第3話 状況整理

 不穏だ、不穏過ぎる。今の状況を整理するのがちょっと怖い。

でも、今のうちに整理しておかないと、もっと酷いことに巻き込まれたとき、

対応を誤ってしまう可能性が高くなる。状況を整理しておいた方が安心だ。


 まず、僕は今、ヘレンにむぎゅむぎゅされている。いいむぎゅむぎゅだ。

それもそのはずで、ヘレンはブラジャーを着けていない。

布1枚だけに隔てられた、イソフラボーンなヘレンの胸がある。


 そして、僕のいるベッドの右側にいるのが最高司祭猊下。

猊下はおそらく、新しく開発したブラジャーを手にしている。

さっきするすると布の擦れる音がしたときに取り出したのだろう。

それは水色で、アンダーが55で、Iカップだ! ヘレンにピッタリサイズ!


 ヘレンははじめ、ブラジャーの着用をイヤがっていた。

しかし次第に、着用してもいいかもと思いはじめている。


 ここまでの状況整理ができると、ちょうど猊下による説明が続く。


「ボタンは貴重な虹色二枚貝を職人が丁寧に研磨!」

 巷ではやりの部品と聞く。さすがは流行に敏感な猊下だ!


「猊下。ボタンを外されましたな、ついにボタンを、外されましたなぁーっ!」

 ヘレン、今、なんて? 猊下が何をしたって言ったんだ?

ボタンを外した……だと! 2回も繰り返すなんて、大事なことなのか?


 考えられる状況は2つ。


 猊下の手にあるブラはキレイにたたまれていて、ボタンも留められていた。

これから装着するという段階の今、猊下がボタンを外した、という状況。


 そして、もう1つ考えられる状況は……。いや、まさか。そんなはずはない。

猊下が今まで着けていたブラのボタンを外しただなんて、あり得ない。


 と、すると、やはりこれから装着するということだろう。

ヘレンがおとなしく装着するとは思えないけど……。


「ではヘレン。早速おためししてくださいな」

 あれっ? もしこれからヘレンがブラを装着するなら、

僅かの隙にヘレンの胸が見えてしまうかもしれない。

いっ、いいのか? そんなことになって……。


「いっ、いいんですかーっ! 猊下が自らおためしなさらなくて」

 猊下が自らおためし……だと? もしこれから猊下がブラを装着するなら、

僅かの隙に見えてしまうのは、猊下の胸ってことになる。

ヤバいよ、ヤバい。ヤバ過ぎるって!

っていうより、猊下は今、どんな格好しているんだ?


「私は、戒律によりトール殿下に触れることはできません」

 そうだった。厳しいハーカルス教の戒律。

聖女は、救助救難目的以外で異性の身体に触れることは禁止されている。

それが神との約束らしい。


 と、いうことは……猊下がこの場でブラを装着することはない。

ついつい、胸がポロリなんてこともない。

ほっと安心したような、がっかりしたような、複雑だ。


「いいんですね! 猊下のおさがりをいただいてーっ!」

 おさがり……だと? ヘレンは今、たしかにそう言った。

それってつまり、猊下が今まで着けていたブラをヘレンに渡してるってこと?

ヘレン、そんなに身体を小刻みに揺するなよ。

いくら興奮してるからって、やめろよーっ!


「ええ。今直ぐにおためしするなら、さっきまで私が使っていたこれをどうぞ」

 確定だーっ! 猊下は今、ノーブラで間違いない。ヤバい、ヤバ過ぎる!

さっきのするすると布の擦れる音は、猊下が法衣を脱ぐ音だったのか!


「分かりました。このヘレン、猊下のおさがり、大切にします!」

 言うなり、胸を僕の顔面から退かす。久しぶりの新鮮な空気だ。

一瞬ヘレンを仰ぎ見て思うのは絶景ということ。ナイスなローアングルだ。

それがちょっと前までは僕の顔面の上にあったと思うと、恥ずかしい。


 でも、それ以上に恥ずかしいことがある。

もし僕が今、ほんのちょっとでも右側を見てしまったら、見えるかもしれない。

猊下のおっ……男の夢が詰まった生の胸がっ! ヤバい。ヤバ過ぎる!


 見るな。見るな見るな。見るな見るな見るなーっ!

そんなの覗き、犯罪じゃないか。絶対に右を見てはダメだーっ!

ついうっかり見てしまったなら、単なるラッキースケベだけど……。

猊下の生の胸があると気付いてしまった僕が、右を見るのは絶対にダメ。


 はっ! しっ、しまった! 気付かなきゃよかった!

状況整理なんてしなれば、不可抗力で猊下の生乳……生の胸が拝めたかも!

もしかすると、僕は……人生最大のラッキースケベを不意にしたのかもしれない。


 そんなことを考えていると、頭に血が昇ってくる。熱い。身体中が熱い!

ヘレンにむぎゅむぎゅされていたときは、顔面だけが熱かった。

でも今は、身体中のいたるところが熱を帯びている!


「あーっ!」

 っと叫んだあと、耐えきれなくなった僕は、そのまま気を失った。




 気絶しているなか、またもや耳元に声……師匠だ!

あの夢の続きが観れる! ムフフな女子とのひととき! だったらうれしい!

僕の人生に最高のラッキースケベは訪れなかったけれど、

せめて最高の夢くらいなら、見てもバチは当たらないだろう。


「起きるんじゃーっ。今日は起きるのが早いんじゃーっ!」

「そうですね。今日にもリーフ島へ出発します!」

 起きたら、猊下に西の館の改修工事の安全祈願をしてもらう。

そのあとは、まったりのんびりとリーフ島への旅をする。

そんな平凡な、ごく普通のことを、僕はしたいと望んでいる。

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