第3話 海の登場
「よぉー。海。相変わらずきめーな。」
「灯って冗談通じないから嫌いなんだよね~。」
この、クールな感じを醸し出してそうで全くクールじゃなくむしろ熱い系の男子、天野海あまのかい。顔は十分イケメンであり、欧米感もある。欧米感というのは、もちろん金髪だ。それも、月と同じ生まれながららしい。俺にはこいつほど憎いやつはいねぇ。なんで金なんだ。どうしてだよ。俺はこいつは本当は染めていると踏んでいる。
海とは今日知り合ったばかりだ。名前とウザいことくらいしか知らない。席が出席番号順なので、「明石」と「天野」で前後だから自然に話すことになったのだが、こいつの第一印象は最悪だった。髪色よりもウザいと感じた部分があったのだ。
「お前、この日にそのボケやってる方がやべ~わ。」
「まっ、俺の方がかっこいいから許してやる。」
おわかりいただけたであろうか。この「俺の方がかっこいい」宣言。言ってて心が痛くならないのだろうか。俺はもう一周回っていい性格だと思い始めてきている。いや、そうである、と俺は信じている。
だが、これだけは確実にいえる。こいつは超・ナルシストだ。
「ところで、灯。そちらの美しいレディーはどちら様?」
「ん、あぁー、紹介してなかったっけ。こっちのかわいい系美少女が神井月で、綺麗系美少女が森瑞木だ。」
と俺は海に二人を紹介した。
「よろしくね!」
「よろしく。」
だが、二人は俺の褒め言葉をさも当たり前のことのようにスルーした。
「二人ともあんま反応しないんだな。」
「だって、灯の紹介の仕方何回もされてもう慣れちゃった。」
「私も。」
(うぐっ・・。)
・・なんか美少女二人から「お前なんてかっこよくない」「なんかこいつ変なこと言ってる」みたいなことを正面から言われた気分だ。これはつらい。これは、実際にこの立場じゃないとわからない痛みだ。
「それで、あなたは?」
俺の気持ちを知らずに興味津々に質問をする月。
「俺は、天野海。天が作りし絶世の美男子というのは俺のことさ。俺はこの灯と先ほど友と呼べる仲間までなったのだ。君たちは、灯の仲間だね。それなら僕とも仲間にならないか。」
「・・・・。う、うん。よろしくね。」
「・・・・・・・・。」
長い説明と不可解な言葉とともに、気持ち悪い決めポーズを決めた海は、美少女一人から理解されずに見事にスルーされ、もう一人からは無視を食らった。自業自得だ。さすがに、コミュ力の高い二人でも、生理的に無理らしい。
「・・・・ねぇ、灯。灯はこんなのと友達なの?」
なんだ、瑞木、その生臭いゴミを気持ち悪そうに見る目は。何言ってんのみたいな顔で俺をのぞいてくる。
(やっ、やめて、これ以上その目で見ないで。け、結構ダメージ、くる。)
「ま、まぁーな。こいつはこのままじゃ友達いなくて、寂しい生活送るなら、俺らが、教育させればいいかなぁと思って。」
「やっさし~。さすが灯。」
俺が言ってることがわかったのか月は満面の笑みで賛成する。
「でも、いくら何でも、優しすぎない?私たちの生活まで影響出たらどうしてくれるのよ。」
(みっ瑞木。張本人の前でよく言えんな。尊敬すんぜ。だが、その心配は無用。)
「大丈夫だと思うぞ。だって、俺らにはあいつがいるだろ。」
「あいつ・・・。あぁ~。確かに。」
「ふーん。確かにそうね。」
俺の言葉に二人そろって納得したような顔で同意する。
「なんだい君たち。何を言っているんだい。なんか、俺に対してよからぬことを。それに、あいつって誰のことだい。」
と、さも知りたそうな顔で俺たちに聴いてきた海。
だが俺らは「こいつに話すとだるい」「こくこく」「そうね」と目だけで会話し意思を伝え合い
「「「なんでもない。」」」
と押し切った。
俺の中ではやっぱりあいつを紹介させるならドッキリしかない。
「あれ、そういえば今日ヤンちゃん見てないね」
ヤンというのは、斉藤水希さいとうみずき。俺らの間では、ヤンとか、ヤンちゃんとかでよんでいる男子高校生。ヤンとは昔から関わりがあり今でも仲がいいのだ。
それより、少しというか結構地元から遠いというのに俺の仲いい人が三人も来るなんて結構凄いんじゃないかと思う。【いやいや、ただただこの学校が凄いからでしょ。】【そうそう、文武両道で制服もかっこいいしかわいい。】【それに、設備も整っていて・・・。】(・・いや、なんで俺の天使と悪魔が仲良くなってんだよ。ホントに壊れちまったのか。)
そんなこと言っても確かヤンもこのクラス。これは奇跡としか言うようがない。【灯の学校から確か二・三十人ここに来てる。】【一クラス四十人くらいで・・・】【そうそう、それで・・・。】【さらに、ここから・・・。】(・・なんだ、その数学の問題みたいな会話。もういいもういい。わかった。俺も理解した。っていか、そもそも勝手に入ってくるな!)
「ああ。あの子なら、今日は病院よ。」
という瑞木の声でふっと、急に現実に呼び戻された。
この世で一番病気には無縁そうな男が病院に行っているとなると少し心配にならないと言ったら嘘ではない。が、
「また行ってんの?行き過ぎじゃない?」
月の言うとおりヤンは昔から病院に通っているのだ。俺も詳しい事情は知らないが、ヤンは時々病院で学校を休んでいる。それでも、よりによって今日とは・・・。何かあったのだろうかだ。
「まあ、しょうがないんじゃないか。」
俺は話しすぎてもネタバレになるだけだと思い、この話をこの辺で終わらせた。
「それもそうね。ところで、海ってどこの中学?」
話題を変えるべく、すぐに月が持ち前のコミュ力で海へ質問をした。ありきたりな質問だがこいつがやると違う。そんな普通の時間があっという間に過ぎるくらいに楽しく会話ができる。さすが、コミュニケーション能力=カースト上位を表す象徴だと感心する。
「俺の出所でどころはJapanじゃなくてAmericaなんだ。」
(・・・ひねり潰つぶしたい。)
こいつが普通にその言葉を発したならば「おぉー、すげー。なに、帰国子女ってやつ?」となり、一躍人気者になるビジョンが見える。
だが。ゴメン、目も当てられない。なんだ、その気持ち悪いポーズは。いや、儀式といった方が適切かもしれない。
それにいま、少なくともこの学校の男子を敵に回した理由は他にある。それは「なに、あの金髪の美男子」「アメリカからの帰国子女ってことかな」「見てみれば、美男子と収めきれないわね」とあちこちの女子がこそこそとこいつについて話しているのだ。こんなに悔しいことはない。一度話せば分かるものを見た目きんぱつだけで人気者になりやがる。やばい。ヤンを呼んでこようかな。あいつ呼べば一瞬なのにと心底思う。
「へー。すげー。めっちゃすげー。マジすげー。」
「大丈夫?灯。なんかすごい汗出てるけど。」
(マジか!)
瑞木に心配されるほど汗をかいていた。やばい、動揺しすぎて自分を制御できなくなってしまったらしい。俺もまだまだだと自省する。
(でも今回はしょうがないでしょ。ていうかもう俺の頭・忙しすぎてパンクしそうなんだけど・・。)
「それはそうと、灯。早く職員室に行った方がいいんじゃないのかい。先生が呼んでいたぞ」
海の何気ない一言だったが、これはこいつから逃げ切れるチャンスと隙を逃さずに
「やっべ。忘れてた。行ってくるわ。じゃーな。」
「ちょっと、ともるー!!こいつも連れてってよ!」
「この人、私たちだけじゃどうにもならない。」
俺は美少女二人の声に後押し(?)されながら急いで廊下に出た。
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