第17話 あげては落とす!


 リサとシャノーレ。


「いいんですよ、トールくんは」

「これは自らを助るために頑張ったご褒美です」

 2人の手が僕の両肩と二の腕に触れる。凝りをほぐしてくれる。

マッサージだ。なかなか気持ちがいい。


「両掌は私たち姉妹が受け持ちますわ」

「あー、もっとリラックスしてほしい」

 猊下は兎に角、エミーが希望を口にするのは珍しい。

言われた通り、身体の力みを完全に抜く。


「太ももは私たちが担当するぞ」

「トールって意外と筋肉質やね」

 チャッチャとハーツ。おいおい、そこは際どいぞっ!


「ボクたちは足の裏を入念にほぐそうではないか」

「ふふふっ。硬いのですね、まるで木材のようです」

 シャルもエーヨも、ありがとう。

エーヨの気持ちはうれしいが、ほぐしているのは正真正銘の木材だったりする。


 8人がそれぞれに僕の身体をマッサージしてほぐしてくれる。

疲れた身体がどんどんと元気になる!


「8分。8分交代ですよっ!」

 キャスが必死に訴える。リズたちがうなずきながら8かけ4の列を作る。


 僕はみんなに弄ばれてばかりだけど、みんなも僕のことを考えてくれている。

それが確認できただけでも僕は幸せだ! 凝りがほぐれて、もっと幸せ!




 ひたすらに日光浴をしていたり、川で水を掛け合っていたり、

どこかから採ってきたスイカを叩き割っていたり、食べていたり。

過ごし方はそれぞれに違うが、みんなこの突発バカンスを楽しんでいる。

初夏の温暖な1日を切り取ったような陽光がまぶしい。

まったりのんびりではないけれど、こんな日があってもいい。


 全員に身体中の凝りをほぐしてもらった。

これで全力でまったりのんびりできるぞ!


「では、トールくん。今日、最後の仕事ですよ」

 というリサの言葉を聞いたとき、僕は理解した。

そうだった。このまま簡単に幸せでしたで終わるはずがない。

僕は一体、これから何をさせられるのか。どうせ、ロクなことじゃない。


「しっ、仕事……ですか……」

「はい。では、よろしくお願いしますね」

 リサから大量の資材を渡される。長い鉄の棒と大きな布だ。


「これって、テント?」

 どうしてテントが必要なんだ?

日はまだ高い。これから移動すれば次の村で宿を取ることができるはず。


「もう夕方の6時をまわっています。急いでくださいね、眠いので」

「あれれ? 結界を張っているから、時が止まっているんじゃないの?」

 現に、太陽はこんなに明るいし、高い。夕方の6時だなんて信じられない。


「止まってますよ、結界の中は。外は進んでますけどね……」

 なんてこった!


「……もう、ここで眠るしかないのですよ……」

 でしょうね。夜道は危ないし、村の宿に押しかけたら迷惑だ。


「……ですからテントを張ってくださいまし」

 言われた通りにするしかなさそうだ。




 どうしてこうなった?

僕はまったりのんびりしたいだけなのに。自分の身が情けない。

みんな思い思いの時間を過ごしている。みんながうらやましい。

まったりのんびりさえさせてもらえないなんて。


 アイラとヘレンとエミーが手伝ってくれるのが唯一の救いだ。

おかげでかなり捗った。よし、もう少しでまったりのんびりできるぞ!


「最後はトールご主人様にお任せします」

「そうですよーっ! ご主人様、よく頑張りましたもの」

「あー、眠るまでタオルを持ち歩いてくださいね」

「そうさせてもらうよ。ありがとう。タオル、なんで?」

 アイラに促されてテントの紐を結ぶ。これで完成!

エミーの言うことはいつもよく分からないが、とりあえず従う。


 テントが完成するやいなや、みんなが集まってくる。

中に入る。ちょっと狭いが、全員が入れないわけじゃない。

本来ならチャッチャの隊の数名が交代で警護の任に当たるところだが、

女神保障を継続してもらい、全員で寝ることにする。


「そうと決まったら、もう寝よう!」

 何気なく言った一言が反感を呼ぶ。キュア・ミアとリズ。


「ご主人様ったら、何言ってるの?」

「そうよ。アイラたちの身支度がまだでしょう」

「女の子はいろいろと大変なんですよ」

 本当は僕だっていろいろと大変だって言い返したい。

男が僕ひとりでは、誰も理解してくれないだろうから、言わないでおく。

もんもんとしていると、シャル、キャス、トーレ。


「どうでしょう。ご主人様もお身体を拭われたら」

「そうですよ、さっぱりしてきてくださいな」

「身だしなみはマナーの基本中の基本ですよ」

 言われた通りにさせてもらう。幸い、僕の手にはタオルがある。




 川に浸かり汗を流して、タオルで身体を拭いて、テントの前に戻る。

寝る時間だというのにこの明るさでは調子狂う。女神パワーも大概だ。

でも、みんなの勧めで身体を拭ってきてよかった。

おかげで身も心もきれいさっぱり安心して眠れる。


 みんなはもうテントの中。僕も入ると、その瞬間に違和感を覚える。

外から漏れる太陽の光に照らされたみんなは、普通に雑魚寝してるだけなのに。

その香りに圧倒されてしまう……こっ、これはっ、シャンプー香だ!

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