第11話 本当の目覚め
カスパールから夢について聞いたレベッカは、村を心配して急いで箒に
箒に乗り、村へと急行するカスパールとレベッカ。レベッカは出せるだけのスピードを出して村の方へと飛んでいく。カスパールもレベッカの肩に掴まり、落ちないように必死になっていた。
まだ夕方と言うには早すぎる時間帯なのに、空がどんどん
明らかに、普通ではない光景だった。
しばらく進んでいくと、奥の方から黒い煙が上がっているのが見えてくる。村の方で、何かが燃えているのだ。
「急ごう!」
「これで限界よ!」
不穏な予感に、カスパールはついレベッカを
……カスパールの悪夢は、現実となっていた。
目の前の光景は、まさに地獄。これ以上に
オーヘルハウゼンの村がこの時、まさに滅びようとしていた。夕方の薄暗い空が家を焼く炎で明るくなり、辺あたりには生臭い匂いが立ち込める。
村の中には気味の悪い体高一メートルほどの生物が三十体ほどおり、元々のどかだった村の家や畑を荒らし回っていた。
だが、カスパールは一度夢でこの光景を見ている。
衝撃的な光景ではあるが、夢で見た時ほどは慌てていなかった。
「レベッカ、早くうちに行こう!」
化け物たちが家を荒らすのに夢中になっている隙をつき、二人は箒でリヒテンベルグ家の屋敷へ向かう。
二メートルほどの高さで低空飛行をし、いつでも着陸できるようにする。だんだんと屋敷が近づき、両親の無事を祈る気持ちも強くなっていく。
しかし、そこに二人と同じく箒に乗った何者かが突っ込んできた。
「前、前えええええええ!」
「うわああああああ!」
互いに衝突は予期していなかったらしく、衝突相手もつい叫んでしまう。
「ってて……。誰とぶつかったんだ…………。んえ?」
二人の乗る箒と衝突したのは、カールの乗っている箒だった。カールは二人の姿を確認すると、途端に安心したような表情になった。
「よ、よかった……。カスパール、お前は生きていたか」
カールは息子の肩に手を置き、無事を確認する。
「おじさん、あのモンスターたちは一体……?」
「わからない、としか言いようがない。何しろ、奴らは突然現れて村を荒らし回っているんだ。……いきなり前触れもなく現れて、な」
レベッカの質問に、カールは深刻な様子で答える。
「奴ら、イルザを……。お前の母さんをさらって、屋敷や村を荒らしてるんだ! もう…………。助けられそうにない」
カールは目に涙を浮かべ、必死に状況説明をしている。実の父の涙を見て、カスパールの緊張感や恐怖は最大限まで高まっていた。
涙を拭い、カールは出来るだけ平静を保とうとする。
「とにかく、一緒に逃げよう。電線が切れたから帝都への連絡はできなかったが、きっと討伐隊の有志たちが化け物を倒してくれるだろう」
そう言って、カールはカスパールの手を取ろうとした。
「車が壊されたから、箒に乗って行こう」
……そこに、悪夢の足音が聞こえてきた。
ドシンという大きな足音が、屋敷のある方角からやってくる。
化け物の大きさは十五メートルほどあり、身体は赤い毛で覆われている。
頭にはツノが生え、牛と豚を合わせたような顔の口元には大きな牙がついていた。化け物の胴体や手足には大きな筋肉がつき、左手には巨大な棍棒を持っていた。
さらに、右手には何か血で濡れたものを持っている。
……カスパールが夢で見た化け物と、ほぼ同じ姿をしている。
「ブイイイイッ、もっと食える人間はおらんのけえ」
巨大な化け物が当たりを見回していると、その視界の中にカスパールたちの姿が入る。
「こ、こいつだよ……。夢で見た化け物は」
「ブイッ、キサマら、この俺に食われようってのかい」
化け物が棍棒を振り上げて三人を
「ブイイイイッ、逃げようとしてもそうはいかんぞ」
化け物は左手から棍棒を離し、三人が逃げる方向へそれを向ける。指からは小さい火の玉が二つ出てきて、それを逃げる三人に向けて撃ち込んだ。
火の玉はそのまま進み、カールの乗る箒とレベッカたちが乗る箒に当たった。本体に当てなかったのは、彼らを生きたまま食うためなのだろうか。
「うわああああああっ!」
箒の操縦ができなくなったことにより、三人は地面に落ちる。幸いそこまで高いところを飛んでいなかったので、彼らの被ったダメージはあまり大きくない。
「ブイイ、もう逃さんぞ……。キサマらまとめて食い尽くしてやるわい」
そう言うと、化け物は右手に持っている物体──人間の半身を口元に持っていく。
「そ、それは……。まさか、イルザの下半身か?」
イルザの服を着た半身を見て、カールの顔がどんどん青ざめていく。
……カスパールの夢で起こったことが次々に再現されていくことに、カスパールもそれまでとは何か少し違う恐怖を感じていた。
「ブイッ、あの屋敷にいた女と関係あるみたいじゃな……。じゃ、出来るだけ味わって食ってやるわ」
そう言ってから、化け物は残った半身を口に入れる。一噛みすると化け物の口から血が漏れ出し、骨が折られるパキパキという音が辺りにこだました。
二度三度噛むと、化け物は半身を飲み込む。その光景に直面した三人は、すっかり身体が硬直し動かなくなってしまっていた。
しかし、その中でカールはなんとか立ち上がり、化け物と対峙した。
「お前、よくもイルザを食ったな……!」
カールの右手に、水の塊が作られてゆく。レベッカが披露した水魔法で作られたものよりも大きく、人間の体全体をびしょびしょに濡らせるほどの量の水が集まっていた。
「どうやらお前は火属性みたいだから、こういうのには弱いだろう?」
「それはどうかな、人間。この俺が普通のモンスターだと思ったら大間違いだ」
そう言って、化け物がブオオと咆吼を放つ。するとたちまちカールの作り出した水の塊が分解され、空中に散っていった。
「なっ……」
「その程度の魔法なら、これで分解できてしまうわ。俺は分解魔術は得意じゃないから、お前程度が限界だがな」
絶望の表情を浮かべるカールの上に、化け物の足が運ばれる。そのまま足は地面に下され、カールの身体は踏み潰されてしまった。
「おとおおおおおおおさあああああああああああああああああん!」
「うあああああああああああああああああ! やだ、やだやだやだやだやだあああああああああああ!」
カスパールは父の名を叫び、レベッカはあまりのショックで泣き叫ぶ。
イルザが食われ、カールは踏み殺される。この光景は、六歳の少年少女には耐えがたいものだった。
「さーて、残りはキサマら二人か……。ここに来てから食ったのは大人ばかりだし、久々に子供を食ってみるか」
もう片方の足を前に進め、化け物はカスパールとレベッカに近づく。
恐ろしい悪夢からの、本当の目覚めは来るのだろうか。
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