第2話 猊下とヘレン

 激痛の正体は、ヘレンのペチペチ。


 本当は直ぐにでも起き上がって、ガツンと叱りつけたいところ。

けど、下から仰ぎ見るヘレンの出来上がった身体に圧倒され、何も言えない。


 なんとか身体を横に傾けて、ヘレンに言う。


「おはようヘレン。起こしてくれるのはうれしいけど、ペチペチはやめてくれ」

「分かりました。ではやはり、むぎゅむぎゅがいいでしょうか?」

 むぎゅむぎゅ……危険な香りのする言葉だ。


「一応訊いてみるが、むぎゅむぎゅとはどういう起こし方なの?」

 訊くだけ訊いて危険そうなら実演は拒否するつもりだったが、甘かった。

ヘレンは見た目はいいけど行動がアレだってこと、忘れていた。


 即断即決で断る隙も与えず、いきなり実演するヘレン。


「はい。こうして、こうするのです!」

 ヘレンの発する言葉はそれだけ。直ぐに僕の姿勢を整える。

そしておもむろに僕の顔面に胸を乗せる。体重をかけてくる。

こっ、これがむぎゅむぎゅ! 顔面を狙うなんて、想像以上だ……。

ヘレンは見た目はいいけど行動がエロい。エロ過ぎる……。


 ヘレンのむぎゅむぎゅはしっとりとやわらかく、密着度がすごい。

それ故に機密性も高く……くっ苦しい……息ができない……。

誰か、助けてくれーっ! と、叫びたいけどヘレンの胸が邪魔で叫べない。


「ですが、むぎゅむぎゅは親しいもの同士でしかいたしませんの」

 でしょうね。普通の関係で、これはない。


「私、孤児院では1番上手って、猊下に褒められたこともあるんですよ」

 アレな行動を自慢されても困るばかりだ。悪気がないから何も言えない。

まぁ、そもそも顔面ごと口を塞がれて、しゃべれないんだけど。


「本当に素晴らしいむぎゅむぎゅですわ。いつ見ても惚れ惚れします!」

 誰の声? まさか……もし、僕の想像通りの人なら、助けてはくれまい。


「わぁーいっ! また猊下に褒められたーっ!」

 やっぱりだ。助けを期待するどころか、身の危険を感じてしまう。

でも、どうしてここにいつも忙しい猊下がいるんだ?


「もう直ぐ安全祈願がはじまるというのに、寝ている主人とは大違いね……」

 そうだった。今日は朝から西の館の改修工事の安全祈願をする日だった。

安全祈願のためにハーカルス教の司祭を招く手筈になっているのは知ってた。

けど、まさかいつも忙しい最高司祭猊下がお越しとは知らなかった。

早く起きなきゃいけないのに、ヘレンが邪魔で起きれない……。


「ヘレンはとても発育がいいので、今後はブラをつけるといいですよ」

 つけてないの! ってことは布1枚隔てて……どうりでやわらかいわけだ!

11歳とはいえこの身体。けしからん。実にけしからん。


「でも猊下、私にブラジャーはまだ早いですよ」

 ヘレン。そんなことはないぞ、そんなことは。

このやわらかい感触と甘酸っぱい香りがその証拠だ。

ヘレンはとっととブラジャーをつけるべき!


「まぁ、ヘレンったら。レディーのたしなみに早い遅いはありません」

 耳に入る猊下の冷静な言いまわしが、唯一僕を冷静にしてくれる。

いつもはアレな開発で、僕を悶絶させてばかりの猊下なのに。

さすがは、王国随一の聖女様だ。


「でも猊下。それではいいむぎゅむぎゅができません」

 いいむぎゅむぎゅって、何! どういう基準?


「心配無用です。昨晩、いいむぎゅむぎゅができるブラジャーを開発しました」

 おい、猊下ーっ。なんてものを開発したんだ。

猊下は見た目は大陸一の美少女なのに、開発がエロい。エロ過ぎる……。

僕はいつも猊下の開発したものに悩まされている。


 それでも僕は、猊下を求めてしまう。会いたい、一目だけでも見たいと思う。

でも今は、ヘレンの胸が邪魔で、猊下のご尊顔を拝めない。


 するすると布の擦れる音がする。続けて、猊下がブラの詳細を説明する。

ヘレンは、はじめはおとなしく聞いているだけだった。


「ノンワイヤーでしっかりホールドするタイプです」

 ハミ肉を許さない構造ってやつか。


「通気性・吸湿性にとても優れています」

 蒸れないから快適って、使用者の感想にありがちだ。


「アンダーは55から2.5センチ刻みで9段階。ちなみにこれは55」

 アンダーとか、よく知らないし、分かんない。

カップはどうなんだ、カップは!


 このあたりから、ヘレンがリアクションするようになる。

興奮を隠せない様子でしゃべるわ、身体を小刻みに揺するわ。


「55! 私にピッタリじゃないですか!」

 へぇーっ。ま、どーでもいいけど。


「カップもAAからKと充実。ちなみにこれはI」

「すごい! それも私にピッタリですよ」

 うっほぉーっ。こいつはちょいと気になる、かなぁ……。


「カラーバリエーションも豊富な28色。ちなみにこれは水色」

「かっ、かわいい! 私のイメージカラーでもありますし!」

 どうでもいいがヘレン、さっきからしゃべる度に身体を揺するのやめてくれ。

やわらかいから痛くはないんだけど、ひたすらに顔が熱くなるよ。


 もう、興奮のるつぼだーっ! っと言いたいが。

猊下の冷静な声色が僕をクールに引き留めてくれる。

ヘレンの胸の向こう側では、どんなロマンが繰り広げられているのだろうか。

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