第4話 夢

 何一つない快晴の下、私は大きく息をする。


 少し体がむず痒い。

 それも些細なことだろうと、黒い海に体を任せる。


 ほうっと息を吐いた。

 火照った体が心地いい。

 前はもっと寒かった。今は暑いくらいだ。


 黒い海から飛び出して、その場をくるくる回り、何か話してみる。

 声は出るが、音は響かない。

 

 ここはそう言う場所だったと分かるまで、時間がかかった。



「さて、何をしましょうか」


 するべき事は、一周回って何もなく、どこまでも海が広がるだけだ。


 口の中で鈴を転がし、拳を作って肩を叩く。


 胸のあたりが膨らんで、ついでに髪がなくなった。

 私はそれに目を瞑り、暗い海を泳ぎ続ける。


 途端、体がズゥンと重くなった。


 忘れていた。

 私は、金槌だった。


 ぼこぼこと泡が吹き出し、視界が悪くなる。

 もがくほど息は苦しくなる。


 飲み込まれる。


 黒い海は濁流へと姿を変え、私を喰らい尽くしていった。



ビーピーピーピー


 機会の中で、目が覚める。

 どうやら私は、ゲームの中にいたらしい。


 月の光が鳥居に変わり、空は巨大な赤で満たされる。


 私は、ほうっと目を閉じる。

 今も、水が体に張り付く感覚がして、腕を擦った。


 悪い夢だと、そう思った。




 …私は、アレが夢だと、思いたかったのかもしれない。

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