第10話 まったりのんびりしたい。

 みんなの動きを見ていて、ふと思ったことがある。

ひーふーみー……やっぱり足りない!

アイラの手が空いたようなので、はなしてみる。


「キャスのやつ、こんな忙しいときにどこへ行ったんだ?」

 リサ様とシャノーレ様もいないが、それはいい。

猊下たちが何かを開発しているのも、怪しげではあるが想定の範囲内。

みんなが頑張っているのにキャスがここにいないのは納得できない。

西の館のメイドとして、失格だ!


「そういえばリサ様とシャノーレ様を率いて探検に出るって言ってました」

「キャ、キャスが女神様を率いているの?」

 あべこべではなかろうか。度胸がアレなキャスにしては大胆過ぎる。

女神を率いるだなんて、こっちがひいてしまう……。


 そんななか、3人が戻る。


「ご主人様、聞いてください! 大発見です!」

 キャスはいつもの新しいおもちゃを見つけた子供の目、ということもない。

至ってまじめに興奮している。


「この先に川遊びにはおあつらえむきの瀞があります!」

 と、リサ様がしゃべると、ふわっと風が起こる。

女神が興奮すると天変地異がおこると聞くが、本当のようだ。

興奮して神の力を抑えきれないだなんて、リサ様にも困ったものだ。


「食後にみんなで泳ぐにはちょうどいい感じよ!」

 シャノーレ様は笑顔ではあるが、興奮とまでは言い難い。

女神2柱はお荷物かと思ったが、この方だったら何柱いてもいい。


 泳ぐったって、水着とか何も用意していない。

さすがに全裸で泳ぐわけにもいかない。だって、リサ様とシャノーレ様は女神。

その強烈な裸体を見るだけで、僕は失明してしまう。リズでもすご過ぎるのに。

川遊びなんてもっての外だ。


「あー、猊下とトーレの共同開発を待ちましょう」

 割って入るエミーの言うことが、わけの分からないのはいつものこと。

待てば何かいいことがあると思える自分もいる。今まで何度も経験済みだ。

開発者が猊下なのは不安しかないのだけれど。


「とりあえず、川遊びは却下。3人ともアイラの指示を仰いで!」

 川遊びなんかに僕のまったりのんびりタイムの邪魔はさせない。

どれだけ時間をロスすると思ってるんだ。まだ旅の途中なのに。


 キャスたちがアイラの指示でキュア・ミアの応援に行く。

このままおとなしく仕事をしてほしいものだ。


 そう思っていると、今度は猊下たちが合流する。

また厄介ごとを持ち込むつもりか、あるいは、何かの開発が完了したのか。


「トール殿下。ついに開発に成功いたしました。見てくださいな」

 開発だったとよろこんではいられない。

エロい開発だったら結局は厄介ごとだ。


「あははははっ。今度は、一体、何を作ったんでしょうか?」

 猊下の開発はいつもエロい。今朝はいいむぎゅむぎゅができるブラジャー。

僕は危うく、テントの頭をむぎゅむぎゅされるところだった。忘れたい!


 それでもエミーの言葉が引っかかり、期待と不安がニーハチだ。


「水着です……」

 不安的中。どう考えてもエロいやつ。確定と言っていい。


「……人数分あるますよ。もちろん、トール殿下の分も」

「どんな水着……なんでしょうか……」

 おそるおそる聞いてみる。答えてくれたのはトーレ。


「私がデザインしました。縫合は他のみんなも手伝ってくれました」

 まともじゃん!


「ハーツ様にこのようなことをさせてしまい、申し訳ございません」

「えぇんよ、ダイアナ。指先が血だらけやけど、楽しかったで」

「うんうんっ! みんながよろこぶ顔を思い描いて頑張ったんだよ!」

 まともじゃん。至ってまともじゃん!

ハーツやリサが言うのを聞いてると、涙が出てくるよ。

開発がエロいのは確定だなんて言って、悪かった!

けど、川遊びなんかもっての外だ。


「でも、旅はまだはじまったばかり。浮かれてたらダメだろう!」

 僕のまったりのんびりタイムがなくなってしまう。絶対反対!


「そんなぁ……折角みんなに息抜きしてほしくて遊べる場所を探したのに」

 そう言ったのは、ひょっこり現れたキャス。涙目だ。

キャスがそこまで考えて探検に出ていたなら、悪いことを言ってしまった。

失格なのは、僕の方だ。本当に申し訳ない……。


 現れたのはキャスだけじゃない。

気が付けば、旅のメンバー全員が僕を囲んでいる。

まだ本を片手に持っている黒縁メガネのエーヨを除いて。


 僕は今、完全に取り囲まれている。

どうなってしまうのだろうかーっ!


「私たちが頑張ってるのに、労いも何もないなんて、非道いわ!」

「キュアの言う通りよ。折角の水着よ。ご主人様お願い!」

 仁王立ちのキュアとミア。周囲が合わせて首を縦に振る。

水を汲んだのに労ってくれなかったキュア・ミアが言うなーっ!

川遊びするのを禁じただけで、僕を悪者扱いするなーっ!


「しゅごいではにゃいか! かわいい水着ばかりなにょらぁーっ」

 よだれモードでチャッチャに言われても、正直困る。

だけど周囲は激しく同意している。


「あー、水着があればリサ様とシャノーレ様を見ても平気」

 もちろん周囲の同意は激しい。

エミーの言う通り、本当は何も心配ない。みんなが楽しみにしている。

まったりのんびりタイムが減るだって? そんなの、僕のエゴだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る