第6話 小説家

2人には上手く入って欲しい。

だが、スパイスも時には必要だと思う。

なんだか、今店から出てきた金髪がやらかしてくれそうな気がする。

ニヤニヤしているのを気付かれないように口元を隠す。


『先生?原稿は明日までですからね。聞いてます?』

担当が念押ししてくる。

実は原稿はもう仕上がっている。だが締め切り前に上げると新しい仕事を次から次へ持ってこられるのが嫌で、いつも締め切りギリギリで上がったことにしているのだ。


こんな良い景色の職場を見渡せるビジネスルームを手に入れた自分は、なんて恵まれているんだろうか。

小説家として書けなくなった自分を鼓舞する為に、思いきって借りたビジネスルームだったのだが、ネタは目の前にあったのだ。

マイクのレストランの、道を挟んだ向かい側のビジネスルームが借りれるなんて、運が良すぎる。

毎日のように流星とマイクが働いているレストランを眺めながら妄想を膨らましてはペンを走らせている。


実は同級生同士だとか。実は学生の頃から気になっていたとか。さっき店から出てきた金髪は留学先が一緒で、日本まで追い掛けて来たとか。

何冊でも小説が書けそうだ。


『いつものレストラン予約しておいて。』

明日までに原稿上がらなかったら予約はしませんよ。と、玄関が閉まる。


流星とマイクが働いているレストランはもう何回も足を運んでいる。

本当はもっと行きたい所だが、ご褒美のようにしないとペンが進まないために小説が仕上がったら行くことにしている。

その為短編が好ましい。

レストランに足を運ぶ度に少しずつ2人の名前や関係性がわかってきた。想像していたよりも、2人は良い感じだ。


レストランでは他にも働いている従業員がいるが、オープニングスタッフの結子さんは自分と同じ目で2人を見ているような気がする。

いつだったか、マイクと流星がわちゃわちゃしていたときにバチッと結子さんと目が合った。


『眼福ですね。』

心の中で会話が出来た。ような気がした。

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