第9話 やっぱりアイラは!

 川辺に着き、2頭に水をたっぷり飲ませる。

その間に水を汲み、ペカリンたちに背負わせる。


 戻る途中、メイとアースたち猫谷組御一行とすれ違う。

4人はおそろいの長い棒を肩にかけている。


「アース、それは何? わざわざ持ってきたの?」

「釣竿なのじゃ。たった今作ったのじゃ」

 即席ながら木の枝から糸を垂らし針を括り付けた本格的な釣竿だ。

さすが職人集団! 道具の製作にかけての腕はたしかだ。


「たくさん釣ってくるのじゃーっ!」

 釣りの腕がたしかかどうかは分からない。期待しないで待とう。


 茂みの影で猊下とトーレが何やら開発に勤しんでいる。

ハーツとダイアナとリズがそれに付き合わされている。

また怪しげなものを作っているのだろうかと思っていると、

ひとり馬車に残っていたエミーが顔を出す。


「あー、トールご主人様もこれで安心です」

 一体、何が? ひっかかるけど有効な説明が返ってくる可能性はゼロ。

聞くだけヤボだから聞かないことにする。


 馬車の前に戻る。大鍋に水を汲み入れる。


「ありがとう。ペカリン、サバダバ!」

「あなたたちがいて本当に助かったわ」

 キュア・ミアに労われたのは2頭だけ。

僕だって、水を汲んだりバケツを固定したり、いろいろ頑張ったのに!

少しは労ってくれてもいいじゃないか! つい、2頭に嫉妬してしまう。


 ヘレンの火起こしも終わり、あとは湯が沸いてから料理するのみ。

2頭をシャルたちに預ければ、まったりのんびりできそう!

とは、ならない。最後の大仕事、エミーの手伝いだ。


「あー、クロスは用意してあります」

「クロス……だと?」


「あー、あとは引っ張ってまわして押すだけ。外して倒してありますので」

 意味が分からない。聞けば馬車の壁を変形させて、テーブルにするらしい。

変形の間、ずっと壁板を支えなくてはならない。それが女性には大変らしい。

数人掛でやれば済むんじゃないの? と思わなくもないが……。

キュア・ミアがこちらを向いているのが見える。


「よしっ、まかせなさい!」

 絶対にキュア・ミアに労ってもらうぞーっ!


 壁と天井、壁と柱を固定する金具が外されている。

壁がぱたりと90度倒されて地面と平行になっている。

これだけでも立派なテーブルといえる。

ただし、長方形の長い辺が馬車と接していて、勝手が悪い。

座れる人数が限られてしまう。


「このあとは引っ張ってまわして押すんだったな」

 と、エミーの言ったことを思い出して壁だった板を動かすことにする。


 まずは板を平行に引っ張る。思ったよりも軽い手応えで動く。

しばらくするとカチッという音がして、何かに引っかかってしまう。

これ以上引っ張っても動かないようだ。


 そっとまわしてみると、小さい力でも簡単に動く。

カチッのときに回転盤にでも乗っかったんだろう。

90度回転させたところで、またカチッという音を聞く。

何かの合図だろうか?


 今度はそっと押してみる。板がスーッと動く。予想通りだ!

最初から、そういうふうにできているんだ。


(よしっ、コツを掴んだぞ!)

 長方形の短辺を馬車にくっつける。これで長い辺を有効に利用できる。

僕が板を支えている間にキュア・ミアが柱を立てる。もう手を離しても大丈夫!

エミーがバサーッとクロスを敷く。ダイニングテーブルの出来上がりだ。


「あー、今度は反対の壁……」

「……取り外してここに持ってくるのね」

「4人でやっちゃいましょう!」

「望むところだーっ!」

 4人で力を合わせて、さらに2台目のテーブルも準備する。


「よしっ! 完成だ」

「すごいわ。20人は座れるんじゃない!」

「こんな仕掛けがあるだなんて、王様もやるわね!」

 パンッ、パンッ、パーンと、みんなでハイタッチをする。

労ってはもらえなかったけど、完成のよろこびを共有することができた。

とてもいい体験をした。


「あー、あとは料理を作って並べて、食べるだけ」

 そのあとに、まったりのんびりのおまけがつけば、言うことはない。




  アイラたちが森から戻ってくる。大量のフルーツやキノコを携えている。

アースの釣果も大漁と言っていい。豪華な食事を期待してもよさそうだ。

みんなで頑張った甲斐がある。


 チャッチャたちが戻る。エーヨも読書を中断する。

これからみんなで料理に取り掛かる。


 その場を仕切るアイラの指示は的確で、みんな迷わずに作業している。

みんなの様子を、アイラと一緒に見てまわる。

アイラはその都度細かい指示も忘れない。


「この果物は甘い汁が出ます。溢さないよう皿の上でカットしてください」

「アイラって頭いい。でもミア、だからってわざとたくさん汁を出さない!」

「そんなつもりじゃないのよ。キュアったら意地悪なんだからぁーっ!」

 大きいフルーツがどんどん小さくカットされていく。

その代わり、ジュースは大量だ!


「順番に火に近付けては離します。魚を全部同時に焼き上げるイメージですよ」

「口で言うより難しいのじゃ。12階建てのビル建設の方が簡単なのじゃ」

「ふふっ。そんなこと言うの、アースさんくらいですよ」

 アースとメイは釣りから帰って以来、すっかり仲良しだ。


「アイラ殿、このキノコは干すと旨味が出るので今日は食べずに保存しよう」

「こちらは油で炒めるといい香りと聞く。汁物に添えてはどうだろうか」

「近衛騎馬隊のみなさん、さすがです! そのまま作業を続けてください」

 アイラにおだてられたサイン・コサインたちは、人一倍頑張っている。


 米を炊くチャッチャとエーヨにもしっかりアドバイス。アイラはすごい!

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