Lovely 34 year old modern lifestyle|愛しき34歳のモダンライフスタイル

 朝6時50分。ベッドから離れて置いてある時計のアラームが、控えめな音量で僕を起こす。まだ眠っていたい気持ちもあるが、朝早くから動き出す1日は好きだ。ここ1年くらいは休日でも早起きすると決めている。カーテンを開け、前面に日の光を浴びながら伸びをすると、頭の先から眠気がスルッと抜けていく感じがする。リサイクルショップで一目惚れして買った深緑のマグカップに、オーガニックのドリップコーヒーを入れるのが、僕の休日の始まりだ。コポコポと音を立てながらマグカップに溜まっていくコーヒーを眺める度に思う。こんなに真っ黒で、苦い飲み物を誰が初めて口にしたのだろうと。


 コーヒーの香りを纏った湯気は本当に美しい。僕はマグカップとタバコを手にベランダに置いた小さな丸椅子に腰掛け、タバコに火をつけた。ベランダから街を見渡すと、人の気配はなく、遠くで車が数台走っているだけだった。世の中がまだ動き出していない中で、自分だけが贅沢な時間を過ごしているという優越感が、朝早起きする理由の一つでもあった。大きめのガラスコップにiPhoneを入れ、jack Johnsonをかける。コップの中からこぼれ出す音は、とても柔らかく、優しく部屋に広がる。朝食は食パンに、蜂蜜を垂らすだけのシンプルなもので、少し冷めてきたコーヒーとよく合う。少し前までは、休日といえばおしゃれをして、人と会い、何か日頃できない特別な体験をすることに必死だったが、今では部屋の隅に置いた小さな一人がけソファーに腰掛け、冷たくなったコーヒーを飲みながら読書をすることで十分だと感じる。日当たりの良さで決めた自宅は、日が沈む夕方まで、ほとんど電気をつけなくてもいいくらいだった。


 夜になれば、ベランダの近くの街灯がつくので、300円で買ったキャンドルに火をつけて、程よく明るい部屋で、ダラダラと休日を締めくくるにふさわしい映画選びをする。映画を見ることよりも、映画を探しているこの時間がとても楽しかった。引っ越しをする前に、「スマホで物件を探している時が一番楽しい」という、あの感覚だ。映画を見終われば、寝支度をして22時にはベッドに入る。何も特別な事があるわけではない休日だが、心は十分に満たされる。明日は千葉で、アイドルグループのコンサート会場の設営のバイトだ。お金は多くは持ってないし、仕事にやりがいがあるわけではないが、小さな幸せを感じる術を僕は知っている。しかし時々、不安に駆られる時もある。次の休日に待ってる小さな幸せのために、僕は眠りにつくことにした。

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