八月:お兄ちゃんと一緒に夏の定番イベントに参加すること その1

 夏だ! 海だ! お祭りだ!


 てなわけで今月の課題は夏の定番イベントを萌夏と一緒に堪能すること。

 おっと違った。

 萌夏が僕と一緒に堪能すること、だったね。


 似ているようでこの違いはとても重要だ。

 あくまでもこの課題は萌夏を成長?させるためのものだから。


 そしてその萌夏はというと。


「どこ見てんのよ! 変態!」


 なんて言いながら家の中を薄着で歩いている。


 夏だからなんて言い訳して僕に見せるために着てくれてるんだよね。

 ちゃんと分かってるから。


 眼福眼福。


「それで萌夏はどれにするか決めたの?」

「…………」


 どうやらまだのようだ。


 八月の課題は『お兄ちゃんと一緒に夏の定番イベントに参加すること』


 全部参加する必要は無くて、一個だけでオッケーとのこと。

 僕としては全部余すことなく萌夏と堪能したいけどね。


 萌夏はどのイベントにするか迷っているようだけれど、選ぶなら一つしか無いと思うんだ。


 僕の希望的には水着イベント。

 現実的にはBBQ。


 BBQは外で一緒にお肉焼いて食べるだけだからハードルはかなり低い。

 なにしろ僕に近づいたり話をする必要すら無いからだ。

 だから今月はとても簡単でおかしいなぁって思ってたんだけど、ちゃんと策が用意されていた。


『イベント二種類目以降ボーナスあり』


 つまり今月は僕と一緒に過ごせば過ごすほどたくさんのお小遣いが貰えるということ。

 萌夏がBBQ以外も選ぶ可能性は十分にある。


 なお水着イベントが希望だなんて言ったけれど、本当にそれを選ばれたら困ってしまう。

 だって萌夏の魅力的な水着姿なんて見たら自分を抑えられる自信が無いもん。




 さて、課題の事はさておき別の問題がある。


 高校一年生の夏休み。


 受験勉強に悩む必要もなく、宿題の量も種類も中学時代より減っている。

 それすなわち遊ぶ時間だらけということだ。


 そして残念なことに萌夏には友達がいな……少ない。

 だから誰かと遊びに行くなんてこともなく家に引きこもっている。


 夏休み最初の頃はゲームでもやって時間を潰していたのだろうが、もうすでに飽きてしまっているようだ。


「お兄ちゃん、暇」


 退屈は人を殺せると言うが、萌夏の羞恥心も殺してくれたらしい。


「何かして遊ぼうか?」

「なんで私がお兄ちゃんと遊ばなきゃならないのよ!」


 ツンデレちゃん特有の不条理が綺麗に決まったね。


「だって萌夏と遊びたいんだもん」

「お、お兄ちゃんがそこまで言うなら遊んであげても良いけどね!」


 ちょろい。


 僕相手だからだってのは分かっているけれどチョロすぎて心配だよ。

 悪い人に騙されないでね。

 いや、僕が守り通すからそれはあり得ないか。


「それで何をやりたいの?」


 デート!

 って言ったら行ってくれるかな。


 セックス!

 って言ったらしてくれるかな。


 僕の予想ではどっちもツンデレちゃん化すら出来ずに真っ赤になって卒倒するかな。

 だからまだこれらは言えない。


「じゃあゲームでもやろうか」

「ゲームぅ? まぁ良いけど」


 ふふふ、嬉しそうな表情が隠せてないよ。

 一人で遊ぶのは飽きていても僕と一緒ならそうでも無いんだろうね。

 いや、僕と一緒ならなんでも嬉しいか。




「やった勝った!」

「萌夏強いね」

「お兄ちゃんが弱すぎるだけだよ」


 もうちょっと頑張ってくれないと張り合いが無いよ。

 べ、別に決して友達がいな、少ないから一人でやりこんで上手くなってる訳じゃ無いからね!


 むぅ、なんかお兄ちゃんが優しい目で見てくる。

 バレてないよね、怪しい。


「何か変な事考えてるでしょ」

「萌夏可愛いなって思ってるだけだよ」

「んにゃっ!?」


 にゃにゃ、にゃんてこと言うのよ!


 嬉しい! 


 嬉しいと言えばこうしてお兄ちゃんと一緒に遊べるのもすごく嬉しい。

 だって小学生の時以来だよ。


 お母さんが課題なんて言い出した時には馬鹿じゃないのって思ったけど、おかげでお兄ちゃんとこうしていても逃げ出さなくなれた。

 悔しいけどありがとう。


 今月の課題だってそう。

 毎年お兄ちゃんと夏のイベントを楽しみたかったのに恥ずかしくて全部出来なかった。

 何回も誘おうとして出来なくて、その度にベッドで泣いてたなあ。

 でも今年は課題のおかげで泣かずに済みそう。


「萌夏とこうして遊べて嬉しいよ」

「はぁ? 何言ってるの? 超キモイんですけど」


 私も超嬉しいよ。


「てっきり今年も二人っきりなんて恥ずかしいって避けられるかと思ってた」


 ……

 …………

 ……………………


 二人っきり?

 今、この家には、私と、お兄ちゃんが、二人っきり?


 お父さんもお母さんも仕事だから、平日はいつもお兄ちゃんと二人っきり。


 ああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 課題の事ばかり考えてて忘れてた!


 お兄ちゃんと二人っきりなのを意識しちゃって毎年まともに話せなかったんだった!


「あ、あれ、もしかして気付いてなかった?」


 はいそうです気付いてませんでした。

 今になって凄い緊張してます。

 ゲームどころじゃないです。


 うわああああん!

 せっかく今年はお兄ちゃんと毎日遊べると思ったのにダメそうだよー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る