」


 みもり! とマキドも心の中で待ったをかけた。

 あの子大人しそうでわりと肉食系ですねと思いながら、このままでは部活動がインモラルになりかねないと、マキドは良い話題逸らしがないか懸命に思考をかけ巡らせた。


 そこに、スマホがぺこんと鳴る。

 マキドはこれだと思った。


「――待ってください! 私はまだ高坂さんを認めていないんです!」


 マキドの一喝が、グラウンドに響き、静寂がおとずれる

 亜土は真面目な表情で、マキドの言葉を待っていた。


「……」

「旧部室棟を清掃したって、便利なユニークスキルを持っていたって、私はあなたを認めることができません」

「……うん、オレは指導の実績なんてないし、勇者部をクビになった人間だ。簡単に認めてもらおうだなんて思ってないよ」

「もちろんです。それに――」


 それにパンツに突っこんできたくせにと言いかけて、マキドは慌てて口ごもる。


「だから毎日ここに来て、まずはオレを信じてもらうつもりだよ」

「ま、毎日来られても困るんです! だから、さくっと試練を与えようと思います」

「試練?」

「ちょうど付近に、緊急魔力警報が発令されました」


 マキドはスマホのメッセージを確認する。

 魔力パスカル540。次元変動率25パーセント。これならほどよいダンジョンが生まれることだろう。


「さあ、ダンジョン攻略の時間です」

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