第5話 お題「過ぎる」

 2019年 9月30日

 

 「何だろう……、この家」

 俺は目を惹かれた。

 それは昭和と平成の間に建てられたような雰囲気の家だ。

 自転車に乗り、たまたま、本当にたまたま、走っていたらここで足を止めていた。というか着いていたが正しい。


 家の門は、完全に閉め切られている。

 なので、俺は石垣の塀に自転車を立てかけ、家のチャイムを鳴らしてみるが、誰も出てくることはなかった。

 門に手を掛けてみる。すると鍵がかかっていなかった。横にスライドさせると玄関が見える。なんの変哲もないただの玄関だ。それが逆に怖かった。

 俺は、おそるおそる玄関のドアを開けた。

 そこは、暗く先の見えない廊下が続いていた。

 俺はつい家の中へ入ってしまった。振り向いたら玄関は閉まっていた。俺は開けてみようとドアを押すが、開くことはなかった。何度も挑戦するが決して。そしてそれについて考え込むが、その答えはわからずじまいだった。

 「考えていても、変わらないか……。とりあえず、動くしかない」

 靴を脱ぎ、廊下を進んでいく。廊下は左右の壁は見えるが、奥へとたどり着くことはない。

 延々と歩き続けていると、1つの扉に辿り着く。

 俺はドアノブに手を掛ける。1回、深呼吸をしてゆっくりとドアを開ける。

 目の前に広がるモノに、息を呑んだ。


 「何だこれ……」


 そこには、胸の前で手を組み仰向けで寝ている老人がいた。

 老人は微動だに動かない。そのため、老人の呼吸を確かめようと、口元へ手をかざす。

 すると、老人は目をギロっと開けたのだ。大きく息を吸い、俺の腕を掴んでいた。

 「う、うわっ!」

 俺は老人の手を振り払おうとしたものの、あまりの手の力強さに振り払うことはできなかった。

 驚きでフリーズした脳を覚まそうと、掴まれていない左手で頭をおもいっきり殴った。脳は揺れ気持ち悪かったものの、フリーズは解けた。俺は再度息を吸い、老人の手首に攻撃をする。すると、腕と手首はちぎれた。想像以上に脆かったのだ。

 「アアア……」

 老人はうめき声をあげていた。

 「わ、ワたシは……タだ……、ジかんガ、ほしかった……ダけ」

 ぼそぼそとそう呟いたのちに、老人は塵となって消えていった。

 目の前の異様な現象、緊迫感に迫られていた俺は、呼吸を乱し、座っていた。

 あれからある程度時間が経ち俺は、この家から出ようと決意し、ドアノブに手を掛けるとすんなり開いた。

 このよくわからない家から出られる、そんな安心感の中、廊下を歩いていると、行きとは違い、すぐに玄関へ辿り着いた。

 遠慮なく、俺は玄関のドアを開けると、目の前に広がるのは。


 空は灰色で雪は降り、周辺の家は無くなっていた。というか壊されたような痕すら見える。

 玄関に立てかけられていたはずの自転車は跡形もなくなっていた。

 先ほどまでの安心感は吹き飛び、俺は全身が震えていた。おそるおそる、ポケットのスマホを出す。そこに映しだされていた文字に驚きを隠せない。


 2119年 9月30日


 いたはずの世界は、100年も過ぎていた。

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