SUN&MOON|明かりと暮らし

 AM6:00。アラームの音で眠りから目を覚まし、体温で十分に温まった布団の中で、何度か寝返りを打った後、私は体をゆっくりと起こす。眠い目を擦りながら、真っ白なカーテンを開け、窓から差し込む日の光に目を細めながらも、日の光の当たる部分がジワジワと温まっていくのを感じながら、意識が鮮明になっていくのを待った。


 「窓から差し込む明かりで」とはいえ、それでも明かりの届かない場所は、白熱電球発明者ジョセフとエジソンに感謝して、電気という”明かり”を灯す。小さな電球が灯す”明かり”に照らされた洗面台で顔を洗い、まだ少し残る眠気と、今朝見たちょっと嫌な夢を一緒に洗い流す。濡れた顔をタオルで拭き取り、鏡の中の自分と目が合う頃には思考はクリアになり、窓から差し込む光もさっきよりも優しく感じた。


 家から歩いて8分。忙しない駅前を通り過ぎお気に入りの喫茶店に入る。ドアの上に取り付けられたベルが私の入店を知らせ、マスターがコーヒーをドリップしながら、こちらに優しい眼差しを向けてくれる。決して店内は広くないが、中央に置かれた共同の長テーブルにつき、コーヒーを頼む。向かいにはパソコンを開いたサラリーマンと、その隣にはスケジュール帳に予定を書き込む年配の女性がいる。私は胸ポケットから本を取り出し、頭上に垂れ下がるランプの”明かり”で読書を楽しみながら、コーヒーを待った。


 喫茶店を後にした私は、会う約束をしていた友人との有意義な時間を終えて、夕暮れの帰路につく。街ゆく人々の口元はマスクで隠され、表情は見えないが、すれ違う人々の一日はどうだったのか妄想に耽りながら歩く。家に着く頃には街灯の明かりも眩しく感じるようになっていた。帰宅して、夕食と入浴を終えた私は、残りわずかな日曜日をキャンドルと映画で過ごす事にし、マッチでキャンドルに火を灯す。電気を消すと映画のオープニングと、キャンドルに照らされたマグカップだけが私の目に飛び込む。感染者数を知らせるニュースも、仕事の小さな悩みもそこには存在しなかった。

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