第2話 黒昼夢
とある昼下がりのオフィス。
「伊崎、これ任せた」
「了解しました」
部長はひらひらと手を振りながら、俺の目の前から去っていく。
伊崎と呼ばれたのは俺だ。
部長は、仕事をこちらへと流してくる。出世にしか興味が無い部長は、めんどくさい仕事は全部部下頼み。今回も俺。毎回こき使ってくるわけで。上司だから反論出来ないのをいいように使ってくる。
「さっさと片付けるか……」
俺は書類に手をつけようとすると、頭がハンマーで殴られた後のようにクラっとした。それはそうだ。ココ最近、残業続き5日目。家に帰っても飯なんてコンビニ弁当で済まして、出来る限り早く寝ても2時間が限界。それで仕事を続けてたらこのざまだ。そのまま俺は机に……。
「……なた」
「んんん……あれ俺は……」
「やっと、起きた。おはようあなた」
あれ、俺はベッドの上。頭に侵される睡魔の影響で寝ていたような……。でもここは知らないベッドだし。というかここはどこだ。
ベッドの傍に立つ彼女は、周りを見渡す俺に対し、少し首を傾げ不思議そうな顔をしている。
「どうかしました?」
「ご、ごめん、ここどこかわかる?」
「えっ? ここはあなたの家ですよ?」
あれ? 確かに。部屋をよく見れば俺の好きな漫画が本棚にあったり、ゲームとPC用のテーブルもあったり。今住んでる家よりも、かなり広い家だ。それが俺の家? そんなまさか。
「俺は平社員だったんだよ? こんな大きな家手に入れられないよ」
「いいえ、この家はあなたのですよ。それは間違いありません」
「そ、そうなのか……」
「えぇ。 そうだ朝ごはん出来てますから、早くリビングに来てくださいね」
「分かった。 今行くね」
俺は不思議に思いつつも、リビングに向かう。
リビングに繋がる扉を開けた先には、ココ最近ずっと続いていたコンビニ弁当とは全く違う誰かの作ったご飯が目の前に並んでいた。
「おぉー!」
「うふふ、そんなに驚かないで下さいよ。いつもの事じゃないですか」
「あっ、ごめんごめん。つい……」
「さぁ、冷めちゃいますからアツアツのうちに食べちゃいましょう!」
「おう!」
今日の朝食は、鮭の塩焼きに納豆とご飯。そして味噌汁、サラダと並んでいて、朝ごはんとして食べるにはもったいないくらいだ。
俺はこの食事を噛み締めながら食べていると、彼女はこちらをニコニコしている。彼女の食べる振る舞いも、性格が出ているのだろう。上品でゆったり食べている。うん、朝ごはんとしては最高という言葉に尽きるだろう。
俺はご飯を食べ終えて、彼女にスーツを着てくれと言われ、言葉通りにクローゼットにあったスーツを着た。鞄を持って、玄関で靴を履く。トントンと靴先を整えると、後ろには、彼女が居た。
「いってらっしゃい、あなた」
「あぁ、行ってくるね」
「あぁ、あなた、忘れ物です」
「えっ? 忘れ物あった……」
トトトっと近づいてきて、俺の頬を優しくキスをした。頬へのキスですらされたこと無かったから同様してしまった。
「あらためて、いってらっしゃい」
「う、うん。 いってくるね」
俺はドアノブに捻りドアを開けようとした時に、ふと思ったことを口にした。
「ねぇ、そういえば君ってだ……」
後ろに振り向くと、鎌を持ち、振りかざした彼女がそこにいた。
「さよなら。あなたは死んでるの。だから最後くらい幸せを見せてあげようと思って。」
俺は彼女の発言から間髪なく、首が斬られていた。
「言わなくちゃいけないことがあったわね」
「えっ?」
俺は動揺してなのか、首を斬られてだからなのか全く喋る事が出来ない。
「あ、あ……」
「逝ってらっしゃい、あなた」
そのまま開いたドアの先は、真っ暗闇の場所でそこも見えなくて。俺は身体が斬られてそのまま落ちていった。
あの味わった幸せは、束の間の幸せ。そしてこれは昼に気絶した事で見た、一時の白昼夢、いや黒昼夢だったのか。
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