第2話「ベルティーナ、調子はどうだい?」王太子視点




その後僕は玉座の間に呼ばれた。


玉座の間には父上と母上がいた。


父上と母上は僕が殴られたことにショックを受けているようだった。


父上は僕とベルティーナの婚約を破棄し、ベルティーナを一生塔に幽閉すると言っていたし、

母上はベルティーナの身分を剥奪し市民用の牢屋に入れるとか、処刑するとか喚いていた。


僕は両親をなだめ、ベルティーナとの婚約をそのままにしてもらった。


ベルティーナとの婚約は絶対に破棄させない!


あんな面白い子、他にいないからね!







両親を説得し、なんとかベルティーナを僕の婚約者のままにしてもらうことに成功した。


僕はベルティーナが入れられている貴族用の牢屋に向かった。


ベルティーナと二人きりで会いたかったけど、何人か護衛をつけられてしまった。


まあ、あんなことがあったあとだから仕方ない。


僕はもう一度ベルティーナに殴られたいんだけどな。


ガゼボで左の頬を殴ってもらったから、次は右の頬を殴ってもらいたいな。


なんて期待しながらベルティーナのいる部屋の扉を開ける。


貴族用の牢は、扉に中から開ける取っ手がついてないだけで来客用の部屋と同じ作りだ。


「やぁベルティーナ、調子はどうだい?」


僕がにこやかに笑いかけるとベルティーナは「ちっ」と舌打ちをし、蔑むような瞳で僕を睨んできた。


はぁ、そのゴミを見るような視線がたまらない!


僕の心臓がドキドキと音を立てる。


「私との婚約を継続するように両陛下におっしゃられたとか。

 私への気遣いはけっこうです。どんな罰でも受けます。

 どうか婚約を破棄して下さい、殿下」


誰かが僕と両親の会話をベルティーナに告げ口したらしい。


ベルティーナは、僕がベルティーナとの婚約を継続したいと両親にお願いしたことを知っていた。


「えっ!? 嫌だよ!

 せっかく父上と母上に頼んで君との婚約を継続させたのに!!」


「私は殿下に暴力を振るい暴言を吐きました。どうか処刑してください」


ベルティーナがそう言って頭を下げた。


「それは無理だ!

 僕は君に殴られた瞬間、君を好きになってしまったんだ!

 今までの人生でこんなに心臓がドキドキしたことはなかった!

 僕は君の右ストレートに惚れたんだ!

 僕を興奮させたのは君が初めてなんだ! お願いだからまた僕の頬を殴って、口汚く僕を罵ってくれ!」


話をしていたら鼻息が荒くなってしまった。


ベルティーナは僕の告白に困惑した顔をして、一歩後ろに下がった。


「はっ?! 殿下はマゾなんですか?」


ベルティーナに冷たい視線を向けられた。


その凍てつくような視線が僕の心臓を射抜く!


護衛がベルティーナを牽制しようと動いた。僕はそれを手で制した。


「僕は生まれたときから王太子になるのが決まっていた。

 今まで誰にも暴言を吐かれたことがなかった。

 だから顔合わせの席で婚約者に蔑んだ瞳で睨まれ、グーで殴られ、暴言を吐かれるなんて夢にも思わなかった。

 殴られたり蔑まれたり暴言を吐かれるのがこんなに心地よいことを知ってしまった!

 僕をこの性癖に目覚めさせたのは君だ!

 僕から離れることは許さない!

 責任を取って一生僕を罵ってくれ!」


「ちっ、最悪……!」


ベルティーナが舌打ちをし、ぼそっと呟いた。


ふわぁぁぁ……!! ベルティーナにまた舌打ちされた!


ベルティーナに虫けらを見るような目で睨まれてしまった!


最高だぁぁぁぁああ!!


「それだよ!

 その視線を待っていたんだ!

 心底憎いって目で睨まれるのも、嫌そうな顔で舌打ちされるのも凄く心地良い!

 癖になりそうだ!」


ベルティーナがドン引きしていたが、僕は気にしないことにした。


僕はベルティーナに近づき彼女の手をきゅっと握り、


「ベルティーナは僕のものだよ。

 絶対に放さないからね」


と言ってニッコリと微笑んだ。

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