第15話 初めての汽車
それから昼が過ぎ、夜が過ぎた。
四人は朝食を食べ、出発の準備を終えた状態でリビングの中にいた。
オスカーが来たあと、その日のうちに準備を終わらせていたので、四人はある程度くつろぐことができるようになっていた。
「昨日の男、早けりゃ今日に来るって言ってたよな。二人の準備もしたし、これでいつ来ても大丈夫だ」
ラインハルトはまとめられた荷物が入った二つのリュックを見て言う。
「昨日、二人分の子供服やら絵本やらを買いましたからね。出費はありましたが、あとで大隊の本部に請求すればいいでしょう」
「……一応仕事上の出費だが、領収書渡して金が入るのか?」
ラインハルトとゲルダがそんな話をしている間、カスパールとレベッカはリビングで絵本を読んでいる。字を何度も読み間違えながらも、少しづつ内容を理解していく。
そんな時、家のドアベルが鳴る。大人二人はオスカーだと判断し、二人で玄関まで向かう。
ドアを開けてみると、予想通り大きめの黒いショルダーバッグを持ったオスカーが玄関の前に立っていた。
「おーい、迎えのあんちゃんがきたぞー。二人とも、荷物持ってこっちに来るんだ」
オスカーが言葉を発する前に、ラインハルトが子供たちを玄関に呼ぶ。二人はリュックを急いで
「えっと、この金髪の子がリヒテンベルグ家の……」名前がわからないオスカーの様子を見て、カスパールは自身の名を言う。「カスパールって言うんだね。よし、ちゃんと覚えた」
カスパールカスパールと二回復唱し、オスカーは名前を脳に定着させる。
「それでおじちゃん、今日めーれん……? っていう街に行くの?」
「メーレンじゃなくてレーメンだよ……。今日カスパールくんとお友達の……君はお兄さんと一緒にレーメンっていう場所まで、汽車で行くんだよ。おにいさんと、ね?」
レベッカにおじちゃん扱いされたのが気になったからか、オスカーはお兄さんという単語を二度も使いつつ苦笑いをしながら今日することを説明する。
(僕、おじちゃんなんて言われるような身なりじゃないはずだよなあ)
オスカーは自分の見た目が気になり、反射的にネクタイを整えだした。
「それから、お二人にも説明を。帝国第三鉄道の切符と、さらに二枚入場用切符を買ってあります。なので、お見送りをしたい場合はぜひこちらをお使いください。わたくしと子供たちの分は、このバッグの中に入っています」
オスカーが左ポケットから二枚の切符を取り出し、ゲルダとラインハルトに一枚づつ渡す。
「あ、はい。……ところで、ルベリンの中央駅までの車は?」
ゲルダが自分たち含めて五人を乗せる車について質問する。だが、オスカーは答えられない。
──それもそのはずである。彼は家から職場までバス一本で行くことができ、商店街へも歩いて行ける距離にある。そのため、車を使わずして生活ができてしまうのだ。
「あの……。そちらが車を持っていたらぜひ使わせていただきたいのですが......」
「うちは
こうして双方車を持っていないことがわかり、中央駅までは車で向かう事となった。
レンガ造りの外観の建物の中に入ると、そこにはたくさんの人々が行き
「帝国第三鉄道のホームは……三・四番ホームだ。オスカー、電車の出発はいつなんだ?」
ラインハルトは
「えと……出発は十時四十分です。今は何時でしょうか?」
「十時二十六分だ。遅延を考えても、そろそろホームに入って乗車したほうがいい」
そういうと、ラインハルトは少し歩く速度を速める。ゲルダとオスカーはついていけないであろう子供の手を引き、ラインハルトの歩く速度に合わせた。
やがて五人は駅員に切符を
「わあ、汽車だ……!」
「絵本でしか見たことなかったけど、こんな感じなんだ」
カスパールは列車に興味津々だった。一方、レベッカのほうは少し淡白な反応である。
「では、この子たちとはここでお別れ……となりますね。わたくしは向こうに着いたあとこちらに戻っていろいろ報告しにきますので、二、三日お待ち下さい」
ゲルダとラインハルトは小さく頭を下げ、カスパールとレベッカはオスカーの横に立つ。
「では、そろそろ車内に入りますね。二人とも、こっちこっち」
オスカーが誘導し、彼と子供二人は汽車の車内に入り込んだ。
しばらく時間が経つと、汽車の扉が閉められる。時刻は十時四十分より少し進んでおり、いつ発車してもおかしくない時間であった。
「ねえ、ゲルダさん、ラインハルトさん」
窓越しに聞こえるカスパールの声に、二人は振り返って汽車の方へ向かう。
「ん、どうした?」
「……助けてくれて、ありが」
カスパールがお礼の言葉を言おうとしたその時、汽車が蒸気を上げながら大きな
「うわっ!」
二人は汽笛の音に思わず耳を
汽車の車輪が少しづつ動いていく。シュッシュと音を出しながら、黒光りする車体が少しづつ西へ西へと向かい始めた。
「……行ってしまいましたね」
汽車が駅のホームから完全に見えなくなると、ゲルダがふと
「俺としては、ああいうのにはもう出会いたくないな……」
ラインハルトはポケットに入れられていた入場切符を取り出してから、ゲルダの言葉に反応する。
ゲルダはその言葉を聞くと、ラインハルトの方を向いてから口を開いた、
「ああいうのをなくすために、我々がいるんじゃないんですか」
しばらく時間が経つと、二人は
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