西の館の第3王子はモテ期が来てもラブコメしないでまったりのんびりしたい
世界三大〇〇
第1話 朝の夢
西の館の主人となって、あっという間に1週間が過ぎた。
充実した日々を送るなか、1つだけ心残りなことがある。
それは……まる1日まったりのんびり過ごせた日がないことだ。
メイドを連れて遠乗りすれば、怪我をした挙句イヤな異名で呼ばれる。
買い物しようと街まで出かければ、メイドが財布を忘れ散々な目にあう。
メイドとピクニックに行けば、軍服の麗嬢チャッチャに勝負を挑まれる。
この1週間、僕はメイドに翻弄されっぱなしだ。
お陰で夢を見ないほどぐっすり眠れる夜が続いた。
けど、この日は少し違った。久し振りの夢の世界。ここは、どこだろう?
__
青く遠浅の海がどこまでも続く。弓形に広がる白の砂浜は肌理が細かい。
渚で水をかけ合う人、スイカ割りを楽しむ人、際どい水着で日光浴を楽しむ人。
行列の先の露店では魚介やトウモロコシが醤油ベースで焼かれて芳ばしい。
夢だって分かってるけど、わくわくが止まらない。ずっとここに居たい!
いつもより1オクターブ高いしわがれ声が僕を呼ぶ。
「おーいっ。トールやーっ、トールやーっ!」
西の館の主人となって以来、僕はこの声に何度も救われている。
「はい、トールです。おはようございます」
「早く来るのじゃーっ! リーフ島へ来るのじゃーっ……」
リーフ島は数日前に僕の領地になった。けど僕はまだ行ったことがない。
目の前に拡がる光景はリーフ島だろうか。だったらうれしい!
「……自然豊かでベリベリグーなリゾートアイランドじゃぞーっ……」
それは素晴らしい! と言いたいが、本当は楽しみ半分、不安半分。
はじめて手に入れた領地の民の暮らし向きを僕は全く知らない。
そもそも、領民が僕を受け入れてくれる保証はどこにもない。
いや、しかし。リゾートアイランドと聞いては、心躍らずにはいられない。
もしかすると僕がまったりのんびりできる場所があるかも知れない。
素晴らしい領地じゃないかーっ!
「……ムフフな女子がいっぱいじゃぞーっ!」
まっ、マジっすか?
「師匠!」
めっちゃ興奮して、声の主を思わず師匠と呼んでしまう。
視察だから、遊びに行くわけではないけど、僕にだって休日は必要。
たまにはビーチでまったりのんびりする日があってもいい……。
僕がビーチでまったりのんびりしていると、波打ち際から少女が駆け寄る。
あの11歳とは思えないできあがった身体は、新人メイドのヘレンだ。
おいおい、そんなに走るから、胸がぼいんぼいん弾んでるぞっ!
けしからん、つい目で追ってしまうよ。際どい水着なのも、けしからん!
ヘレンが幼くしてできあがった身体をしているのには理由がある。
ヘレンの育ての親であり、大陸一の美少女と謳われる最高司祭猊下。
猊下が開発した大豆由来成分のイソフラボーンの効果だ!
毎日コップ1杯のイソフラボーンを飲んでそれなりの運動をすると、
誰でもボンキュッボンな身体になる。最高じゃないかーっ!
ヘレンを先頭にして、ムフフな女子の行列ができあがる。
みんなして僕に日焼け止めを塗るようにとせがんでいるのだ。
おっ……おいおい、そんな際どい水着、はしたないぞ。やめるんだ。
それに僕はまったりのんびりするのに忙しいんだーっ!
けどしかたない、これも主人の務め。いっちょ塗ってやるか!
小さい背中を2人3人と順に摩る。どれも反則級につるつるすべすべだ!
それに、このかすかに鼻をかすめる香り。一体、なんだろう?
焼きトウモロコシや日焼け止めに混ざりながらも、穏やかに主張する香りは……。
シャッ、シャンプーだーっ! 童貞を殺す、シャンプー香だーっ!
僕はもう、鼻の穴を膨らませずにはいられない! 大興奮だーっ!
順番を待ちきれずに横入りしてくるのは……さっ、最高司祭猊下!
すらりと伸びる細い手足にナイスなボディー。
薄いがぷるっぷるの唇の両端にはえくぼがくっきり。
少し垂れた大きな瞳が大人の余裕を醸し出し、僕と同い歳なのを忘れさせる。
いけません、いけませんぞ。そんなはしたないこと!
でも、大陸一の美少女と謳われる猊下がどうしてここにいるんだ?
忙しくって滅多にお目にかかれない。前に会ったのは3ヶ月も前のこと。
ま、夢だからなんでもありか。
そんな猊下が僕の耳元で吐息混じりに言う。
『早くしてください。トール殿下、私にも塗ってくださいましーっ』
丁寧な口調にして、なんて甘え上手なんだ。
でも、僕には猊下に触れることができない。
正確には、猊下は男との身体の接触を戒律によって禁止されている。
それなのに猊下からリクエストをいただくなんて!
戒律を破ってまで僕を求めるなんて、そんなことって……。
ある! だってこれは夢だもの。夢の中ではなんでもありじゃないか!
いーや、ダメだ。横入りなんていうズルを許すわけにはいかない!
『猊下、順番ですよ順番。並んでください』
と、僕が男らしく言うと、さすがの猊下も渋々ながら列につく。
案外と聞き分けのいい子だ。あとでトロピカルなドリンクをご馳走しよう!
そんな妄想の途中、おでこに激痛が走り、目を覚ます。
「ご主人様、おはようございます。いいえ、おそようですよ!」
そう言って僕のおでこをペチペチ叩いているのは、ヘレンだった。
夢の中とは、態度がまるで違う……これが現実というものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます