第4話 職員室


 職員室までの、道のりがわからず、右往左往しながら行き着いた。この休み時間が臨時で二十分になって運が良かったなと思う。


 職員室の前で一息整え扉をノックした。


「コンコン。失礼します。一年三組明石灯です。菅野先生はいらっしゃいますか。」


「やっときたわね。私の好敵手カモ。」




(・・・。)


 俺は瞬時に扉を閉めた。




「ちょっ、待ちなさい。」


 後ろから慌てている声がした。


 しかし俺は聞こえてないふりをして早急に立ち去ろうとした。


「待ちなさいってば。」


「なんすか。」


 俺もやらかして呼び出された身。ここで無視して変えるのは後々面倒な気がした。だけど、


「俺の中のセンサーがあんたには関わるなってうるさいんですよ。ってことで。」


 やはり会話は無理だと即断し、帰ることを決意した。


「・・・。」


 だんまり返った先生を不思議に思い、思わず足を止めてしまった。


「あん。っや。やめて。あぁ、明石君。うぅん。ああん。」


「やめようか!!」


 (・・・。何を血迷ったんだこの変態教師が!いくら周りに人がいないからって、そんなんで俺の気が引けるとは・・)


「「「どうしました菅野先生!」」」


 (なんかいっぱい出てきたああ~~!!)


「い、いえ、なんでもありません。ご心配かけてすみません。」


 と職員室から雌を巡って争う獣のように出てきた男性教師達に優しく微笑む彼女だったが、俺は一瞬ニヤける所を見逃さなかった。


「それならいいんですが。」


「何かあたらすぐに駆けつけますから。」


 俺をにらみつけながらぞろぞろと職員室に帰っていく獣たち。そして和やかに手を振る彼女。


 (俺は夢でも見させられているのか?)


 全ての男性教師が帰っていくと菅野tはこちらを振り向き


「・・っへ。」


 鼻で笑った。


(っざけんじゃねえわ!!)




「それで?なんですか、呼び出して。」


 俺は菅野先生に半ば強制的に職員室の中に連れられて、お説教を受ける態勢でいた。


「ぁー。あなたと話していると疲れてくるわ。」


(んだと、このやろ・・。)


「まだ、一往復しか会話してないんですけど。そういうのは嘘でも言ってはダメなんですよ。」


「えっ、嘘なんて一言も言ってないけど・・・。」


(・・マジか)


 俺は返す言葉を失った。生徒に正直にそんなことを言う人なんてこの人くらいだろう。


 俺がここにいるのは俺が遅刻したのが原因というのは分かってるからとりあえず謝っておくしかない。


「えぇーと、とりあえず、すみませんでした、遅刻してしまって。」


 と言うと同時に深く頭を下げた。


「きゃっ。なっ、なに急に。顔を私の方に近づけて。」


「・・・」 


(そうじゃねえ!んで演技うめえな!ほら、先生たちみんなこっち向いちゃったじゃん。)


 先生の謎行動に敏感な男達が一斉にこちらに眼光を向けた。


 俺としては今すぐに逃げ出したかったがさっきのことがあってむやみに逃げられない。


(なんかこの人少しずれてるんだよなぁ。そうそう、自己紹介の時も・・・。)




 「じゃあ、授業を再開するよ~。授業と言っても、やっとみんなそろったから自己紹介からいきま~す。私から始めるから、明石君から名前の順ね。内容は名前・出身中学校・希望部活動・みんなへ一言くらいかしら。自由に付け足してもいいからね。早速始めていきましょっ。私は菅野琴すがのことといいます。担当教科は国語。女子ハンドボール部の顧問です。年は秘密です。結婚はしていません。彼氏は秘密です。よろしくね♥あっ、あと、彼氏は募集中です♥」


 一瞬の静寂の後、パチパチパチパチ。という拍手と同時に男子の多くは固まってしまった。


 その理由は明確だろう。




―――先生が可愛すぎるのだ。―――




 顔はもちろんんだ。大人びた顔の形とかわいらしい顔のパーツ。身長は平均的だが身にまとう可愛いオーラが女子高生とは違う。また、一つ一つの仕草が体中にしみこんでいるかのようである。耳にかかった髪をかきあげるときの仕草、黒板に書いているときの後ろ姿、振り返るときの「ファサー」となる髪とスカート、とにかく当たり前の動きが完璧といっていいほど洗練されている。


(ついでに少し前のめりになるにつきほのかに主張される豊満な双丘も・・・。)


 極めつきは最後の言葉だ。俺ら男子生徒を一瞬で虜にするのが目的なのだろうか、と思うほどの必殺技だった。


(dだが、「彼氏募集中です♥」だと?そんなこと生徒に言う先生がどこにいる!・・まさか・・バカなのか・・・?普通やんないだろそんなこと。やんないよ。というか、彼氏は秘密と言いながら、そんなこと言ったら「いない」ということがばれちゃうじゃないか。・・・バカなのか?それとも・・・)


【おい、早く始めねえと】【お前からだぞ】(んげっ。そうだった。サンキュ。)


「明石灯です。・・・」




 俺は回想をやめ目の前の別人と化している菅野tを見る。


 今振り返ると先生は少しバカなのかもしれない。だが、情報収集は大事だったな。まだ何かあっても不思議ではない。


「そういえば、生徒たちの中で私の美貌に落ちなかった子は私が数えた中で二人かしら。あなたを含めてね。まぁ、いずれ増えるけど・・ね。」


 菅野tが急に変なことを言い出した。この人は本気で何を考えているのだろうか。なんでそんな変なとこに注目して生徒を見ているのだろうか。それも、こんな初日の初対面の生徒に向かって堂々と告白。(いやもう、俺一周回って尊敬します。)


 尊敬の念を持った俺は菅野tのノリにはノリで返すことにした。


「おっ、俺は、先生のこと可愛いなぁ~、って見てましたよ。」


「そっ、そういうホントのことは言わないもんじゃないの!」


(・・・もうだめだこの人。)


 自分のこと可愛いって認めてるのは、まぁいいとして、それを人の前でそれも男子生徒の中で堂々としているのがおかしい。だが気になる点も浮かんできた。先ほど菅野tが言った最後のフレーズ。


(美貌に落ちない人がこれから増える?・・・理解できん。)


 ついでで言うと、事実。俺は、彼女は客観的に見るととても美人の分類だが美貌に落ちることはなかった。でも、それは自分自身でも疑問だった。ただ、なにか頭・に引っかかった。


「明石君。とりあえず今日はこの辺でお説教終わりにしておきます。」


「はあ。そうですか。」


 時間も無いのもあってかあんまり怒られずにすんだ。


(初日から反省文とかだったらまじでビビった。よかったぁ。)


「あと、明石君。私を二度もいじったこと公開することになるわよ。」


(せ、先生。多分漢字違う。確か菅野先生って国語の先生だった気が・・・。)


 とりあえずノリにはノリで返すしかないと思い返答した。


「すみませんでした。先生があまりにも、包容力があると感じていたので、少し行動を謝ってしまいました。あと、遅刻の件も・・・・。」


「顔から俺は悪くないってにじみ出てるが?」


 (何だよこの先生は!いちいち突っかかってくんな!あと、最後まで言わせてくれ。)


「まぁ。いい。」


 なぜだかとりあえず許されたらしい。俺は今足を踏み入れてはならないところにいる気がしてならない。


「それで今週末暇かしら?」


(・・・うぅ~ん。話の先が読めん。)


「なんですか?家の予定と思いますけど。」


 入学したてで部活もないしまだ誰とも約束してないけど、この先生とは関わりたくない。学生にとっては大事な土日だ。


「どうせ暇でしょ。用件はあとでね。」


(・・・。オイ、俺の未来お先まっ暗なんだが。)


 

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