第4話お題「部屋・富士山」

 日本一の高さを誇る山、富士山。

 その富士山が放つ、荘厳さや風格に、海外の人も魅了され毎日来日する人は後を絶たず、観光地として栄えているという。

 僕は現地に行ったことなんてない。遠くの遠くに、窓越しで見たことあるくらいだ。

「いつか見てみたいなぁー」

「何? 富士山? 好きだよね」

「そりゃあ、あんなに綺麗な景色の山、生きてるうちに見てみたいよ」

 僕の世話をしてくれている看護師さんが、話に付き合ってくれる。スマホも触れなくなった僕は、看護師さんと主治医の先生にどうにかお願いして部屋に富士山のタペストリーを飾らせてほしいとお願いして、快諾してもらった。この事に関しては頭が上がらない。

 これを話そびれてたね。僕は今個室の病室で寝たきり。体は動かないしほぼ起きているのかって言われたら難しい。それくらい重病なわけで。だから、夢の富士山を見ることは出来ない。叶うことの無い夢なんだ。

 今日、一日が終わる。あとは寝るだけ。単純な話。身体が動かないんだから、寝るくらいしかやることが無い。


 目を閉じて、夢の世界に入っていく。それは深く深く。そうして目が覚めていく。

 そこは目の前に富士山がある。本や写真で比べるのは、失礼なくらい言葉にできない風景だ。

 僕は気がついたら立っていた。手足が思い通りに動かせる。こんな感覚だったっけと思ってしまうくらいには昔の事だったのだ。

 せっかく起きたら富士山にいるのだ。これが例え夢だとしても登らないと、それは富士山に失礼だと思い、俺は登山を始める。こじんまりとした山小屋で登山道具を一式借りて、リュックを背負い、登り始める。

 運動なんて何年ぶりだろうか。病気になってから、過度な運動は、ドクターストップされていたため、登山ができるという時点で嬉しいのだ。

 僕は登り始めた。今まで身体を動かせなかった反動で、身体が追い付かないと思っていたけれどスタスタと登れている。3合目、4合目となんの苦も無く登っていく。

 標高が上がっていくと、呼吸をするのも一苦労。だが、その辛さも噛みしめる。今までの自分としては味わえない感覚であったので、嬉しい限りだ。

 僕はせっかくなら初日の出を見たいと思い、時間を少しずらし、夜の山道へ挑戦する。真っ暗な世界に白い息が、吐いては消えを繰り返してる。進んで止まって、山登りの大変さに苦戦する。

 だんだん、日も登ってきた。これは日の出に間に合うかどうかである。必死に歩き続ける。今はもはやここまで来たんだという思いが僕を支えていた。

 ハァハァと息を上げ、苦しくも本当にギリギリで辿り着いた山頂。頭に酸素が回らないためか、目眩が酷い。少し大きな岩を背もたれにしてうずくまる。頭に酸素を回すために大きく息をする。

 やっと落ち着いてきて、顔を上げる。そこには、燦然と光り輝く朝日が目の前に上ってくる。その陽光に、目が眩むも、その眩しさは、ここまで来た僕の事を褒めたたえているようで。

 1つ、何かを成し遂げられて良かったと心から思っている。すると、僕の足元からサーっと消えていく。

 「そっか、もう限界だね」

 どうやら、命の限界がきたみたいだ。膝から崩れ落ちていく。地面に身体がつく瞬間には、僕の意識は消えていた。

 

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