第4話 ついに陸上部!
『はっはっはっ……』
照らされる日差し、こぼれ落ちる汗、踏みしめる感覚。
初めてのことに何故か違和感を感じること無く、むしろこれが自分の天職とも思える心地よさと共に、彼、橘俊介はグラウンドを走っていた。
それは、入学してから一週間も経たないまだ春真っ盛りの良き晴天の日のことだった。
◇ ◇ ◇
転生して登校して中学生として生活して数日。
突如と増えた連絡先とその数に不安を抱くも、名前が女子だったことで『モテ期来ましたわー』と呑気に考えている彼の元にこんな話題が降ってきた。
――俊介君って部活どうするの?
それはまさに青天の霹靂であった。
何故なら彼にとって、この数日は頭の中の99%が女子で埋め尽くされていたからだ。
と言っても別段女子相手に変な妄想をしていたわけでは無い事も無い。
彼は日々増しに増す女子達からの返信を律儀に返していたのだ。
侮ることなかれ。彼は前世では女子の友達は0人、いやそもそも友達が0人の引きこもり。
女子に関する知識はアニメ、青春についてもアニメで学習した人間だ。
そんな彼が女子からLIMEが送られてきたらどんなに忙しくても無視できるはずが無い。
たとえ相手の顔が分からずとも。
そんな彼はどうにかモチベーションを上げる方法を考え、そして連絡相手の自撮りを要求することにした。
男なら可愛い女の子に弱い。つまり美少女相手なら馬車馬のように働けるからだ(?)。
そしてそれを成し遂げた彼は見事美少女達の写真をフォルダに保存し美少女ライブラリを作成していた。
――この男、何が原因で転生させられたのか既に頭の外だった。
一方対する女子側は、勇気を出して連絡したイケメンに既読無視未読無視されること無く丁寧に返信を貰えたので、「あれ?もしかしてワンチャンある?」と殆どが考え、その後彼から自撮りを要求されたことで「あっ、これ来ましたわ」となっていた。
部活、そう部活。中学生の殆どが入らなければならない部活動だ。
部活と言えば陸上部、陸上部と言えば競技大会、競技大会と言えば盗撮おじさん。
――ついに神様が彼を転生させた本当の意味、その時が来たッ!
一応安心して欲しいのは彼が部活動に陸上部を選ばないという選択が出来ないようになっているという事だ。
理由はもちろん神の意向。この世界の常識をインストールさせるときにそういう設定にしたのだ。
これから女子の皆はえちえちな服を着て敷地内を走る彼を視○し放題なのです!やったね!
陸上部が賑やかになることは間違いないでしょう!部費が増えると良いね!
と言うわけでクラスメイトに部活何するの?と聞かれた彼は自然と『陸上部』と答えます。
もちろんそれを聞いた女子達は大騒ぎ。何と言っても女子は唯でさえ性欲旺盛の繁殖期、唯でさえ男子の薄着を見て色々しているのは当たり前のお年頃。その中でもjsからjdまでもがお気に入りなジャンルである制服物の中でもダントツ人気の陸上ユニフォームを彼が、一日で学校中の女子を魅了したイケメンの彼が着るのです。
この情報は光速を越えて学校中に広まってしまいました。
現に今も彼が陸上部へと共に向かっている最中に「ねえ、聞いた?」「うんうん!!あれでしょ?」「俊介君……ふひっ」「えっとー何だか私無性に走りたくなってきたなー陸上部かなー」「明美ちゃん、うん、ごめんね急に。でも私テニス部じゃなくて陸上部に入ることにしたからさ」「え?!あ、明美ちゃんも?! ……き、奇遇だねっ!」
etc……etc……etc……
そう話す彼女たちは何食わぬ顔で彼の後ろに追従していきます。
どうやら今年の陸上部は部員数が大変そうですね。
しかしそんな事には気付かない彼は昨晩のLIMEにて既に登録済みの七海と部活のことを話していました。
「俊介は何処に入るの?」
『うーん……やっぱり陸上かな。なんかピンときたんだよね』
「え、よりにもよって陸上?!」
『え……何かあるの?』
「あ……え、い、いや私も丁度陸上部に入るつもりだったからさ!驚いただけだよ!」
「え、そうなん? よろ!」
これで七海の反応に何の疑問も抱かない彼は、無意識に”自分がモテるはずない”とフィルターが掛かっているようです。まあこれも時間の問題でしょう。その時をじっくりと待つとしましょうか。
ところでこの七海の”俊介呼び”には他の女子に対する牽制や彼に対するアピールなどその他諸々が含まれていたそうですが、それは彼には伝わらなかったそうです。
頑張れ七海。負ける七波。また勝負は始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇
放課後、彼は件の陸上部の見学に来ていた。
部活見学の指定がされた場所であるグラウンドでは、今週が新入生に対する説明会を兼ねてか机だったりホワイトボードだったりが設置され、机にはパンフレットのようなものが綺麗に並べられており、ホワイトボードには見学時のルールや種目別の振り分け、入部希望の際の注意点が書かれていた。
「……俊介」
『あっ七海か、お待たせー』
しばらくそれらを眺めている彼の元に、どことなく呆れた眼差しの七海がやって来た。
教室では彼がクラスメイトの女子に話しかけられていたためこうして別々に集合したわけである。
「なんか……人数多いね」
『え……本当だ』
後ろを見てそう呟く七海に倣い振り返ると、後ろには30人ほどの集団がいた。
集団には見知った顔のクラスメイトを始めとして初対面の他クラスと思われる女子達が集まっていた。
『……陸上部って意外と人気なんだね?』
そう言って呑気に周囲を伺う彼の態度に、流石の七海も呆れかえる。
「……本気で言ってるの?」
『え、うん?』
「はぁ……」
わざとだったら質が悪すぎる。
そう七海が考えていることも気付かずに彼はノータイムで返す。
――ごめんなさい、素です。
「一体どんな生活をしてきたらこうなるの……?」
尤もなことを思い悩む七海に彼は、”考え事してるし触れないでおこう”と無駄な優しさを発揮したため、過去について詮索されることは無くファインプレーを起こしていた。今後聞かれても良いように言い訳を用意しておくべきでしょう。
さてさて、そんな攻防戦(?)が繰り広げられている中こちらに向かって近づいてくる女子ジャージの集団が一つ。
どうやら現陸上部の部員10名とその顧問が到着したようです。
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