第2話 ローブの救世主
記憶と共に涙が溢れていく。あんなに楽しかった日々が一瞬で消され、最期の瞬間だけが頭に焼き付いた。
「うっ……うっ」
――その時
「グヤルゥゥ!!」
「えっ……」
気づくと、蒼空の目の前に1匹の大きな獣が現れ牙をむいていた。角が左右と前に三本あり、現実のものではないとすぐに気づく。
その獣は縄張りにいるのを怒っていたが、彼女に伝わることは無いだろう。
「にげっ……いたっ!!」
咄嗟に足を動かしたためか、足首が変な方向に向かってしまい、悲鳴と共に倒れ込む。
「ガアアアアアッ」
(ダメだっ……本当にもう死ぬんだ。)
「もう嫌……ごめんなさいっ」
彼女は自分の無力差と、友達への後悔を抱えながら目をつぶった。
「――ビースタ ……雷撃(マヒット)」
「ギャフッッ!」
気がつけば、背後からタッタッタッと蒼空に向かって足音が聞こえてくる。
彼女が目を開けると、目の前にいた獣は黒焦げになっていた。全身をビリビリとさせながらバタリと倒れる。
「……大丈夫」
「うん」
黒いローブを纏った人は、その様子を見ると彼女を見ながらボソッと声をかけた。
蒼空の視界には、小さい背の人が見上げるように顔を覗き込んでいる。
隙間からみえる白髪に葵い瞳……その容姿をからもここは現実の世界ではないと確信する。
そして、ありえないほどの美しさに目を惹かれていた。
「も、帰った方が…いいよ」
「待って! ……帰るところもなにも分からない」
「え?」
蒼空の言葉に、戸惑うような仕草を見せていた。
「気づいたらここにいたの。ここはどこ?」
「……分かった。教えるから付いてきて」
その人は森をこえた先にある小さな小屋に蒼空を案内した。
「ありがとう。私は蒼空(そら)、あなたは?」
「……ルズ・パグジ。ルズでいいよ。」
ルズは手に炎を灯しランタンの中にいれると、次第に部屋全体が明るくなっていく。
「やっぱり……この世界は魔法があるの?」
「まほーお?」
人間が聞きなれたはずの「魔法」だが、ルズはその言葉を知らないような表情をしていた。
「えっとその。手で明るくしたやつ」
「……これは、バズって名前。この力があれば色々出来る。皆はほとんど使えないし、使えても言わない方がいい。」
「どうして?」
蒼空の純粋な質問に、ルズは戸惑いながら口を開く。
「最初は相手を苦しめるために使われた。使える人とは関わりたくないのが普通。」
「そうなの? でも、凄い力じゃん」
「……自分は勝手に使えてしまっただけ。嬉しくない。」
ルズはしょんぼりとしながら下を向いていた。しかし、蒼空は、よしっとルズの手を握りしめる。
「――!」
「でも、その力があったから私は助かったんだよ! 誰かを助ける力って凄いと思う! 自信持とうよ!」
「……」
「あっ……ごめん」
ルズが泣きそうになっているのをみて、蒼空はハッと手を離す。
「なんで……謝るの」
「えっ」
(だって、なんでも明るく接したから嫌われたんだ。明るく接するんじゃなくて空気を読まなきゃ)
脳内が何度も何度も友達の言葉を再生させる。蒼空は、苦しみながら自分を変えようと考えていた。
「別に嫌じゃない。」
「……じゃあ、なんで泣いているの?」
「誰かの手を触った事が無かったから。それに……私の力をそんな風に言う人なんて居なかった。……っ。」
頬を赤らめた事に気づくと、ローブを深く被りながら
「ありがとう」
「……っうん!」
蒼空にとっても、ルズの言葉は光のように暖かかった。
「願い……他の世界」
「うん。」
蒼空はこれまでの事を正直に話す事にした。ルズは話を聞いても疑わずに聞いてくれるし、何より信頼出来ると思ったからだ。
「じゃあ、ここは異世界」
「多分ね。」
ルズは、蒼空の話をまとめるようにしながら聞いていた。
「あと、ここは……どこなの?」
「
蒼空が外に出てみると確かに海があった。
そして、ものすごく遠くの方には明るい街のようなものがあり彼女は興味深く景色を見つめていた。
「まずは……街に行った方がいい。なにか分かるかも。」
「私の事も?」
ルズが知らないなら、他の人も知らないだろうと思いながらも問いかける。
「もう何年も行ってない。だから……自分はなにも分からない」
「そっか。」
確かに行ってみたらなにか分かるかもしれないと蒼空は思った。でも、ルズをここに置いてはいけない気がする。
「じゃあ、ルズも一緒に行こうよ!」
「え?」
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