第2話 流星

休憩室の扉のノブを握りしめる手が震えている。

扉の向こうにマイクが居るのだ。

何て声かけよう。

『カラン。』

手に持ったアイスコーヒーの氷が溶ける音がする。

早く扉を開けなくては。

マイクにアイスコーヒーを持って行く順番がやっと廻って来たのに、なかなか足が動かない。


流星は自分が特別な人間だと自覚があった。

子供の頃からその魅力を存分に発揮して生きてきたのだ。

いつも学校一可愛い子と付き合えたし、余計な仕事は流星がにこりと微笑むだけで、周りの人が片付けてくれた。

今まで何でも攻略してきた流星にとって、マイクは特別な存在感だった。

実はマイクと流星は同じ大学だったが、マイクは気付いていないようだった。


『お互い人気物は大変だな。』

たまたま学部が重なった時にマイクに話し掛けてみた。

マイクは机から顔を上げて流星の事を上から下までじっくりと見てから、すまなそうな顔して言った。

『ごめん、会った事あったっけ?』

『あの飲み会の時かな?』

マイクが言い訳をすればするほど、流星は恥ずかしくなって今すぐにでもその場を離れたかったが、学校の有名人が2人揃った珍しい場面に人が集まってしまって、簡単には脱け出せそうにはなかった。

俺に興味が無い人間が居るなんて!

『俺流星。って言うんだけど知らないかな?』

マイクにだけ聞こえるように耳元で言ってみる。

そして魅力的な笑顔も付けて。

『流星?もしかして斉藤の弟か!』

全然違う。そして声がデカイ。

クスクスと取り巻きから笑い声が聞こえてくるような気がする。

その後、何とかカントカその場を逃げだした流星は近場のトイレに逃げ込んだ。

冷水で顔を何度洗っても火照りが収まらない。


恥ずかしい。

間近で見たマイクの顔が忘れられない。どこのハーフって言ったっけ?堀の深い顔。長い睫毛。そしてやさしい低い声。

『あいつ、一生懸命に思い出そうとしていたな。初対面なのに。』


初めて話し掛けた時の事を、今でも昨日のように鮮明に思い出せる。

あの日からマイクは気になる存在から、気になり過ぎる存在になった。


アイスコーヒーの冷たさに持つ手が痺れて、感覚が鈍ってきた。

深呼吸してから、

思いきって休憩室のノブを捻る。









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