第2話  リア充生活のスタート


 目覚めのいい朝だ。空は青く輝き太陽もまぶしい。今日は身体が軽いし、疲れも無い。


 くっ、と毎朝日課の伸びをして、今日見た夢を思い出す。


 懐かしくもあり、トラウマでもある。が、確かに俺のターニングポイントとなったものだ。


 こんなこと学校で寝言でも言えないから、学校では寝ないようにしようと俺は決めた。


 まだぼんやりとした視界で時計を確認するといつも通りの時間であった。


「・・ぁ、・・く・・じ・・はん。」


 それと同時に今日の予定を確認する。俺の今日の予定は、確か高校の入学式が・・。


「九時半?!」


 今日が高校の入学式だと思い出し、何度も時計を見直した。が、見直しても時間は変わらず、希望から絶望に一気に突き落とされた俺は愚痴をたたきながら慌てて準備を始めた。


 <浦峰高等学校入学式・・・登校時間 9:00まで>・・・ダメだ。もう希望はない。【今日は高校の入学式だよ。今日は登校してもそんなに意味ないよ。二度寝した方がいいなじゃない】【ダメだよ。しっかり朝ご飯を食べてから休まないと。】(・・・おい、うるさいぞ。入学式は行かないとダメだろ。)俺の中の天使と悪魔まで壊れてきた。


 いっそ、堂々としていればいいと思い直した俺は、悠々と一階に向かい昨日あらかじめ用意しておいた朝食を食べ始めた。




「・・・以上をもちまして、浦峰うらみね高等学校入学式を閉会します。一同礼」




・・・




「聞いているの!なぜ遅刻したの、明石君。」


 遅刻をした男こと明石灯あかしともること俺は今日から県内学力・部活トップの私立浦峰高校に通うこととなった。地元と少し離れた場所に位置するため実家を離れ、一人暮らしをすることになった。


 まぁ、一番の理由はタダ単に俺が一人暮らしをしてみたかったからだ。だが、その一人ということが早速不運をよんだ。


「いやー、寝坊ですよ。ね・ぼ・う。」


「反省する気が全くないように見えるんだけど。」


「反省してますよ~。俺の目を見てください。」


「目を見てどうこうの話ではないと思う。だいたい・・・」


 この目の前の女性教師、年は推定23~25と推定、名前は知らない。


 彼女は先ほどから鋭い目つきをやめず、怒った口調で言っているが、なんとなくだが違和感を覚える。


「・・・って、聞いてる?こんな、最初にお説教で始まるとは思わなかったわ。もう、時間だから、次の休み時間で職員室にね。じゃあ、席戻って。」


 なんとか切り抜けた。推測だがこの先生、怒るのはあんまなれてない。この先生がどういう人かわからないが、なにか少しあ・り・そ・う・な感じがする。


「よーし、授業を再開するよ~。・・・」




 今日から俺は高校生だ。夢にまでみた高校生。部活に入って全国目指したり、食堂でご飯を食べたり、文化祭をしたり、登下校中に寄り道したり、カノジョ作ったり、バイトもしてみたり・・・。これまでとの生活の違いが半端ないが、その夢のような時間も三年間しかない。なんて少ないんだ。世の中は夢見る少年少女に厳しすぎる。


 だが、限られた時間だからこそ、将来の思い出となると信じている。今までと同じように、いや今まで以上に楽しんでいこうと思う。神様からいただいた、大切な人生というもの。楽しまなくて、どうする。夢を持たないで、どうする。立ち止まって何が残る。その俺のモットー共に今から俺は、




 リアルを充実しにいってくる。




【なんかこいつ痛いこと言ってるぞ。】【控えめに言ってキモいな。】(・・・、おい。)








「とっもる~~!」


俺が職員室に向かおうとすると、いきなり後ろからかわいらしい声が飛んできた。この声の持ち主はあいつしかいない。


「月、声大きいぞ。」


「だって、離ればなれだと思ってたら、同じ学校でしかも同じクラスなんだよ!」


俺に話しかけているこの美少女,神井月かみいゆえは、顔やスタイル、仕草までもがかわいらしいと思える女子高生。その、魅力と言ったら、実際に見ないとわからないほどだ。


 目の丸い感じと口の色っぽい感じが素晴らしく、この上ないくらいで、髪はポニーテールで明るい茶色。月によると染めてはないという。天性の茶髪・・うらやましい。身長は平均より少し高いくらいだが、スタイルは抜群。出るところはそれなりにあり、足も細く長い。俺と十五センチメートル以上離れてんのに足の長さは俺と同じくらいなのではと疑うほどだ。まさに、全てがS級の美少女だ。


 俺は、TVの中の人よりもこいつの方がかわいいのではないかと思っている。゛世の中の男子百万人に聞いた、美少女の理想゛みたいなテレビ番組のほとんどの人がこう答えるであろう姿を実現したような人だ。


 そしてなんと言ってもこいつの声だ。透き通るどころではなく、周囲の男どもを皆振り向かせるほどのハニーボイスならぬエンジェルボイスならぬ女神ゴッドレスボイス。「何だ、入学早々天使の声が聞こえてくる。」「なぁ、何あの子。やばすぎるほどやばいんだけど。」と、入学早々、同中同士で固まっているであろう連中が月のことを噂している。


(うんうん、わかるよ、その気持ち。そのザ・青春を彩るようなメインヒロインあらわる、みたいな夢のような感覚。ラノベみたいな展開来た~!てなる流れは男子なら誰でもなるはずだもんな。でも、俺はそうではない。なぜなら俺は〝超リア充〟の肩書きを(いずれ)持つ男だからな。)




「なんだ。聞いてなかったのか。俺はそんなこととっくに把握してたぞ。」


「えぇー。じゃあ教えてくれてもよかったのにー。・・・って言っといてまさかのサプライズ?私と一緒になるのが嬉しすぎて驚かせたかったのかなぁ?」


 と言いながらどやーって顔で月がぐいぐい寄ってくる。加えて上目遣いもプラスされ俺の心は大ダメージだ。どんな男子でもかわいすぎて意識してしまう。


 いや、そもそも一緒のクラスだっていうのが入学前の生徒にばれてる時点で学校ダメだろ。こいつ気づかないのか、ってそうだった。こいつ、超天然・・・なんだった。


「灯も災難だったね。学校初日に遅刻して怒られるだなんて。もー、あの先生、少し優しくすればいいのに。」


 月とは小学校からの知り合い同士だ。いや、正確には少し違うか。


「そうね。でも、なんか少しおかしいところもあったような気がするけど・・・」


「よぉ、瑞木。今年もよろしくな。」


 この月とはまた違う声の持ち主は月の隣にいた一人の女子生徒、森瑞木もりみずき。俺の幼なじみで、お互いの親が仲良く幼稚園の前から知り合っていた。背は月と同じくらい。しかし、出るところは月より出ている。髪は後ろで結べるくらいのロングで黒。


 ほんとに綺麗な顔をしており、何度見ても美しいと感じてしまう。月がかわいい系だとしたら、瑞木はきれい系だ。幼なじみがこれほどの強キャラで自分はとても運がいいのではといつも思っている。


「今年度なんだけど・・・って、あれ、灯、私の目に何かついてんの?」


「いや、今日も綺麗だな~、って思って。」


 そして、月が「声」ときたら、こいつは「目」だ。こいつの目は、異世界ものでよくある青っぽい緑色である。こいつの目で見られたものは、もれなく死ぬ?というのは半分冗談だが、それでもこいつの目の破壊力は半端じゃなく、色だけでないのだ。二重まぶたでありパッチリしていて、瞳が輝いているようである。


 中学の頃では、そのことで一騒動あったが、それほど美しいものだったのだ。


 瑞木とは昔からの知り合い同士だったが、年頃の思春期もあってか中学の頃はあんまはなさなかったが、後半にはお互いに声を掛け合う仲になっていた。


「はいはい、ありがと。」


 俺の褒め言葉に対して何もなかったかのようにクールに返す瑞木。それに対して、


「いくらかわいいからっておちょくっちゃダメだよ!少し前まで、私に向かって・・・。」


 と、月が教室の皆がこちらに振り向く程のめちゃくちゃ心地のよい声で、俺に怒ってきた。


「ちょ、ちょっ、月さんそのへんでやめてもらわないと。」


「ちょっ、なに、灯?急に大声出して。そんなに瑞木と話したいの?」


(いや、先に大声出したのはそっちだし、俺に出させたのもそっちだから!「・・・」の後何言おうとしてたんだよ。)


 と、思っていたが、俺の方を見ながら頬をかわいらしくぷく~と膨らましているやや怒り気味の月がいた。美少女が似合う行動トップテンには必ず入るであろう、頬を膨らませる行動。


 だが、こいつがやると破壊力が尋常じゃない。


 例えで言うと、向かいから歩いてきた雑誌の中のモデルみたいな綺麗な人のスカートが風でなびいて、中が・・・、みたいな感じだ。【なるほど。お前は変態だな。】【お前はタダのスケベ野郎だな。】(・・・っちょ、うるさい、うるさい!俺はわかりやすく例を使っただけだ。なんで俺がそんなことを言われないとイケないんだ!引っ込んでろ!)


「ま、まあな、俺はただの変態だからな」


 ・・心で思ったことを素直に表に出してしまった。


「え・・・、ちょ、な、なに急に変なこと言ってんの?!」


 月は俺を心配してかただアホなのか俺の胸に耳を当てている。そうなると自然に月のほのかに髪のいい香りがくる。それに加え、制服の間から少しだが月の胸元も見える。


 (あれ、サイコーでは?)


「大丈夫?灯。さっきから変なとこ見てるけど」


「ひぃっ」


 隣から急激な冷気を感じた。さっと振り返ると死んだ魚の目を俺に向ける瑞木がいた。


 こいつの目がもともとやばいから攻撃力が増している。


「みっ瑞木、これは、これはだな、不可抗力というやつで・・、」


「あっそうですか。月、今後はこいつにむやみに近づかない方がいいわよ」


 俺は今の自分の最大限の力を出して弁明したが、瑞木の俺への〝目〟は変わらなかった。


「えっ、なに?瑞木、急にどうしたの?」


 月は何も分かっていないようで首をちょこんとかしげている。俺は、ここだ、と思い、


「ホントだよな。急に冷たくなっちゃって。どうしたんだ?」


 俺はさも何も知らないような素振りを見せ状況を有利に持っていく。


「なっ、と、灯。あんたって人は。はぁ」


「??」


 月は相変わらず何も分かってなさそうで、俺と瑞木を交互に見ている。


 俺は、いつか月は重犯罪に巻き込まれるとここで確信した。


「ともるく~ん。な~~にいちゃついてんの?」


と、三人で再会を喜んでいたの至福の時間だっただが、教室の奥の方から不快な声とともに男子生徒が優雅にこちらにやってくるのが見えた。「誰だよ?こんな楽しい時間だったのに」という疑問は一瞬で消えた。だって、こんなにも不快感を抱かせる人は・・・。お、やっぱり。


「よぉー。海。相変わらずきめーな」

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