伝言ゲーム
「──とは言っても私が知ってることなんて大したことじゃあないんだけどね」
「いいからさっさと話してください。前置きとかは今いらないです」
……やはり二人はいつでもマイペースである。
「──結論から言うと、美濃が持ってる石は恐らく
「なみだいわ……」
聞いたことのない単語である。
「涙岩の伝承については諸説あるけど、私が知ってる話はこうだ。──江戸時代、とある一人の大工頭が、幕府の命によって神社造営のために石材を山へ運搬していた。しかし、ある一つの岩が山の途中でなぜか突然動かなくなってしまった。様々な手を尽くしたが、やはりその岩は動かない。どうしようもないので、その大工頭は山の途中の石段にその岩をそのまま使うことにした。ところがその事実が、当時の幕府にバレてまい、大工頭は罰としてその石段の上で切腹をすることとなる。その際に流れた血の跡が、まるで理不尽な罰に対する大工頭の恨み辛みの涙のようであると言われ、涙岩と呼ばれるようになったとさ──。と、ここまでがよくある昔話ね……。そして、ここからが耳を疑うような本当の話。なんとその涙岩は現実に存在し、どういう原理か人や動物の病を吸い取ってしまうらしい」
「吸い取る?」
「まあ、要するに病気が治るってわけだ。これだけ聞くと最高の岩って気がするでしょ?ただし、問題はこの先にあるんだよね」
「欠片……ですか」
赤信号で停まっている車の中では、所長さんの説明をモアさんが聴き入っている。
「そう。涙岩本体ならば病気を治してくれるだけで済むが、その岩の欠片となると話が別なんだ。欠片にも当然、病を吸い取る力はあるが吸い取った病を処理する力はないらしく、近くにいる者にその病を移してしまうらしい。恐らくこれが美濃に起きてる事だろう」
信じられない、なんてことはない。
私の怪我の回復も、リセの体調の悪化も、それくらい超常的な力でないと説明がつかないものだからだ。
「……それじゃあ、やっぱり」
「何を考えてるかは大体わかるが、その前に瀬野がどうして入院していたのか聞いてもいいかな?できれば入院中にあった出来事もセットで──」
§
それから私は、入学式の日の事故から現在に至るまでの話を二人にしたのである。
「──なるほどね。それであんな依頼文になったわけか。確かに、一番怪しいのは瀬野の病室にいたその占い師だね」
「それに、その人が石を美濃さんに渡して今回の件を引き起こしたなら、事故の多い交差点で店を開いてたのにも理由がつきます」
「それも、どこまでか本当かわからないけどね……。それに、蒼生会は一体どこからこの話を聞きつけたのやら。まだまだ不明なコトだらけだよ」
そうこう話している間にモアさんの運転する車はひとまずの目的地である光里高校へと到着しようとしていた。
リセの家は高校から見て、道路を挟んだ向かいの建物の並びの端の方に位置している。
「光里高校ってたしかあれですよね?ここから美濃さんの家までは、瀬野さんのナビで行きますのでよろしくお願いします」
「いや!その必要は無さそうだよ。どうやら蒼生会に先を越されてたらしい」
「え⁉」
私はすぐに道路の奥、リセの家を確認する。
そこには黒塗りの車が二台停車しており、まさに人が降りてくるところであった。
「リセ!」
「モア、行けるか?」
「当然です。運転において私の右に出るものはそうはいませんから……。瀬野さん、しっかりと座ってて下さい。かなり危ないので」
「は、はい」
焦って運転席と助手席の間へと身体を乗り出していた私はモアさんの注意を受け、席へと戻り窓の上の手すりをしっかりと掴んだ。
「──行きます」
その言葉を皮切りに、車は急加速をする。
突如響いたエンジン音はかなり先まで十分に届いていたのではないだろうか。
そこから、車が中央分離帯を無理やり越え、逆走でリセの家の前に乗り付けるまでほんの数秒であった。
そして現在、リセの家の前には蒼生会とか言うヤクザの車が縦列で二台と、我々が乗る車が一台、向かい合って停車しているという状態にある。ヤクザの車の運転席には、男が唖然とした表情をして座っていた。
「それじゃあ私は美濃を連れてくるから、二人は車で待っててね」
「はい。いってらっしゃいませ」
「え?ちょ……」
なんの躊躇いもなく助手席のドアを開け、リセの家の方へ歩いていく所長さんを、モアさんは当然のように送り出す。
「だ、大丈夫なんですか⁉」
彼の周りには早くもヤクザ達が集まってきており、中には武器を持っている者もいた。
「所長なら心配ありません。あれでも一応、色々と修羅場をくぐってきてますから」
彼女の言葉や視線からは所長という存在に対する大きな信頼が感じ取れる。
「それに……もしも所長にイレギュラーなことが起こっても、私が瀬野さんのことを最後まで守ります。──それが我々の事務所のモットーですから」
その時の彼女の目は先程までとはまた少し違う、覚悟のある目だった。
私はその目に圧倒されると同時に魅了され、一瞬の憧れすら抱いたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます