祠の話 2
昔々よ、この辺一帯がまだそんなに開拓されてない時のことだよ。にいちゃんもここまで車できたからわかるだろうけどよ、ここは高速道路のインターを降りてから何十分も走ってこないといけねぇ場所なわけよ。それも途中からは山道ばっかりの道を進んでこなきゃいけねぇ。途中に道の駅があるけどさ、そっから先の道なんて、本当に山道だっただろ? ご先祖様達はよくこんな山奥に住もうと思ったと俺は思うけども、そこは平家の落人がここに流れ着いたとか、そういう話ももちろんあるわけで。本当かどうかはしんねぇよ。でもよ、確かにこの村の女の人は綺麗な人が多いって昔から言われてたわ。ま、うちの母ちゃんはこの村出身じゃないけどさ。あはは。そんなことは置いといてだわな。
それでよ。ある年、ものすごい日照りでただでさえ少ない作物が取れなくなっちまって。それが何年も何年も続いたわけよ。その当時は村っつっても、山道進んだ先に部落があって、その部落が山ん中に転々といくつかあったんだと思うんだけど。
村々の長老達が集まって話し合いをしたわけよ。そしたらよ、その中のひとりの長老がこう言い出したわけよ。
「神様のお怒りを鎮めるためには捧げ物をしないといけない」
で、よくある話なんだけど生贄を用意するって話になったわけ。でもよ、誰もそんな生贄なんてなりたくねぇじゃねぇか。そこでまた話し合いになった結果、この辺りで一番美しい生娘を差し出すってことになったわけ。え? ありがちですねって? だろ? ありがちってことはさ、あながち間違ってない選択ってことだと思うわけだわ。で、選ばれた娘は山奥にその当時あった、神楽・田楽を奉納するための舞台の上で舞を舞ってから小さな洞穴の中に入ってよ、その入り口を塞いじまった。それで次の日に見にいくと、なんと着ていた真っ白な着物だけがそこにあって、娘の姿が消えていたんだと。まぁ、そんな話なんだけどよ。
でもよ、そしたらそれまで日照り続きだったのが一気に雨が降り出してよ。なんと、本当に恵みの雨で飢饉が救われたんだってよ。だから毎年、一番美しい娘が同じように山神様に捧げられるようになったんだとか。
でもよ、ここからが本題なんだけどさ。ある年に生贄に選ばれた娘の親が、どうしても娘を助けたくて醜いお面を持たせたんだと。その娘はその醜いお面をつけて洞穴に入ってさ、なんと次の日見にいくと、みるも無残な姿で死んでいて、その顔は娘の母親がもたせた醜いお面そのものだったということだ。
え? その年は雨が降ったのかって? もちろん降ったさ。だってよ、考えてみたらわかるだろ? 本当にそんな捧げ物で雨が降ったり降らなかったりするのかって。今だってそうじゃねぇか。ものすごい豪雨に土砂崩れ。それが全部全部祟りだって誰も思わないだろ? ただ、昔の人はそういうことを信じてた。それだけのことなんだよ。可哀想な話だよ。
でもよ、その年、その生贄になった娘の村では奇病が流行ってな。それがさ、その醜いお面のように皮膚が真っ黒になってボロボロと剥がれ落ちてしまう流行病なのか、なんなのか。それでよ、別の村のもんが「あんな醜いお面を娘に持たせるから山神様がお怒りになったんだ」とかなんとか言ってよ、その村をみんな燃やしちまったんだと。そうさ、もちろん、皆殺しだよ。ひどいことするもんだよ。
でもよ、あの醜いお面だけは煤もつかず焼け残ってたんだっていう話。だからその村があった場所には小さな祠を建てて、その醜いお面を祀ってるってわけさ。
どうだい? やっぱり祟りってやつは、神様が何らかの形でこの世に現れることを意味するなんて思わねぇよな。だってよ。それからまだ先の祟りがおこったっていうんだから。
おっと、この話は昔話でも昔話になんねぇから俺からは話すことなんてできないわ。すまねぇな。おいおい、そんな顔するなよ。俺だって昔々の話まではできるけどもよ。さすがに、まだ生きてる人がいる時代の話はできねぇよ。だってよ、ほら、インターネットに流れちまったら、もう二度と消すことはできねぇんだろ?
なに? ああ、そういうのをデジタルタツーっていうんだって? へぇ。タツーね。タツーなんてかっこよく言っても要は刺青だろ? そうか、でも、二度と消すことができない刺青って意味か。ははは。うまいこと言うもんだ。それくらいネットは怖いってことだな。
さてと。悪りぃなにいちゃん。どうだ、こんな昔話聞きに東京から来たなんてやっぱり損した気分かい? そうか。それならよかった。何度も言うけどよ、誰に聞いたとか、どこの村の話だとか、そう言うのは内緒にしてくれよ。そんでもって、もしもその動画ができたらさ、よかったら俺にも教えてくれな。といってもネットなんてちんぷんかんぷんだから見れねぇか。あはははは。じゃあ気が向いたらデーブイデーでもなんでもいいから焼いて、俺宛に送ってくれな。ああ。そうそう、この森林組合宛の住所でいいからさ。
おっと、いけね。みんなが戻ってきた音が聞こえたわ。じゃあ、俺は仕事に戻るから、くれぐれも秘密は守ってくれな。おう、帰りは山道きぃつけて運転せえよ。
ええか。くれぐれも、秘密は秘密にしてネットのタツーに残さんようにな。ほいじゃ、話はここまでで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます