無明の闇夜に
和響
プロローグ
祠の話 1
その
——祟り。
祟りってやつは本当は恐ろしい呪いのようなことを指す言葉じゃなくってよ、もともとは神様が何らかの形でこの世に現れることを意味してたらしいじゃねぇか。だとしたら、あの祠に祀ってあるものは神様だって言うのかねぇ。にいちゃんはどう思うよ? 今から話す昔話を聞いても、神様だって思うかい?
ああ。いいよ。あの祠にまつわる昔話を聞かせてやるよ。だってほら、にいちゃんはその為にわざわざこんな山奥までやってきたんだろうからさ。
ただ、この話はこの村の中でも話しちゃなんねぇ昔話みたいなものになってるからさ。その辺はほら、上手にうまくさ。わかるだろ? どこの村のどこにある祠なのかとか、誰から聞いた話なのかとか、そう言うところをちゃちゃっと上手に誤魔化してくれよ。そういうのはさ、お得意なんだろ? なんつったっけ。ユー、ユーチューバだっけ。最近の若い子が見てるあれだろ? 俺はまぁ、見ないわ。母ちゃんも俺もインターネットってやってねぇから。娘も孫も一緒に住んでない夫婦二人きりの我が家にはインターネットなんてものはねぇんだわ。
え? スマホ持ってないのかって? あはははは! 持ってねぇ持ってねぇ。そんな高等なもの持っていても使えねぇじゃしょうがねぇじゃねぇか。ほら、いまだにこれだよ。ガラケーって言うんだろ? 組合の若いもんがまだガラケーなんですかって聞くもんだから覚えちまったわ。電話もかけれるし、防災の案内もちゃんとメールでくるし、べっつに不便なことなんてなんにもねぇんだわ。
おっといけねぇ。話がずれちまったな。にいちゃんも東京へ帰る時間があるんだろ? それにしてもほんとよくこんな山奥まであるかないかもわかんねぇ祠を探しに来るもんだよ、全く。だけどもよ、俺は絶対その祠の場所は教えることはできねぇんだわ。もしそれで誰かがその祠に近づいてまた祟りや災いが起きたらよ、俺にもとばっちりが来そうでよ。それだけはごめんなんだわ。
は? それじゃあ取材にならねぇって? でもよ、最初からそう言う話だったじゃねぇか。ああ、ダメだダメだ。場所を教えちまうなんてできねぇ。そこはよ、にいちゃん、無理だわ。他をあたってくれと言っても、この村じゃあ誰もその祠のことを話す奴なんていねぇよ。大体よぉ、二十年近くも前の事件を調べててこの村にたどり着いたんだろ? まぁ、あの事件は事件かどうかもわかんねぇし、祠が関係してるかもわかんねぇけどよ。災いってもんはこっちから呼び寄せない限り降って湧いてはこねぇんだと俺は思ってるからさ。
だから絶対に祠の場所は教えれねぇし、俺が話せるのは、その祠にまつわる昔話だけだわ。それでたりねぇって言うならさ、この、なんつったっけ? へ? ああ、都市伝説って言ってたな。その伝説っていうのの話、別の話にしたほうがいいんじゃねぇか? 時間の無駄ってもんだわ。
じゃあその昔話だけでいいですよだって?
ああ。そうしてくれ。それなら俺も話ができるってもんだわ。せっかくこんな場所まで何時間もかけてきたんだから、俺も何かしてやりてぇって思ってるからさ。ただし、俺から聞いたとか、どこの村の話だとかっていうのはさっきも言ったように、内緒にしてくれなきゃなんねぇよ。そこはよろしく頼んだわ。本当、森林組合に電話してきてちょうど電話に出たのが俺でよかったよ。じゃなきゃ誰も祠の話なんてしないだろうから。本当は俺だって話したくはないけどもさ。それにしても、あんな事件か事故かわかんねぇところからよく祠のことを調べたもんだわ。
インターネットつうヤツは何年経ってもそういう変な情報が消えないもんなんだな。だってよ、にいちゃん、その事件ただの水難事故かもしれないんだぜ? そこに居合わせたやつが昔々に書いた日記だっけ? ぶ、ブログ、な。そうそう、そう言ってたな。そのブログのコピーだかなんだかがまだ残ってたってことだろ? そこからよくもまぁ見つけたもんだわ。しかし、いつまで経っても書いたものが消えねぇなんて、すげぇ世の中になったもんだ。
いいか、にいちゃん。
俺が話したってこと、この村の話だってこと、絶対に秘密にしてくれよ。いつまでも消えないなんて、怖ぇじゃねぇか。もしもそんなことがこの村の爺さん婆さん達に知られたら、俺の家村八分にされちまうかもしれねぇからさ。
おっといけねぇ。
もう直ぐ組合の奴らが戻ってきちまう。
そんな長い話じゃねぇから、さっさと話ちまうわ。勿体ぶって悪かったな。あ、お茶がもう空っぽだわ。ちょっと待ってて。いいよいいよ、気にしなくって。俺も喉が乾いたんだわ。直ぐに戻ってくるからよ。そいじゃ、戻ってきたら話をするとするわ。
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