七月:毎日一緒に登下校すること

「お兄ちゃんの馬鹿! 変態! 死ね!」


 今日もお兄ちゃんの着替えを覗いてツンツンハァハァハァハァハァハァしちゃった。


 結局私は変われませんでした。 


「うわああああああああん!」


 だってまだ恥ずかしいもん!


 お礼を言えるようになったし普通に話も出来るようになったけれど、照れておかしくなっちゃうのは治らなかった。


 だからまだイチャイチャ出来ないよー!


 ぐすん。


 でも良いもん。

 お兄ちゃんのおかげで少しずつ前に進めてるから。


 さぁて、七月の課題は何かなぁっと。


『お兄ちゃんと出来る限り毎日一緒に登下校すること』


 なぁんだ、こんなの簡単じゃん。

 これで今月もお小遣いゲットだね。


 そして夏休みに向けてお兄ちゃんを誘惑するためのあれこれを買うんだ!




「萌夏、行くよ」

「ちょっと待ってよ。全く、女の子を急かすなんて最低ね!」

「そうはいっても、これ以上遅くなると遅刻するかもしれないからさ」

「え? 何言ってるの? 全然余裕じゃん」


 おっと、普通にびっくりしちゃった。

 だって今から出てもかなり早く着いちゃうんだよ。

 変なお兄ちゃん。


「お兄ちゃんと登校なんてマジあり得ない。課題だから仕方なく一緒に歩いてあげるんだからね!」

「そうかそうか」


 嘘です。

 超嬉しいです。

 お兄ちゃんと一緒に歩けて最高です。


 いつか手を繋いで歩きたいなぁ。

 ううん、そんな弱気でどうするの。

 腕を組んで歩くくらいの夢を持たないと。


「クラスでは上手くやってるか?」

「はぁ? 何でお兄ちゃんにそんなこと教えなきゃならないの?」

「心配だから」

「別にお兄ちゃんに心配されなくても平気だし、友達もいるし」


 心配してくれて超うれぴい。

 でも大丈夫だよ。本当に友達いるから。


 丸越さんだけだけど、一人だけだけど嘘じゃないから!


「つーかうざい。馴れ馴れしすぎ、話しかけないで!」


 嘘です。

 もっとお話ししたい。


 でも恥ずかしいからこれ以上は困るの。


「僕はそれでも良いけど、萌夏は話をしなきゃダメなんじゃないかな」

「はぁ?」


 どういうことかな。

 課題は登下校以外の条件書いて無かったよね。

 一緒に話をするなんてこと書いて無かったよね。


「ほら」


 お兄ちゃんが指さした方向には見知った人が居た。


「丸越さん!?」


 私の唯一の友達。

 クラスメイトの丸越さん。


 彼女が前を歩いていて、しかも何故か・・・私達に気付いて止まって待っていてくれた。


 そうか、お兄ちゃんとじゃなくて丸越さんと話をしなきゃダメってことなんだ。


 あれ、丸越さんが私の友達だってお兄ちゃんに紹介したっけ?


 それにこれって、お兄ちゃんと仲良く登校しているところを見られ……


「おはよう、四季さん! ああ、それだとどっちか分からないね。じゃあ萌夏ちゃん!」


 ぴゃあ!


 友達に名前で呼ばれちゃった!


 嬉しい。

 中学の頃はクラスメイトにもツンツンしちゃってたから友達少なかったの。


 …………見栄張りました、居なかったの。


「萌夏ちゃんったらお兄さんと仲良しさんですね」

「ちょっと丸越さん!」


 そんなこと言われたらツンツンが発動しちゃうよ!


「大好きなお兄さんと一緒に登校出来るなんて羨ましいなぁ」

「丸越さんダメ!」


 止めて!

 私の気持ちをバラさないで!


「あれ、もしかして大好きってまだ秘密……え、だって恋人みたいに見え……!」

「何言ってるの!?」

「ご、ごめんなさーーーーい!」


 うわああああん!

 私のライフはもうゼロよ!


「あはは、何か凄い子だったね。萌夏の友達かい?」

「友達なんかじゃないもん!」

「ふふ、ケンカしても良いけどちゃんと後で仲直りするんだよ」

「う~~~!」


 ってあれ、お兄ちゃん丸越さんのこと知らないの?


 それに彼女が言ってたことを気にしてないみたい。

 もしかして何かの勘違いだとでも思っちゃったのかな。

 それはそれで寂しいな。


 あれ。


 そういえば丸越さん最後にとんでもないことを言ってたような。


 恋人みたいに見える?


 私とお兄ちゃんが?


 一緒に歩いているだけで?


 ……………………ぴゃああああああああ!


 た、たた、確かにそうだ!


 男女が一緒に登校してたら付き合ってるように見えちゃう。


 じゃあ今もみんな私達を見てそう思ってるの!?


 恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいい!


「萌夏どうしたの?」

「べ、べべ、別に何でもないわよ!」


 なんでもなくない!


 どうしよう。


 私とお兄ちゃんが恋人、えへへ、えへへへ、じゃなくて、恥ずかしくてこんな姿見せられないよ!


 学校に近づくにつれて多くの人に見られると思うと足が前に進まないよ。

 まさかお兄ちゃんこれが分かってたから早めに家を出たの!?


「私先に行くから!」


 時間がかかったけれど、学校のすぐ傍まで来た。

 ここまで来たら一緒に登校したってことになるよね。

 帰りも学校から少し離れたところで待ち合わせして帰れば人目にあまりつかないで済むよね。


「それだと課題クリアにならないけど良いの?」

「え?」


 なんで!?

 このくらい許してよ!


「だってここで別れるのは不自然だよ。母さんのことだからきっと最後まで・・・・一緒じゃないと認めてくれないと思う」

「最後まで?」


 登校の最後って何?

 校門に入るところまで?

 それともまさか……


「ちゃんと教室まで送っていくからね」

「ぴゃああああああああ!」


 お兄ちゃんと一緒に登校したことがみんなにバレちゃううううううううう!


 この課題も超つらたん。

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