シネマワーカーズ

@aechan_946

第1話 シネマワーカーズ

映画館。誰しもが足を運んだことがあるその施設には、沢山の人の思いと情熱、そして愛が詰まっている場所だ。


そんな輝かしく、憧れを持たれやすい映画館での業務は憧れられる程綺麗なものでは無い。

現に僕は今、次から次へとポップコーンを売り捌くロボットの様に頭を空にして働いた直後であった。


「うわ、今日のピークヤバすぎ!いくら土日でもありえないっしょコレ。」

「まあ、確かに流石に今日は異常だね〜」


僕がそう"いつもの様に"嘆くと、おっとりした口調で青柳さんが笑いながら労いに来てくれた。

よく考えると別に労われては無いな。


「いつもの事ですけどフードの人たち休みすぎじゃないですか??」

「まあもうそれはフードの伝統みたいなところだから…」


バイトを当日欠勤するのを当たり前にしないでくれ。

そう嘆こうとしたところで現状が変わらない、その言葉は溜息に変わり、蒸し暑いバックヤードのポップコーンの匂いと混ざっていった。


我々の働く映画館は大きく4つのセクションの分けられる。

スクリーン内の清掃を行う通称 "フロア"

上映中に食べる飲食物を販売する "フード"

事務所にて事務作業を行う "オフィス"

そしてチケット販売を行う通称 "ボックス"

と呼ばれる4つである。


紹介が遅れて申し訳ない。

僕はそんな職場で働く差がないフリーター

巽蔵人である。

チケット販売を行う、ボックス所属の入社3ヶ月目である。


華やかな映画館の仕事にちょっぴり憧れ、アルバイトを始めたものも想像よりは地味であった。


疲れの中にちょっとした充実感やはりコレは何とも言えない感覚ではあった。

そう物思いに耽っていた所、少し汗ばむユニフォームからはキャラメルの香りがした。


それは、物心がついた時から想像する華やかな映画館の香りだった。


「やっぱ、思い出補正効かねえな。臭えわ、コレ」


憧れは時として残酷である。

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