第13話 形見と決意
「……あれ?」
いつからか眠っていたカスパールは、ベッドから起き上がって重い
「また僕悪い夢を見たのかな……?」
そう思って周りを見回す。しかし、ここはカスパールの知らない部屋だった。
それに気づくと、彼は慌てて布団を出る。目蓋を擦っていたのが嘘だったかのように、彼の目は冴えていた。
電球の光を頼りに、カスパールはドアまで向かう。ドアまで着いたらそれを開け、カスパールは今いる部屋の外に出た。
部屋の外に出ると、カスパールの家より明らかに狭い廊下があった。ただ質素ではあるが壁紙が貼られ、天井には先ほどまでいた部屋と同じく電気がついている。
……ここは、明らかにオーヘルハウゼンとは違う場所だった。
「……ここ、どこ?」
カスパールは疑問に思いながらも、廊下を左に曲がりそちらへと進んでみる。
そのまま直進するとそこにはドアがあった。カスパールがドアを開けようとドアノブに手をかけようとした時、部屋の中から声が聞こえてきた。
「しかし、あの子供二人も気の毒だ。二人してあんな恐ろしい化け物に両親を殺されちまったんだからな」
ラインハルトの声だ。何者かと話している彼の声からは、その場の深刻さが伝わってくる。
だが、それ以上にカスパールは衝撃を受けていた。夢だと思っていたモンスターの襲撃が、現実であると再認識してしまったのだ。
カスパールは暗い表情を浮かべながらドアを開ける。中にはラインハルトだけでなくゲルダもおり、二人は食卓の大きな机を通して向き合っていた。
「あ、ようやく起きたか。……おい、あの女の子も起きているか?」
ラインハルトはドアが空いた音を聞くと、ティーカップを左手に持ったまま後ろに振り返る。
「あの子は上の階にある私の部屋で寝かせていますよ。……それより、早くこの子にいろいろ話をするべきなんじゃないですか?」
「おっと、そうだそうだった。君、ちょっといろいろ質問したり話したりすることがあるんだけど、いいかな?」
ゲルダからやるべきことを聞かされると、ラインハルトはカスパールに対して質問や伝達をしようと確認を取る。
カスパールはまだ状況がわかっていなかったので、今の状況を知りたかった。彼は口を開かず、無言で小さく頷いた。
「わかったわ。じゃあ、まずお名前と歳を教えてくれるかな?」
ティーカップの紅茶を飲み干そうとしているラインハルトに代わって、ゲルダがカスパールに質問する。
「えっと……カスパール・リヒテンベルグです。歳はいつつ……。じゃなくて、六つです」
カスパールは求められた答えを口に出す。しかし、カスパールの名前を聞いた時、質問側の二人の反応は少し普通とは違っていた。
「リヒテンベルグ……って言うと、あの村に住んでる貴族家じゃないか……。俺たち、貴族サマの御令息クンを保護したんだぜ」
「でも、彼の両親はもう……」
「あんま本人の前でその話はしないほうがいい。……質問に戻ろう。カスパールくんと一緒にいたあの女の子は、なんていう名前の子かな?」
リヒテンベルグ家の
「レベッカっていう子です」
「そうか、レベッカっていうのか……。いや、あの子が魔法を放つのを遠くから見ていたんだが、あんな子供にしては信じられないほどの魔力だったものでな」
モンスター討伐のプロである討伐隊のメンバーにとってみても、レベッカの魔法は強力なものに感じられた。ましてや小学校入っていないような子供がそんな魔法を使ったのだから、彼らにとっては驚きだったのだ。
その時、カスパールたちがいる家のドアベルが鳴る。
「はーい、鍵は開いているので入っていいですよー」
ゲルダの呼びかけを聞き、何者かが家のドアを開ける。
「ルべリン東討伐大隊長のディートリヒだ。失礼するよ」
ドアを開けて中に入ってきたのは、三十代後半くらいの大柄な男だった。口
ディートリヒはカスパールらのいるリビングへ入ってくると、やあと一言声をかける。
「それで、オーヘルハウゼン襲撃事件の結果は?」
ラインハルトは上官であるディートリヒと話すために組んでいた足を下ろし、状況を質問する。
「
そんな……。と、二人の嘆く声が聞こえる。
ここに避難してきたカスパールやレベッカには、帰る家がなくなったのだ。オーヘルハウゼンの村は破壊され、廃村となることがほぼ確定したのだ。
「この子、リヒテンベルグ家の子なんです。それなのに、これから一体どうすればいいんでしょうか?」
ラインハルトは立ち上がり、ディートリヒに問う。それに対し、ディートリヒのほうは困ったような表情をしながら顎髭を触る。
「うーむ……。どこかの養子になるしかない。ゲルダかラインハルト、この子を頼んでも……」
「私は育児経験がある家族がいませんし、ラインハルトは両親が貧しいので……」
ゲルダがカスパールの引き取りを断る。三人話していたことの意味は、カスパールにはまだわからないだろう。
「まあ、その話は後ででもできる。それより、その子の父親……カール・リヒテンベルグのものと思われる遺品を発見した」
そう言うと、ディートリヒは左ポケットから箱を取り出す。
──それは、紛れもなくカールがイルザに贈った指輪の入った箱だった。
それを証明するかのように、ディートリヒは箱を開けて中身を見せる。
「本来ならこういった遺品は国が管理することになるんだが、相続人となるそこの子がいると言うならそちらにお預けしよう」
ディートリヒは膝立ちをして、カスパールの手にしっかりとそれを握らせる。
「まあ、本当は総務省に渡して欲しいとお使いを頼むつもりだったが、手間が省けた」
ゲルダとラインハルトは困惑した表情になる。まさかお使いを頼むつもりだったとは思っておらず、面倒な仕事を押し付けられずに済んだと少し安堵した。
一方、ディートリヒはそのままカスパールの頭に手を置き、優しく撫でた。
「君は……お父さんとお母さんがやられて悔しいか?」
カスパールの頭から手を退けると、ディートリヒは真剣な
うんとカスパールが頷くと、ディートリヒは続けて口を開く。
「……なら、大きくなったら討伐隊に入るんだ。勉強して討伐隊が運営する専門学校に入って、そこで魔法や剣術を覚えるんだ。そこを卒業して……そしたら討伐隊の一員になれる」
カスパールの肩に手を置き、ディートリヒは言う。
カスパールはうまく理解できたわけではないが、それでも討伐隊や学校などという断片的な単語から意味を推測する。
そして数秒経ってから、彼は首を縦に振った。
「よし。じゃあ……小学校に入ったら、まずは勉強を頑張れ」
そう言うと、ディートリヒはカスパールの肩から手を離して立ち上がる。
この時から、カスパールは討伐隊員への道を歩むことになった。
「じゃ、私は帰るとするよ。出張のためにルベリン東駅で切符を買わねばならんのだ」
ディートリヒはリビングから出て、そのまま一直線で玄関まで行く。その時、レベッカと彼がすれ違う。
「あ、カスパール!」
カスパールの姿を見たレベッカは、駆け足で彼の元にむかった。
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