「ループ三回目の悪役令嬢は過去世の恨みを込めて王太子をぶん殴る!」完結

まほりろ

第1話「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」王太子視点




――王太子視点――


「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」


「はっ?」


次の瞬間目の前の可憐な少女から右ストレートが繰り出された。







先日国王である父上から婚約者が決まったと言われた。


僕も今年で十歳だ、婚約者ができても不思議ではない。


婚約相手はルンゲ公爵家の長女で同い年のベルティーナ。


すぐに公爵令嬢との顔合わせの日時が決められた。


顔合わせの場所は王宮の一角にある、ガゼボだった。


僕がガゼボに行くと婚約者と婚約者の父親が先に来ていた。


ガゼボにいた少女は銀色の髪に紫の瞳、青のドレスを纏っていて、お人形のように綺麗な顔をしていた。


どうせ王太子の僕に媚を売る奴か、僕の見た目に惚れて「好きです」とか言ってくる奴なんだろ……つまんない。


婚約者の少女と話をする前から、容易に想像できる未来に僕は辟易していた。


「あとは若いお二人で」……と言って、公爵と僕の護衛が下がっていく。


「はじめまして、王太子のブロック・グラウンだ」


僕が名乗ると、少女は「お初にお目にかかります。ベルティーナ・ルンゲと申します」と名乗り優雅にカーテシーをした。


カーテシーのお手本みたいだな、さすが公爵令嬢、礼儀作法は完璧だ。


僕が相手の価値を見極めていると……。


次の瞬間、顔を上げた公爵令嬢にギロッと睨まれた。


「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」

公爵令嬢はそう言って、

「はっ?」

ぽかんとしている僕の左頬に右ストレートを食らわせた。


公爵令嬢に殴られ、僕は二メートルほど吹っ飛ばされた。


同い年の深窓の令嬢のパンチなんて、当たっても大したことないと思っていた。


なのに……なんだこの破壊力は??


なんて馬鹿力なんだ!


婚約者との初の顔合わせだからと、護衛を下がらせたのが仇となった。


「大丈夫ですか! 殿下!」


護衛の一人が僕に駆け寄ってくる。


「平気だ……」


右手を押さえ起き上がると、ベルティーナは護衛に拘束されていた。


「この金髪クソ野郎が! くたばれ!!」


ベルティーナはゴミを見るような目で僕を睨みつけ、憎まれ口を叩いた。


ベルティーナの言葉が胸に突き刺さる。


トクントクンと僕の心臓がせわしなく音を立てる。


なんだろうこの感覚は?


今まで味わったことのない感覚だ。


ベルティーナにもっと殴られたい、ベルティーナに汚いものを見る目で見られたい、ベルティーナにもっと口汚く罵られたい……!


僕の頭の中はベルティーナのことでいっぱいになった。


僕にこんな性癖があるなんて知らなかった。


「ベルティーナ・ルンゲ……面白い子だ」


護衛に連行されるベルティーナを見送りながら、僕はそうつぶやいていた。


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