第14話 滝の上
そんなこんなで、全員にクリームを塗り終える。上流の瀞に移動する。
それでもまだ陽が高い。時が止まるのって、本当に便利だ。
時間を気にせずに過ごすことができる。
と、なるとーっ! することといえばアレだけだ!
シャルが枕を持っていたのを思い出し、川で泳いでいるシャルに言う。
「おーい、シャルーッ! 枕、貸してくれーっ」
枕は、まったりのんびりの良き相棒だ!
「それはそれは。全く気付きませんでした! 今、直ぐに」
シャルが僕のまったりのんびり好きを知ってて助かった。はなしが速い!
シャルは直ぐに川から上がり、木の枝にかけてあったタオルで手脚を拭く。
そしてシートを拡げ、その端に正座をする。
「お待たせいたしました。ご主人様、どうぞお使いください」
「えっ?」
「膝枕、ですよね!」
「いやっ……」
驚きだ! 普通の枕でいいのに、まさか膝枕してくれるとは!
驚きはそれだけではない。シャルが膝枕と口にした途端のこと。
シャルの背後に行列ができた。
「3分。3分交代よっ!」
と、列の先頭のキャスが興奮気味に言う。僕の承諾なしに、シャル。
「いいだろう」
こうして僕は……自分の意思とは関係なく、
3分という絶妙に不充分な時間でまったりのんびりを区切られることになった。
シャルに川の名はアブク川だと知らされる。最初は信じられなかった。
僕の記憶では、アブク川は王都から約500キロのところを流れている。
たった半日で移動できたのは、女神パワーのおかげだ。
膝枕はみんなの温もりややわらかさが感じられる、いいものだ。
でも、僕が望むのは、時間を気にせずにまったりのんびりすること。
折角、結界内の時間は止まっているのに、僕は忙しい。
僕が時間を気にせずにまったりのんびりする日は来るのだろうか……。
3分交代の膝枕は、僕の夢に混乱をきたす。
「……おー」「……いっ」「……トール」「……やーっ」
師匠に返事をする間もないし、断片的にしか聞けない。
「……テン」「……トに」「……は気を」「……付ける」「……んじゃぞーっ」
それでも師匠は自分のペースではなす。何となく意味が分かってしまう。
ここへきてのテントって、そんな心配、誰もしない。おかしな夢だ。
みんなの膝枕はとても気持ちがいい。あったかいし、やわらかい。
文句をつけるとしたら、気持ちいいのに直ぐ中断されることくらい。
僕は今、とてもリラックスしている。テントなんか張るはずがない!
中断は不満だが、全体的には満足のいく膝枕タイムが終了。
そのまま横たわる。今度こそ、本格的にひとりでまったりのんびりするぞーっ!
その刹那……ハーツがダイアナを引き連れてもじもじしながら近付いてくる。
「なぁ、トール。お願いなんやけど?」
聞いてたまるか。どうせロクなことじゃない。
気付かないふりをして、ハーツに背が向くよう身体をよじる。
「この格好やと、どうしても肩が凝ってしまうんや」
そんなの、僕の知ったこっちゃない。
僕はこうして横たわり、まったりのんびりするんだから。
「あまりにもコリコリなんで、国を傾けようって思うんやけど」
「ダメーッ! そんなことしたら絶対にダメーッ!」
言いながらよじった身体を戻し、ハーツに向き合う。
そこにいたのは、たわわな傾国の美少女! 目がマジだ。
「それやったらトール、うちの肩もんでぇな」
「そっ、そんなの、ダイアナに頼めばいいじゃないか」
ダイアナはハーツのメイドだ。
「あかんよ。ダイアナかて肩凝っとるんやから」
でしょうね。ダイアナの胸の大きさは、ハーツに負けていない。
「大変申し訳ございません。力が入らないのです」
力無くそう言うダイアナ。演技ではなさそうだ。
「し、しかたないな、もう。分かったよ……」
と、僕が言い終わるより先に、ダイアナの背後には行列ができていた。
「ひとり、5分!」
キャスが叫ぶように言った。
みんなの肩もみも終わり、次は何をしようか?
思いついたのは、更なるまったりのんびりへの探究!
なのに僕は、受動的な行動を余儀なくされる。
はなしかけてきたのはエーヨ。よく僕が分かったな。
「ふふふっ。ねぇ、トール。あの滝の上から飛び降りましょう」
見上げると、滝の落差は20メートル以上はありそうだ。
飛び降りるだと? 笑いながら何を言う、気でも狂ったか!
「そんなことしたら、怪我では済まないだろう!」
「ふふふっ。大丈夫ですよ。女神保障付きですから」
それは普通にしてればってこと。わざわざ怪我するようなことをしたら……。
確認のためリサを見る。翼を大きく拡げ、丸を作っている。
「だっ、大丈夫……なのか?」
「ふふふっ。やってみれば分かりますわっ!」
エーヨは言いながら滝の横の崖をよじ登る。その途中、何度も何かに謝る。
黒縁メガネを掛けているときは仏頂面で陰キャなエーヨなのに、
外すと陽キャで笑い上戸でドジっ子で、視力がアレだ。
「しかたない……」
エーヨの横に行く。左手でエーヨの右手を取り、一緒に崖をよじ登る。
任せていたのではいつになったらてっぺんに辿り着けるか分からない。
だったら、とっとと登らせて、飛び降りてもらった方がいい。
そのあとは今度こそ念願のまったりのんびりタイムだ!
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