第5話「救世主現る!」



このままではエドワード様に唇を奪われてしまう……!


絶体絶命のそのとき……。


「そこまでよ!

 お姉様を離しなさい! この変態!!」


「エドワード、君にはがっかりしたよ!」


ガゼボの近くにある草むらからディアとお父様が現れた。


お父様の後ろには我が家で雇っている兵士が五人いた。


「衛兵!

 婚約者でもない女性に迫る変質者よ!

 捕らえなさい!」


ディアが兵士に命じる。


「承知いたしました!」


ディアの命を受けた兵士は、エドワード様を私から引き離すと、す巻きにして地面に転がした。


変質者とはいえ伯爵家の令息にあんな扱いをしていいのかしら?


「お姉様ご無事ですか?」


「シア、怪我はないか?」


お父様とディアが私に駆け寄ってくる。


「大丈夫ですわ。お父様、ディア。

 危ないところを助けてくれてありがとう」


私は二人にお礼を伝えた。


「それよりもお父様もディアもどうしてガゼボにいるのですか?」


「えっと……それは、その」


お父様とディアの目が泳いだ。


「私、ディアに謝らなくてはいけないことがあるの。

 エドワード様がこんな破廉恥な方だと知らず、ディアとエドワード様の婚約を結ぶようにお父様にお願いしてしまったわ」


エドワード様は女神フローラ様への信仰が薄く、花言葉の意味も知らず、女性に無理やり迫る変態だった。


一刻も早くディアとエドワード様の婚約を解消させなくては!


それでもディアが変わらずにエドワード様を愛していると言ったら……私は姉としてどうしたらいいの?


「そのことなら心配いりませんお姉様。

 わたしとコルベ伯爵令息は婚約しておりません」


「えっ? それはどういうこと?」


昨日までディアはエドワード様の事を「エド様」と愛称で呼んでいた。


なのにいきなりエドワード様のことを「コルベ伯爵令息」と家名で呼びだした。


ディアにどんな心境の変化が?


もしかしたらディアは、エドワード様の先ほど破廉恥な行いを見て彼に幻滅したのかもしれないわ。


「一カ月前、お姉様がコルベ伯爵令息との婚約解消するためにお父様の執務室を訪れた日。

 わたしもお父様の執務室を訪れたのです。

 お父様にあるお願いをするために」


確かにあの日、ディアは私と入れ違いにお父様の執務室に入って行った。


「ディアはお父様に何をお願いしたの?」


「お姉様とエドワード様の婚約を解消して欲しいとお願いしたのです」


「それは私もお父様にお願いしたわ。

 エドワード様とディアが相思相愛だから私は身を引こうと思って……」


「わたしがコルベ伯爵令息を好き?

 ありえませんわ。

 私がコルベ伯爵令息に好意を抱いたことは一度もありませんし、これからも好意を抱くことはありませんのでご安心下さい」


「それを聞いてホッとしたわ」


エドワード様が破廉恥な方だと分かったあともディアが彼を慕っていたら、姉としてどうしたらいいかわからなかったもの。


「でも待って、ディアはエドワード様を一度も好きになったことがないといったわね?

 ではなぜ今までエドワード様の事を『エド様』と愛称で呼んでいたの?

 エドワード様から七本のピンクの薔薇の花束を贈られて喜んでいたのはなぜ?」


てっきりディアはエドワード様の変態行為を見て心変わりしたのかと思っていました。


でもディアは以前からエドワード様に興味がなかったみたいです。


「その二つはわたしが仕組んだことですわ。

 エドワード様の信仰心とお人柄を確かめる為に」


「えっ??」


ディアから不穏な言葉が出てきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る