第3話 委員長ほのか



 ◇ ◇ ◇


 

 上げられた声に教室は静まり返った。


 皆恐る恐る声を上げた彼女の方へ顔を向ける。どういう人物なのかと。


 

 

 ――そこには如何にもアイドル然とした美少女がいた。

  



 容姿がアイドル風なのはもちろんのこと、その佇まいや仕草の一つ一つが人目を集める。

 クラスメイト達は彼女から視線を逸らせずに居た。



 「本人達が否定しているんだから茶化しちゃめっ!――――だよ?」


 

 この如何にもぶりっ子が使いそうな『めっ!』を使っても彼女のアイドル風の容姿が影響しているのか、自然と彼女の注意は誰かの反感を買うわけでも無く受け入れられてた。何処からも「ぶりっ子」という声が上がらなかった。

 

 こういうのがカリスマと呼ばれるものなのだろう。



 「ええっと……橘君だよね? ごめんね急に」


 『い、いやありがとう……助かったよ』



 クラスメイトの例に漏れず彼も彼女に見とれていた。

 ただ彼の場合は『某4○グループに居そうな顔だなー』と見つめていただけだったが。


 

 「えっと……そんなに見つめられると恥ずかしいかなっ」


 『……あ、悪い』



 指摘されて彼は反射的に彼女から目を逸らす。

 

 彼女はその反応に微笑んでいた。



 「それと……結月ゆずきさんもごめんね急に」


 「……いや、ありがと」


 「こちらこそっ」


 

 そう言って彼女は七海に微笑む。

 ……何か別の感情が見え隠れしているように感じたのは気のせいだろうか。



 

 「――あっそう言えば自己紹介がまだだったね!」



 お互いに見つめ合うこと数十秒。

 そう言えば、と彼女は視線を七海から皆に送る。


 

 「私の名前は泉原ほのかですっ!苗字は長いのでほのかって読んでくれると嬉しいですっ!これからよろしくお願いしますっ!」



 彼女、泉原ほのかは笑顔でクラスメイト全員に向けて挨拶をした。

 


 「あ、よ、よろしくね! 私は――」


 「……よろしく。俺は――」

 

 

 そしてそこから始まるのはクラスメイトお互いの自己紹介。

 


 驚くべきは女子はともかく本来ならあまり女子に関わろうとしない男子までもが積極的に彼女に挨拶をしていくことだろう。……女子は視線が露骨でキモいと暇さえあれば口にする男子が、だ。

 

 

 そしてこれが彼女がこのクラスのカーストトップになることが決まった瞬間だった。


 


 「うんっ! 皆よろしくね!」



 

 こうしてほのかは自然と中心になってクラスメイトと交流し始めた。

 午後には他クラスにも友達が出来そうな勢いだ。

 

 

 

 ……それに対して彼はと言うと。


 

 何故かほのかを睨み付けるように見つめる七海がほぼ密着する距離で横に居るため、クラスメイトに挨拶することが叶わず『七海って良い匂いするなー』と唯ぼんやりと考えていた。

 

 

 

 切り替えの良さとM気質が彼の数少ない良いところなのかもしれない。

 

 

 


 ◇ ◇ ◇


 

 

 その後。

 担任による学校説明、自己紹介、オリエンテーションと行事を終えた1年4組は昼食を迎えていた。

 

 昼食は中学校なので彼にとっては久しぶりの給食だ。給食とは白衣を着て自分たちで配膳するあの給食である。


 担当は出席番号順のため担当になったほのか達が白衣を着て配膳していた。

 


 「あっ橘君! ……どうぞっ」


 『……ありがと』



 自分の番になったので皿を受け取る。

 そんな彼はほのかから皿を受け取りながら『白衣に合っているなー』と考えていた。

 (実際彼女が白衣を着たときは周りの人達から賞賛されていた)


 

 全ての皿を受け取った後、彼は自分の席に戻る。

 席は名前順だったので彼の唯一の知り合いである七海、ほのかとは席が遠い。



 中学校には給食の時は席の近い人と班を作って机をくっつけて食べるルールがある。

 そのため彼も近くの人と班を作って座っていた。




 「手を合わせてください」


 「いただきます」


 

 『『『いただきます』』』



 日直の号令でそれぞれ昼食を取っていく。

 この班を作る形式は生徒同士の仲を良くするためのものなので会話は自由である。

 

 そのためほのか達のように賑やかに話している班もあれば、七海達のように無言の班もある。

 このクラスは36人のため、班は全部で6班だ。


 

 そして彼のいる班は残念ながら皆が無言の班である。

 いや、正しくは彼の斜め向かいにいる女子が彼に話しかけようとしているが、緊張しているのか話す内容が思い浮かばないのか、実行出来ずにいた。


 もちろん当の彼はというとやはりと言うか何というか『給食うめー』と久しぶりの給食に夢中だった。

 圧倒的美貌で転生させられたことはクラスメイトから話しかけられないからかすっかり何処か彼方に置き去りである。



 給食を食べ始めること5分。

 彼が満足したのか周りへと意識を向け出したとき。斜め向かいの少女が意を決して話しかけた。



 「あの……橘君」


 『うん? どうしたの?』


 「さっきはごめんね。……私てっきり橘君と結月さんが付き合ってるんだと思って騒いじゃったから」


 『そうなんだ。でも気にしてないから大丈夫だよー』


 


 彼、本当に気にしていないので大丈夫ですよ。



 

 「……あ、そっか。でもごめんね。二人がお似合いだったからつい」

 

 

 彼女の言葉に話が聞こえていただろう同じ班の皆が頷く。

 彼はそれを見て言葉を発した。


 

 『いや俺としては嬉しいんだけど、その……結月さんに失礼だと思ったから辞めて欲しかっただけだよ。俺との噂が広まったら迷惑だと思うし』


 『それこそ今日合ったばかりだから尚更かな』



 その彼の言葉に、女子は「顔も良いのに性格も良いとか……橘君っ」と惚れ、男子は「女子相手(泉原以外)にもこの態度を取れるとか男として素直に尊敬できるわ」と尊敬の眼差しを向けていた。

 

 

 『それに折角同じクラスになれたんだし俺のことは俊介でいいよ! これからよろしくね! ………………あっ』



 数秒経て。

 彼は前世を含め家族以外の誰かと話せたことに興奮し、前世で見たアニメ主人公がよく使っていた文言をリアルで出してしまったことに気付いた。


 いや気付いてしまった。


 普通に考えると「誰目線だよ」とか「自意識過剰杉だろ」とか「きもっ」って思われるに決まっているのに。


 

 彼はアニメで主人公がヒロインの頭を撫でヒロインがそれを喜んでいるのを見ると、現実の女子に同じ事をしてしまう系の人間だった。……痛い、痛すぎる。


 


 『あ、ごめん今のは――』



 また前世のように友達0人を達成してしまう。まずい……それだけは。


 危険を感じた彼は、咄嗟に言い訳をしようと試みる。がしかし、

 


 「わ、わわわかった!……しゅ、俊介君///」


 「了解、よろしく俊介!」



 彼等彼女ら気にすること無く返事をした。

 もちろんこれには痛い発言をした彼が一番驚いた。前世では馬鹿にされたのに、と。

 

 

 何故だ、何故こうも反応が違うんだ。彼はその自慢(笑)の頭脳をフル回転させて考え、そして理解した。


 

 仮にアニメ主人公=イケメンという前提があってそこで橘俊介=イケメンが成り立つならば、橘俊介=アニメ主人公となることをッ!つまり余程可笑しな発言さえしなければ概ね良い意味に解釈されるということをッ! 


 

 そうなれば後はこっちの得意分野。元ニート系ラノベエロゲアニメオタクを嘗めるな。

 

 彼は都合の良い解釈をして見事吹っ切ることに成功したッ!



 『よろしく! じゃあ俺も皆のことは名前で呼ぶね!あ、それと今度LIMEの連絡先交換しよう!』


 「え、 本当に?!  ありがとう!俊介君!」


 「了解!じゃあ明日にでも紙に書いて持ってくるよ」



 こうして当初の気まずい雰囲気は完全に解消され、給食が終わるまでの間何処の班よりも賑やかに過ごせたのだった。




 


 ☆ ☆ ☆

 

 蛇足


 この後同じ班の女子はクラスの女子達(ほのかを含む)から、彼と何を話したのか根掘り葉掘り質問攻めに遭い疲労したが、彼女たちは終始顔がにやけていた。

 一方そんな裏山けしからん話を聞いた女子達はというと、着々と彼に感情を抱き始め、家に帰った後に自身のスクールバックに0から始まる11桁の数字を書いたメモ用紙をしまっていたそうだ。


 恐らく明日にはクラス、そして1週間もすれば学年、いや学校中に彼の連絡先が広まることは容易に想像できるだろう。


 


 やったね!これでハーレムだ!

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る