第2話 入団
『落ち着きましたか?』
空気が喉を通るたびにざらついた音がする。ひとしきり絶叫したあと、両膝にそれぞれ手をのせて呼吸を整える。どこを見渡しても宇宙空間。しかし、走り回ることはできた。
物理法則どころか、人類の叡智が見つけた世界のルールが適応されていない。信じられるのは自分の感覚だけだと、めぐみは思った。次第に息も整い、やるべきことが見えてきた。
「……それやめてください」
『それとはどれのことでしょうか?』
「その……脳内に直接語りかけてくる的な?エスパー?超能力?魔術?的なやつです」
『申し訳ございません。当団では効率の観点から、DMにてご干渉させていただきます故、ご了承ください』
「ご了承って、そっちがお尋ね者でしょうが。まあいいわ、とりあえずコミュニケーションが取れるだけましってところかしら。色々はっきりさせておきたいことがあるんだけど、質問いいかしら?」
光が点在する闇の空間で、やるべきことはなにか。自分の置かれている環境の掌握を試みた。
『どうぞ』
「まず、あなたは誰?ここはどこ?話しかけた目的は何?どうやってこんな場所を作り、私に話しかけているの?」
『私は【就業斡旋センター】の窓口を担当しております、エンジェルと申します。
ここは異世界の入り口です。
目的は2つございます。1つは是非とも当団に入団していただきたく、お声をかけさせていただきました。2つ、こちらは天野様の入団が決まり次第お伝えいたします。現段階では回答を差し控えさせていただきます。
この場所は天野様がお作りになられた場所なので、作り方のご質問にはお答えできません。
天野様にはダイレクトマジックと呼ばれる能力で話しかけております。
以上が回答になります。』
めぐみは疑り深く、眉間にしわを寄せて曇り顔のまま話を聞いていた。ときおり険しい表情に晴れ間が訪れる。頭で復唱しながら、損得勘定で情報を仕分けていく。
「私が作った場所って、どういうこと?そんな能力はないんだけど」
『あります。この場所は天野様がお作りになられた場所です』
「そうなの?私にそんな力があったなんて……」
非現実な話だと疑ってみるが、視覚情報がこの話を裏付けようとしている。
『はい、ございます。人間はみな、このような能力を持っています。天野様は人間なので、作れて当然ではあります』
「ゑ?みんな作れちゃうの?そうなの……」
一瞬の特別感はめぐみを気持ちよくさせた。束の間ではあったが、その効果は続いているようで、話にのめりこんでいく。彼女自身は気持ちの変化に気づいていない。左ひじをつかんでいる手に力が入る。
「その、入団したら異世界で生活することになるの?」
『はい』
「リモートとかできないの?」
『できません。例外はありません』
「異世界生活に不安があるんだけど、サポートとかあるの?」
『ございます。それはもう!手厚くサポートいたします』
聖母のような耳に心地よい声質。エンジェルの語気が上がり、めぐみはさらに気分がよくなった。
「あとあと、帰れたりしますか?」
『もちろんです!気に入らなければ、かえることもできます!』
「そっか、じゃあちょっと体験してみようかな!私入団します!」
片手をあげ、高らかと宣言する。たくさんの疑問を残しながら就職先が決まった。異世界生活の不安など、就職苦の前では吹き飛んでしまう。そう思わずにはいられないほど、めぐみの瞳や挙動が生き生きとしてきた。
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